「横ばい」の中に潜む「質の変化」
2025年、マスコミ四媒体(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)の合計広告費は 2兆2,980億円(前年比98.4%)。
デジタル広告が総広告費の過半数(50.2%)を初めて超えたこの年、四媒体は前年割れとなりました。
しかし「縮小」の一言で片づけるのは早計です。
テレビメディア関連動画広告(TVerなどのCTV)が 805億円(前年比123.3%) という突出した伸びを見せているように、マスメディアは「中身が変わっている」段階に入っています。
「マスが縮む時代」ではなく、「マスが変態(へんたい)する時代」。それが2025年の実態です。
四媒体それぞれの「現在地」
一口に「四媒体」と言っても、2025年の数字は媒体ごとにまったく異なる表情を見せています。
テレビ(1兆7,556億円 / 前年比99.7%)
四媒体の76%超を占める最大媒体。地上波テレビ(1兆6,333億円)は前年並みを維持しましたが、注目すべきはデジタル側の動き。TVerなどのCTV経由の動画広告が805億円(前年比123.3%)と2年連続で高成長を記録しており、「テレビ」が受像機を超えてスクリーン全体に広がっていることを示しています。
新聞(3,136億円 / 前年比91.8%)
前年比8.2%減と、四媒体の中で最も落ち込みが大きい媒体。世界情勢の不透明感や円安による物価高が出稿意欲を押し下げ、万博・世界陸上などの大型イベントもプラスに転じるには至りませんでした。ただし、全国紙への出稿が持つ「掲載されたという事実の信頼性」は依然として独自の価値を保っています。
雑誌(1,135億円 / 前年比96.3%)
紙の雑誌推定販売額が前年比90.0%と縮小する中、広告費も減少。一方で出版社のコンテンツ制作力やファンベースマーケティングへの関心は高まっており、読者イベントや販促ツール制作といったリアル回帰の動きも出始めています。
ラジオ(1,153億円 / 前年比99.2%)
四媒体中で最も安定した推移。地上波の広告費は微減(前年比99.2%)ながら、ラジオデジタル(radiko等)は38億円(前年比111.8%)と二桁成長。ポッドキャスト文化との親和性も高く、デジタルオーディオ広告への新規出稿も増加しています。
デジタル広告の「不信」が、マスの価値を再定義した
現在、デジタル広告の世界は「質の空洞化」という深刻な課題に直面しています。
ボットによる不正クリック(アドフラウド)、広告収益だけを目的とした中身の薄いサイト(MFA: Made for Advertising)に誰でも出稿できる「自由さ」は、同時に「不信」の温床でもあります。
こうした環境の中で、掲載審査が厳格なマスメディアへの広告出稿は「情報の出所の信頼性」として独自の価値を持ちます。
「あの番組で取り上げられていた」「この新聞に掲載されていた」
それは、ユーザーが無意識に抱く「このブランドは本物か?」という疑問への、最も強力な回答になります。
デジタルが「量」を担う時代だからこそ、マスは「質の保証」として際立つのです。
デジタル広告の成果を「底上げ」するマスの力
マスメディア投資の真の価値は、それ単体での獲得効率にあるのではありません。
デジタル広告全体のパフォーマンスを底上げする 「信頼のレバレッジ効果」 こそが、現代のマスの本質的な価値です。
テレビで見かけたブランドをユーザーが後日検索したとき、同じブランドの検索連動型広告はクリックされやすくなり、LP(ランディングページ)に到達した後の「怪しいかも」という感情的な離脱も減少します。
これは広告業界では「マス×デジタルのシナジー効果」として現場でも体感されているものです。
つまりマスへの投資は、デジタルという「獲得のエンジン」を高速・高効率に回すための 高品質な燃料 です。マス単体の費用対効果だけで評価するのは、エンジンオイルの価値をエンジンなしで測るようなもの。メディアプランの評価軸そのものを見直す必要があります。
まとめ:マスは「信用のインフラ」へと再生する
2025年の数字が示したのは、マスメディアが「広さの媒体」から 「信用のインフラ」 へとポジションを変えつつある姿です。
四媒体の総量は微減していても、その役割は「認知の取得」から「ブランドへの信頼の醸成」へと深化しています。
しかし、ここで一つの問いが生まれます。
「デジタルとマスが複雑に絡み合い、AIが運用を支配するこの時代、このマーケティング全体を一体誰がコントロールするのか?」
次章・最終回。広告主と代理店の、新しい関係性の正体を総括します。

