広告代理店で働いていると、一度は「自分も独立できるのではないか」と考える瞬間があります。
クライアントと直接やり取りしている。媒体社ともつながりがある。企画書も書ける。見積もりも作れる。制作会社や協力会社も知っている。
営業から制作進行まで一通り経験していれば、「会社を辞めても何とかなるのではないか」と思うのは自然です。
私自身も広告代理店での勤務を経て独立し、その後15年以上にわたって事業を続けてきました。
そして、独立後の15年間で、広告代理店や広告業界から独立した多くの人も見てきました。
その中で、独立前の想定と現実の違いに苦しむ人には、いくつか共通する誤算があることを発見しました。
特に目立つのが、次の三つです。
- 会社の看板による信用を、自分個人の信用だと思ってしまう
- 人脈があれば、自然に売上が生まれると思ってしまう
- 広告の知識があれば、事業を続けられると思ってしまう
独立後に見てきた人たちの経験と、自分自身が15年以上事業を続ける中で感じた現実をもとに、広告代理店から独立する前に知っておきたい三つの誤算を整理します。
誤算1|会社の看板による信用を、自分の信用だと思ってしまう
広告代理店から独立した人を見てきた中で、最初に大きな違いを感じやすいのが、会社の看板による信用です。
会社員時代は、クライアントが自分個人を頼ってくれているように見えます。
打ち合わせで意見を求められ、企画を相談され、会食にも呼ばれます。自分自身が高く評価されていると感じる場面もあるでしょう。
もちろん、担当者個人の能力や人柄が評価されている部分もあります。
しかし、取引の土台には、所属企業の実績、資本力、与信、契約体制、情報管理、過去の取引関係があります。
独立後に思ったような発注を得られない人の中には、この会社の信用と個人の信用を、独立前に十分切り分けられていなかったケースがあります。
誤算2|人脈があれば、自然に売上になると思ってしまう
独立を考えている広告業界の人から、「人脈はあるので仕事には困らないと思う」という話を聞くことがあります。
確かに、広告代理店で長く働けば、クライアント、媒体社、制作会社、印刷会社、映像会社など、多くの人と知り合います。
しかし、私がこれまで見てきた限り、人脈の多さと独立後の売上は、必ずしも比例しません。
名刺交換をしたことがある、会食をしたことがある、以前一緒に仕事をしたことがあるという関係と、実際に予算を出して発注してくれる関係は別だからです。
サラリーマン時代に取引していた相手の多くは、サラリーマンです。
広告予算を多く持つ企業の担当者もサラリーマンです。
このようなサラリーマンは、いくら付き合いが長くても、独立した個人に仕事を発注することは非常に難しいのです。
様々なリスクを考えるようになります。
独立前は「独立後も応援するよ」と言っていてもそうはなりません。
これは、肝に銘じなければいけません。
誤算3|広告の知識があれば、事業を続けられると思ってしまう
広告代理店で十分な経験を積んだ人ほど、独立後の広告実務には自信を持っています。
媒体知識、企画力、営業力、制作進行、プレゼンテーションなどは、確かに独立後も重要です。
しかし、独立した人を見ていると、広告の仕事ができないことよりも、広告以外の仕事を軽く見ていたことが経営上の問題になるケースがあります。
広告の知識や営業力が十分にあっても、契約、請求、入金管理、資金繰り、税務、外注管理まで含めて回せなければ、事業として長く続けることはできません。
つまり、広告業界から独立した人たちを長年見ていると、能力が不足していたから失敗したというより、独立前の想定と独立後の現実が違っていたことで苦しくなった人が少なくありません。
その違いを事前に知っているだけでも、独立後の判断は変わります。
まとめ|広告代理店から独立するなら、看板ではなく信用を作る
広告代理店から独立した人を15年以上見てきた中で、独立後に苦しくなる人には、次の三つの誤算があると感じています。
- 会社の看板による信用を、自分個人の信用だと思ってしまう
- 人脈があれば、自然に売上になると思ってしまう
- 広告の知識があれば、事業を続けられると思ってしまう
これは、すべての独立者に同じことが起きるという話ではありません。
しかし、独立後に思うような仕事を得られなかった人や、仕事はあっても事業として続けられなかった人を見ると、この三つのどれかを独立前に見誤っていたケースが少なくありません。
独立後に問われるのは、過去の勤務先や派手な肩書きだけではありません。
小さな仕事にも丁寧に対応し、契約と入金を管理し、相談されたときに具体的な答えを返し、継続して任せてもらえるかどうかです。
広告代理店から独立するときに必要なのは、
会社の看板を自分の信用と錯覚しないことです。
会社名がなくても相談される専門性と、
仕事を継続できる仕組みを作る必要があります。
独立は自由になる選択であると同時に、仕事と生活の責任を自分で引き受ける選択でもあります。
自分は会社の看板がなくても選ばれるのか。人とのつながりを具体的な相談へ変えられるのか。広告以外の仕事も含めて事業を管理できるのか。
独立前にこの三つを確認しておくことが、長く事業を続けるための現実的な準備になります。

