広告代理店の営業では、提案内容や広告運用の知識だけでなく、「この会社なら安心して任せられる」と感じてもらえる信頼関係が重要です。
特に新規開拓では、初回から自社の商品や実績を強く売り込んでも、相手に警戒されることがあります。
提案内容が悪くなくても、まだ信頼関係がない段階では、案件化まで進まないことも少なくありません。
そこで有効になるのが、見返りを急がず、相手に役立つ情報や視点を先に提供する「ギブ&ギブ戦略」です。
競合の動向、広告の改善点、参考になりそうな事例などを先に渡すことで、単なる売り込みでは作れない信頼を積み重ねていきます。
ただし、誰に対しても無制限に与え続ければよいわけではありません。
価値提供と無料対応を区別し、どこまで提供し、どこで見切るかまで決めておく必要があります。
広告代理店の営業でギブ&ギブ戦略が有効な理由
広告代理店の営業は、完成した商品をそのまま販売する仕事とは異なります。
クライアントごとに異なる課題を把握し、商品、顧客、予算、競合、社内体制などを踏まえて、広告や販促の方法を考える必要があります。
そのためクライアントは、広告媒体の価格や制作実績だけでなく、自社の課題を理解し、一緒に考えてくれる相手かを見ています。
初回接触から「発注してください」と迫る営業よりも、「まずは判断に役立つ情報をお渡しします」という姿勢の方が、相手に受け入れられやすくなります。
例えば、次のような情報です。
- 競合企業が最近行っている広告施策
- 現在のWebサイトやLPで気になる点
- SNSや広告クリエイティブの改善案
- 同じ業界で参考になる広告事例
- 広告を始める前に整理した方がよい課題
短い情報でも、相手が「自社のことを考えてくれている」と感じれば、営業担当者や広告代理店に対する見え方は変わります。
広告代理店の営業では、提案書を出した瞬間だけでなく、その前後の行動も評価されています。
ギブ&テイクではなく、なぜギブ&ギブなのか
ビジネスでは「ギブ&テイク」という言葉がよく使われます。
しかし、新規営業で価値を提供したからといって、すぐに発注や紹介が返ってくるとは限りません。
広告予算がまだ確定していない、社内の優先順位が低い、担当者が情報収集を始めたばかりなど、相手にもさまざまな事情があります。
一度情報を提供した直後に見返りを求めると、相手には「結局、契約させるための情報だった」と見えてしまうことがあります。
ギブ&ギブ戦略では、目先の回収を急がず、役立つ価値を複数回積み上げます。
今すぐ案件にならなくても、相手の中に「広告の相談をするなら、この会社」という候補として残れば、数か月後や別の案件で声がかかる可能性があります。
つまり、ギブ&ギブは単なる善意ではありません。将来の相談、提案、受注につながる信頼への先行投資です。
広告代理店で実践できるギブ&ギブ戦略
ギブ&ギブ戦略といっても、無料で大規模な調査や企画を行う必要はありません。
重要なのは、相手が「この情報は役に立った」「話を聞いてよかった」と感じる小さな価値を、無理のない範囲で渡すことです。
市場や競合の簡易情報を共有する
相手の業界や競合企業について、短い調査結果を共有します。
例えば、「競合3社がどの媒体を使っているか」「最近どのような訴求が増えているか」「競合サイトで目立つ導線は何か」といった内容です。
完璧な市場調査レポートを作る必要はありません。相手が自社の現状を考えるきっかけになる情報であれば、十分に価値があります。
Webサイトや広告の改善点を数点示す
広告やWebサイトを確認し、改善できそうな点を2~3点に絞って伝えます。
- 広告の訴求とリンク先の内容が一致していない
- 問い合わせボタンが見つけにくい
- 商品の違いが最初の画面で伝わらない
- 企業側の説明が多く、利用者の利点が見えにくい
具体的な視点を一つ見せるだけでも、相手は「この代理店へ相談すると、何が変わるのか」を想像しやすくなります。
ノウハウを出し惜しみしない
広告運用、SNS、クリエイティブ、集客導線など、自社が持っている知見を適切に共有します。
「広告配信の前に申込条件を整理した方がよい」「現在の内容ではターゲットが広すぎる」など、商談中に気づいたことを率直に伝えるだけでも価値になります。
考え方を一部伝えたからといって、相手がすべてを自社だけで実行できるとは限りません。むしろ、視点を見せることで、代理店の専門性が伝わります。
関連する事例や情報を継続的に送る
商談後に、相手の課題と関係する事例やニュースを送る方法もあります。
ただし、情報を大量に転送するだけでは意味がありません。
「今回のお話に近い事例だったので共有します」「この部分が参考になるかもしれません」と、相手にとっての意味を一言添えることが重要です。
失注後も関係を切らない
提案が採用されなかったとしても、内容そのものを否定されたとは限りません。
予算、時期、社内事情、既存取引先との関係などによって見送られることもあります。
失注後に関係を完全に切るのではなく、数か月後に関連情報を送る、状況が変わった時期に短く連絡するなど、負担にならない範囲で接点を残します。
広告代理店の営業では、一度失注した企業から別案件の相談を受けることもあります。
価値提供と無料対応は何が違うのか
ギブ&ギブ戦略を実践する際、必ず区別しなければならないのが、価値提供と無料対応です。
価値提供は、相手の課題整理や意思決定を前に進めるために、こちらの判断で限定的な情報を渡すことです。
一方、無料対応は、相手の依頼に合わせて作業を繰り返し、こちらの工数だけが増えている状態です。
| 項目 | 価値提供 | 無料対応 |
|---|---|---|
| 目的 | 相手の判断や課題整理を前進させる | 相手の要望に応じて作業を続ける |
| 内容 | 簡易分析、課題仮説、改善視点の共有 | 詳細資料、完成案、複数パターンの制作 |
| 主導権 | 代理店側が提供範囲を決める | 相手の依頼に合わせて範囲が広がる |
| 商談の状態 | 質問や次回打ち合わせにつながる | 反応が薄いまま資料だけ増える |
例えば、初回商談後に改善点を3つまとめて送るのは価値提供です。
しかし、決裁者も予算も見えない状態で、詳細な企画書を何度も修正し、見積もりを複数パターン作り続けるなら、無料対応に近づいています。
ギブ&ギブは「何でも無料でやる」という意味ではありません。
相手の役に立つ価値を先に出しながら、自社の時間と専門性も守る営業戦略です。
ギブ&ギブ戦略で損をしない見切り基準
価値提供は重要ですが、すべての見込み客へ同じ工数をかけてはいけません。
提供後の反応を見ながら、追加の価値を出す相手と、一度距離を置く相手を分ける必要があります。
情報を送っても反応がない
情報や提案を送っても返信がなく、感想や質問もなく、次回の日程調整にも進まない場合は、優先度を下げます。
相手が忙しい可能性はありますが、現時点では広告案件の優先順位が低いと考えられます。
何度も重い資料を作るのではなく、一定期間を空けて軽い情報提供に切り替える方が合理的です。
決裁者や検討体制が見えない
担当者との関係がよくても、最終的に意思決定する人へ話が届かなければ、案件は動きません。
次のような内容を、会話の中で確認しておきます。
- 広告を検討している理由
- 実施を希望する時期
- 予算の決定方法
- 社内で判断する人
- 現在比較している選択肢
決裁者に直接会えなくても、担当者がどのように社内を動かすのかが見えれば、提案の進め方を判断できます。
価値提供を続けても次の行動がない
一度の価値提供で即受注になることは多くありません。
しかし、複数回情報を提供しても、追加ヒアリング、次回商談、決裁者同席など、具体的な行動につながらない場合は注意が必要です。
それ以上詳細な提案を作る前に、相手の検討状況を確認します。
比較材料として情報だけ集めている
広告代理店の営業では、すでに発注先が決まっていて、価格比較や社内説明のために情報だけを求められることがあります。
次のような場合は、比較材料として利用されている可能性があります。
- 質問は多いが、自社の課題や予算を開示しない
- 提案内容より価格だけを細かく確認する
- 実施時期や決裁方法を明らかにしない
- 次の打ち合わせや具体的な行動を約束しない
相手からどれだけ質問されたかだけでなく、相手がこちらへどれだけ判断材料を返しているかも確認する必要があります。
見切りを判断する3つの基準
- 価値提供に対する反応があるか
- 決裁者や検討体制が見えているか
- 次の具体的な行動につながっているか
ギブ&ギブ戦略が向いている相手
ギブ&ギブ戦略は、どの見込み客にも同じように使える方法ではありません。
| 向いている相手 | 工数を抑えるべき相手 |
|---|---|
| 情報提供に感想や質問を返してくれる | 何度情報を渡しても反応がない |
| 自社の課題をある程度開示してくれる | 情報だけ求め、自社の状況を話さない |
| 価格だけでなく提案内容も検討している | 最初から価格比較だけを目的としている |
| 決裁者や検討手順が見えている | 誰が何を判断するのか分からない |
| 次の打ち合わせや行動へ進む意思がある | 検討すると言いながら行動がない |
価値を理解し、何らかの反応を返してくれる相手には、追加の情報提供が信頼関係につながります。
一方、無反応な相手や情報だけを集めている相手へ同じ工数を使えば、ギブ&ギブではなく、単なる消耗になります。
広告代理店の営業で今日から実践する方法
ギブ&ギブ戦略は、大がかりな仕組みを作らなくても始められます。
相手に渡せる気づきを一つ用意する
初回接触や商談の前に、相手に役立ちそうな気づきを一つだけ準備します。
競合の動き、Webサイトの改善点、広告表現、SNSの使い方など、内容は小さくても構いません。
最初から重い提案を作らない
初回から詳細な提案書や複数のクリエイティブを作るのではなく、課題仮説や改善の方向性を数点に絞ります。
相手の反応を確認してから、必要な部分を深掘りした方が、提案の精度も上がります。
価値提供後の反応を記録する
何を提供し、相手がどこに反応したのかを記録します。
反応が強かった部分は、相手が本当に気にしている課題である可能性があります。
反応がない場合は、課題設定がずれているか、案件の優先順位が低いと判断できます。
次の行動を一つだけ提案する
情報を送って終わるのではなく、次の小さな行動を提案します。
- 30分だけ状況を詳しく聞く
- 決裁者を含めて一度話す
- 必要な数字や資料を共有してもらう
- 対象商品を一つに絞って簡易案を作る
相手が次の行動に応じるかどうかによって、温度感を確認できます。
ギブ&ギブ営業の実践チェックリスト
- 初回接触前に、相手へ渡せる気づきを一つ用意する
- 簡易分析や課題仮説は数点に絞る
- 無料で作り込む範囲を事前に決める
- 提供後の反応と次の行動を確認する
- 決裁者、予算、検討時期を把握する
- 反応がなければ、追加工数をかけず一度距離を置く
まとめ|先に与えるが、与え続けない
広告代理店の新規営業では、最初から売り込むよりも、先に役立つ情報や視点を提供した方が、信頼関係を作りやすくなります。
市場や競合の簡易情報、広告の改善点、関連事例など、小さな価値でも、相手が「自社のことを考えてくれている」と感じれば、その代理店は相談相手として記憶に残ります。
ただし、ギブ&ギブは無制限の無料対応ではありません。
反応があるか、検討体制が見えているか、次の行動へ進んでいるかを確認し、追加で価値を提供する相手を選ぶ必要があります。
先に価値を与える。しかし、反応のない相手へ与え続けない。
この二つを同時に実践することが、広告代理店のギブ&ギブ営業を受注につなげるポイントです。
新規開拓に行き詰まりを感じているなら、次の商談で、売り込む前に相手へ役立つ気づきを一つ渡してみてください。
失注した後も、ギブ&ギブの姿勢は活用できる
提案が採用されなかったからといって、相手企業との関係まで終わったわけではありません。売り込みを繰り返すのではなく、役立つ情報を届けながら適切な距離で接点を残すことで、別案件や再相談につながる可能性があります。具体的な連絡内容や距離の取り方は、広告代理店の失注後フォロー|次の相談につなげる接点の残し方で詳しく解説しています。

