JOAAとは何か?OOH指標共通化の背景と狙い
2025年9月、「日本OOHメジャメント協会(JOAA)」が13社の参画によって設立されました。
目的は、OOH(屋外広告)の効果を“共通の指標”で測定できるようにすること。これまで各社バラバラだった評価方法を統一し、比較可能なデータインフラを整備しようという動きです。
実は、広告業界では、このような動きはチョクチョクあります。
OOH業界でも過去にも複数回、同様の「共通指標策定」の動きがありました。
部門トップの交代や人事異動が契機となることが多く、継続性に乏しいケースが殆どです。
今回のJOAA設立も、その背景に深い洞察があるかは不明ですが、もし本気で進める意図があるなら「コロナ禍で人流変化を客観的に示せず回復が遅れた」という日本市場の反省があったのかもしれません。
一つだけ確かなのは、デジタル化が標準となった広告市場において、OOHも明確な指標提示を求められているということです。
誰が“標準”を決めているのか?JOAA構成とパワーバランス
JOAA参画企業には、電通・博報堂・ADKといった大手代理店に加え、JR東日本企画や東急エージェンシーなどの鉄道系媒体主、さらにLIVE BOARDやビデオリサーチなどの専門プレイヤーが名を連ねます。
- 代理店大手(電通・博報堂):市場寡占と仲介機能の維持がインセンティブ。
- 鉄道系媒体:首都圏の主要枠を独占し、売り手側の影響力を強化。
- 独立・専門系企業:市場全体の価値向上に注力。
- LIVE BOARD:プログラマティックDOOH推進の中心。
- ビデオリサーチ:方法論的なお墨付きを与える存在。
一見バランスが取れているように見えますが、実態としては売り手(媒体社)主導の色が濃く、「広告主の声が中枢に届いていない」という構造的課題を内包しています。
なぜ指標が必要とされるのか
OOH広告はデジタル広告と比べ、定量的な効果測定が難しいとされてきました。
従来は「やらないよりはマシ」といった感覚的な投資判断が主流でしたが、近年は予算効率化の圧力が高まり、明確なデータ裏付けが求められるようになっています。
DOOH市場は今後も年平均成長率10%以上で拡大が予測されており、広告主は従来のデジタル広告と同様に、リーチ・フリークエンシー・属性などの指標をDOOHにも期待するようになっています。
これに応えられなければ、OOH広告は「リスクの高い投資」として敬遠される恐れがあるのです。
成否を分ける条件:三者構成と透明性
国際的な成功事例(GeopathやRoute)に共通するのは、次の2点です:
- 三者構成のガバナンス(広告主・広告会社・媒体社が対等)
- 徹底した透明性(方法論・資金・議事録の公開と監査)
しかしJOAAは、理事長にJR東日本企画の社長、副理事長に電通・博報堂・エムシードゥコーの役員が就任しており、売り手側に偏った構造です。
広告主の代表であるJAA理事は中枢の意思決定には関与しておらず、「自分たちに都合の良い指標」が策定されるリスクを制度的に含んでいます。
このままでは「自己利益を優先する標準」が既成事実化し、“不透明な基準”が業界を独り歩きするという危険があります。
広告主・代理店が確認すべき5つの視点
このような状況で、広告主や代理店が注意すべき観点は次の5点です:
- 指標の定義と計測方法
- 「視認可能性」や「接触時間」の基準は明確か?
- 同一人物が何度通ったかをどうカウントしているか?
- データソースの偏りと補正方法
- どのモバイルデータを使用しているか?(特定キャリア偏重の懸念)
- 年齢層やOSの偏りをどう補正しているか?
- 第三者監査の有無と範囲
- 外部の独立した監査機関が関与しているか?
- JOAA内部だけで完結していないか?
- 指標とビジネス成果との関連性
- 広告接触が売上・来店・申込にどう結びつくかを示せているか?
- 実地検証や統計モデルによる説明があるか?
- 国際基準との整合性
- GeopathやRouteと互換性があるか?
- 海外の広告主に通用するか?
二段構えの検証が鍵
JOAAが提供する指標はあくまで“比較用の共通目安”です。真に重要なのは、それが自社の成果と連動しているかを自ら検証することです。
例えば:
- 地域ごとに広告を出す/出さないを比較(A/Bテスト)
- 期間ごとに実施/非実施で比較
こうした工夫により、効果の有無を“差分”で把握できます。大手でなくとも、代理店や調査会社と連携すれば簡易検証は可能です。
結論|“標準化”に潜むリスクと向き合う
JOAA設立はOOH業界の前進であると同時に、広告業界が抱える構造的な課題を浮き彫りにしています。
つまり、一部の大手企業が標準を決め、「他は従うだろう」という前提で進む構図。このままでは広告主や中小関係者が不利益を被る可能性があります。
そのために必要なのは:
- 大手・中小・地域企業が平等に議論できる場の確保
- 第三者機関による継続的な監査と透明化
- 設立初期からの広範な公募と参加促進
こうした環境が整って初めて、“真の業界標準”が成立するのです。一部の大手が決めた基準をそのまま信じることなく、しっかりと、その背景を検証することは非常に大切なのです。

