広告代理店の倒産が増える5つの原因|生き残る会社の条件【2026年版】

広告代理店倒産リスク

日本の広告費は過去最高を更新しています。

それでも、広告代理店や広告制作会社の倒産は増えています。

広告需要そのものが消えたわけではありません。

変わったのは、広告費が流れる場所と、クライアントから価値を認められる仕事です。

とくに厳しいのが、ポスター、チラシ、パンフレットなどの制作を中心としてきた小規模な広告制作会社です。東京商工リサーチによると、2025年度4~1月の広告制作業の倒産は39件に達し、2016年度以降の同期間で最多となりました。

この記事では、広告市場が成長しているのになぜ倒産が増えるのか、5つの原因と生き残る会社の条件を整理します。

本記事は、広告代理店の倒産・再編・生き残り戦略シリーズの第1話です。

広告費は過去最高なのに、なぜ倒産が増えるのか

電通の「2025年 日本の広告費」によると、日本の総広告費は8兆623億円となり、4年連続で過去最高を更新しました。

一方で、すべての広告会社に同じように仕事と利益が増えたわけではありません。

広告市場 2025年 前年比 読み取れること
日本の総広告費 8兆623億円 105.1% 市場全体は成長している
インターネット広告費 4兆459億円 110.8% 初の4兆円超え。総広告費の50.2%を占める
マスコミ四媒体広告費 2兆2,980億円 98.4% テレビ、新聞、雑誌、ラジオの合計は前年を下回る
プロモーションメディア広告費 1兆7,184億円 102.0% 大型イベントなどの影響で成長

市場全体の成長率だけを見ると、広告会社も一律に成長しているように見えます。

しかし実際には、増えた広告費の多くが、インターネット広告、動画、SNS、データ活用などへ向かっています。

広告市場の拡大と、個々の広告代理店・制作会社の業績は同じではありません。成長分野を扱える会社と、従来型の仕事に依存する会社の差が広がっています。

広告制作業の倒産は3年連続で増加

倒産件数の変化を正確に比較するため、ここでは調査対象と集計期間を統一します。

対象は日本標準産業分類の「広告制作業」、集計期間は各年度の4~1月、倒産の定義は負債1,000万円以上です。

集計期間 倒産件数 前年同期比 調査結果の意味
2023年度4~1月 27件 58.8%増 前年同期の17件から大きく増加
2024年度4~1月 32件 18.5%増 増加傾向が継続
2025年度4~1月 39件 21.8%増 2016年度以降の同期間で最多

同じ条件で比べると、広告制作業の倒産は27件、32件、39件と3年続けて増加しています。2025年度4~1月は、2023年度の同期間と比べて12件、率にして約44%増えました。

2025年度4~1月の広告制作業39件のうち、倒産原因は「販売不振」が27件で約7割を占めました。また、従業員5人未満の会社が32件で全体の8割を占めています。

大手広告会社だけの問題ではなく、小規模な制作会社や地域の広告会社で、受注減少と収益悪化が表面化していることが分かります。

広告代理店の倒産が増える5つの原因

広告会社が倒産する理由は一つではありません。多くの場合、売上減少、低粗利、固定費、借入返済、取引先依存など、複数の問題が重なります。

1.コロナ後も収益が戻らず、返済負担が始まった

コロナ禍では、イベント、交通広告、紙媒体、店頭販促などの需要が落ち込みました。

一方で、資金繰り支援によって倒産を回避できた会社もあります。

経済活動が再開しても、以前と同じ仕事が同じ単価で戻ったとは限りません。

売上と利益が十分に回復しないまま支援が終わり、借入金の返済や社会保険料、税金などの支払いが重なると、資金繰りは急速に厳しくなります。

2.広告費がデジタル・動画・SNSへ移った

2025年はインターネット広告費が総広告費の50.2%を占めました。

広告予算は増えていても、その受け皿になれなければ、広告会社の売上は増えません。

紙媒体や制作物の受注だけでなく、SNS、動画、広告運用、データ分析、LP改善などまで求められるようになっています。

既存顧客の予算が、別の代理店、専門会社、プラットフォームへ流れるケースもあります。

3.忙しくても粗利が残らない

広告会社は、売上があるだけでは安定しません。

媒体費や外注費が大きい案件では、売上高が大きくても自社に残る粗利はわずかです。

さらに、見積もりに含まれていない修正、打ち合わせ、レポート作成、緊急対応が増えると、社員は忙しいのに利益が残らない状態になります。

売上高だけを追い、案件別の粗利と工数を把握していない会社ほど、問題に気づくのが遅れます。

4.人件費・外注費などの固定的な負担が重い

広告会社は大規模な工場を持たなくても事業を始められますが、人件費、家賃、外注費、システム利用料などが継続的に発生します。

売上が減っても、経験のある社員や制作体制をすぐに縮小することはできません。

人手不足による採用費や賃上げ、外注単価の上昇も利益を圧迫します。

取引先が少ない会社では、大口顧客を一社失っただけで固定費を支えられなくなることもあります。

5.AI・内製化・直接発注で「作業」の価値が下がった

コピー案、バナー案、動画台本、企画書の下書きなど、以前は人が時間をかけていた仕事をAIで効率化できるようになりました。

広告主が自社で広告を運用したり、制作会社や専門家へ直接依頼したりする動きも広がっています。

その結果、単に作業を仲介するだけの代理店は、手数料や制作費の根拠を説明しにくくなります。

AIによって広告制作そのものが不要になるわけではありません。

価値が下がりやすいのは、判断や改善を伴わない「作業だけの仕事」です。

アナログ広告中心の会社はどう変わるべきか

紙の広告や販促物に価値がなくなったわけではありません。

地域密着の集客、店頭での訴求、高齢者向け施策、イベントとの連動など、紙が有効な場面は残っています。

必要なのは、アナログ広告を捨てることではなく、紙だけで提案を終わらせないことです。

これまでの強み 現在の課題 組み合わせたい提案
チラシ・ポスター制作 制作単価が下がりやすい Webページ、SNS、動画、来店計測
地域の媒体・店舗との関係 効果を数字で説明しにくい 商圏データ、QRコード、来店・問い合わせ分析
長年の顧客理解 御用聞き型になりやすい 顧客分析、課題整理、年間販促計画

アナログとデジタルのどちらが優れているかではなく、クライアントの課題に合わせて組み合わせ、実施後の結果まで説明できるかが重要です。

生き残る広告会社に共通する5つの条件

条件 具体的な状態
1.選ばれる理由が明確 特定の業界、地域、課題、媒体など、自社の専門領域を説明できる
2.売上より粗利と工数を見る 案件ごとの外注費、作業時間、修正回数を把握し、不採算案件を見直せる
3.取引先を分散している 一社の予算削減で経営が傾かない顧客構成を作っている
4.AIを効率化と提案に使う 単純作業を減らし、人は判断、顧客理解、戦略、改善に時間を使う
5.実施後の改善まで担当する 広告を納品して終わらず、効果を検証し、次の打ち手を提案する

生き残るかどうかは、会社の規模や歴史だけでは決まりません。

「何を作れるか」だけでなく、「どの問題を解決できるか」を示せる会社が強くなります。

詳しくは、生き残る広告代理店は何が違うのか|倒産しない会社に共通する条件でも解説しています。

自己診断|あなたの会社は倒産リスクが高いか

次の項目は、倒産を予測するものではありません。自社の経営構造を見直すための確認項目として使ってください。

  • 売上の多くを特定の取引先に依存している
  • 案件ごとの粗利を正確に把握していない
  • 作業時間や修正回数を見積もりへ反映できていない
  • 紙媒体やアナログ制作への依存度が高い
  • デジタル広告、SNS、動画の提案が弱い
  • AIを日常業務でほとんど利用していない
  • クライアントから価格交渉されることが増えている
  • 人件費や外注費が上がっても価格を見直せていない
  • 借入返済を含めた資金繰りを先まで確認していない
  • 自社が選ばれる理由を短く説明できない
該当数 状態の目安 最初に確認したいこと
0~3個 比較的安定 強みと利益が出ている仕事を明確にする
4~6個 注意が必要 粗利、工数、取引先依存度、資金繰りを見直す
7個以上 構造的なリスクが高い 不採算案件、価格、固定費、事業領域を優先的に見直す

会社の将来性と、自分のキャリアは分けて考える

自己診断の該当数が多いからといって、すぐに会社を辞めるべきという意味ではありません。

まず、会社が収益構造を変えようとしているのか、自分の部署や仕事に改善の余地があるのかを確認してください。そのうえで、会社の問題と、自分自身の働き方や市場価値を分けて考えます。

経営の問題を社員一人で解決することはできません。

一方で、広告業界で身につけた営業、企画、制作進行、媒体、デジタル運用、顧客調整などの経験は、別の広告会社や事業会社でも生かせる可能性があります。

今いる会社の将来性だけでなく、自分の選択肢も確認したい方は、広告・メディア業界経験者向けの転職サービス解説をご覧ください。すぐに転職する前提ではなく、これまでの経験を理解できる相談先の選び方を整理しています。

広告会社は今、何から見直すべきか

経営者が確認したいこと

  • 売上上位の取引先が全体の何%を占めているか
  • 案件ごとの粗利と実際の作業時間が合っているか
  • 請求できていない修正、会議、レポート作業がないか
  • 6カ月先までの資金繰りと返済予定を把握しているか
  • 自社の専門領域と、やめる仕事を決めているか

働く人が確認したいこと

  • 会社は不採算案件や過剰な修正対応を見直しているか
  • デジタルやAIを学び、実務で使える機会があるか
  • 自分の経験を他社でも説明できる形に整理できているか
  • 忙しさが一時的なのか、慢性的な構造なのか
  • 心身の状態を悪化させてまで働き続けていないか

必要なのは、「広告業界は終わる」と悲観することではありません。

会社と個人の両方が、何を強みにして、どの仕事から利益と経験を得るのかを見直すことです。

次に読む|広告費が伸びても現場が苦しい理由

倒産が増える背景を理解したら、次は、増えた広告費がどこへ流れ、なぜ代理店や制作会社の利益につながりにくいのかを確認してください。

→ 日本の広告費は過去最高なのに現場が苦しい理由【2026年版】

まとめ|広告業界の縮小ではなく、利益構造の再編が起きている

2025年の日本の総広告費は8兆623億円となり、過去最高を更新しました。しかし、広告費の伸びはすべての広告代理店や制作会社へ均等に届いているわけではありません。

デジタルシフト、低粗利、固定費、取引先依存、AI・内製化への対応が重なり、従来型の収益モデルを続ける会社ほど厳しくなっています。

いま起きているのは、広告業界そのものの消滅ではなく、利益が生まれる場所と、広告会社に求められる役割の変化です。

作業を増やすのではなく、自社が選ばれる理由を明確にし、粗利と工数を見直し、クライアントの判断と改善を支援できる会社へ変わることが、生き残るための現実的な道になります。

主な出典・確認資料