2025年12月期、電通グループは3,276億円の最終赤字を計上しました。
その前期も1,921億円の赤字。2年間の赤字額は約5,200億円に達し、海外事業の再編、約3,400人の人員削減、不動産売却など、大規模な構造改革が進められています。
では、その電通は今(2026年8月時点)、どうなっているのでしょうか。
2026年8月14日に発表された2026年12月期第2四半期、つまり2026年1~6月の中間決算を見ると、数字はかなり改善しています。
ただし、今回の決算を「電通が復活した」と一言で片付けるのは少し早そうです。
先に結論を言えば、
大きな出血は止まりつつある。日本事業は強い。一方で、海外事業の成長力はまだ戻っていない。
これが今回の決算から見える電通の現在地です。
これまで当サイトでは、電通の巨額赤字を起点に、海外M&A、人員削減、資産売却までを「電通自己手術シリーズ」として追ってきました。
今回は、その手術後の経過を数字から見ていきます。
まずは2026年上期の数字を見てみよう
2026年上期の主な業績は次の通りです。
| 指標 | 2026年上期 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 収益 | 7,174億円 | +4.9% |
| 売上総利益 | 5,831億円 | +3.7% |
| 売上総利益のオーガニック成長率 | 0.3% | ― |
| 調整後営業利益 | 720億円 | +6.6% |
| オペレーティング・マージン | 12.3% | +0.3ポイント |
| 親会社帰属中間利益 | 463億円 | 前年同期は736億円の赤字 |
数字だけを見れば、かなり改善しています。
前年同期に365億円の営業赤字だったものが、今回は839億円の営業黒字です。
最終的な親会社帰属利益も、前年同期の736億円の赤字から463億円の黒字へ転換しました。
3,276億円の最終赤字を出した会社の半年後としては、大きな変化です。
※オペレーティング・マージン」は、売上総利益に対して本業の利益をどれだけ残せているかを見る指標です。数字が高いほど効率よく利益を出せていると考えられます。日本事業は25.6%で、売上総利益100円あたり約26円を本業の利益として残している計算です。電通グループ全体の12.3%を大きく上回っており、日本事業の収益力の高さが表れています。
ただし、ここからが重要です。
「営業利益839億円」だけでは電通の回復は判断できない
今回の決算を見て、
「電通はもう完全に立ち直ったのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、839億円という営業利益には、一時的な要因も含まれています。
2026年上期には、電通銀座ビルの譲渡などによる固定資産売却益が約296億円計上されています。
一方、前年同期にはAmericasとEMEAを中心に約866億円の減損損失が発生していましたが、今回は同様の減損がありません。
つまり、
前年には大きなマイナス要因があり、今年には大きなプラス要因がある。
そのため、営業損失365億円 → 営業利益839億円という数字だけを比較すると、実際以上に急回復して見えます。
そこで見たいのが「調整後営業利益」です。
調整後営業利益は、不動産売却や減損、構造改革費用などの一時的な要因を除き、本業がどれだけ利益を生み出しているかを見るための指標です。
こちらは前年同期の675億円から720億円へ、6.6%増えています。
派手なV字回復ではありません。
しかし、本業ベースでも利益が改善していることは確認できます。
以前の記事で取り上げた電通本社ビル売却の本質も含め、電通は資産の整理と事業構造の見直しを同時に進めています。
今回の黒字転換は、その途中で出てきた数字として見るべきでしょう。
一番注目したいのは「日本と海外の差」
今回の決算で、もっとも分かりやすく電通の現状を表しているのが地域別の業績です。
日本と海外では、かなり状況が違います。
日本事業はかなり強い
日本の売上総利益のオーガニック成長率は5.0%でした。
インターネット広告、テレビ広告、DX、BX、スポーツ&エンターテインメントなどが成長しています。
調整後営業利益は604億円。上半期として過去最高を記録し、オペレーティング・マージンも前年同期の24.6%から25.6%へ上昇しました。
日本の売上総利益そのものは前年同期比0.3%減っていますが、これはCARTA HOLDINGSが2026年1月から持分法適用会社となった影響が考えられます。
その影響を除けば、売上総利益も前年の過去最高を上回ったと電通グループは説明しています。
少なくとも現在の数字を見る限り、
「日本の電通が稼げなくなったから巨額赤字になった」わけではありません。
この点は、3,276億円赤字の記事でも見てきた重要なポイントです。
海外はまだ回復途中
一方、海外を見ると状況が変わります。
Americasのオーガニック成長率はマイナス5.0%。
調整後営業利益も前年同期比11.8%減の294億円となり、オペレーティング・マージンは21.7%から18.8%へ低下しました。
EMEAはオーガニック成長率がマイナス0.2%。売上の成長はほぼ止まっています。
ただし、コスト削減などによって調整後営業利益は57億円から121億円へ大幅に改善しました。
APACもオーガニック成長率はマイナス3.8%で、調整後営業損失32億円。赤字幅は縮小しましたが、まだ黒字化には至っていません。
| 地域 | オーガニック成長率 | 調整後営業利益 | 状況 |
|---|---|---|---|
| 日本 | +5.0% | 604億円 | 成長・増益 |
| Americas | ▲5.0% | 294億円 | 減収・減益 |
| EMEA | ▲0.2% | 121億円 | 売上停滞・利益改善 |
| APAC | ▲3.8% | ▲32億円 | 赤字継続・損失縮小 |
※電通グループは、海外事業を主に「Americas」「EMEA」「APAC」の3地域に分けて開示しています。Americas(アメリカズ)は米州地域で、米国を中心とした北米・中南米の市場です。今回の決算でも、電通は米国を主要マーケットとして説明しています。
EMEA(イーミア)は「Europe, Middle East and Africa」の略で、ヨーロッパ・中東・アフリカ地域を指します。今回の決算では、英国、ドイツ、イタリア、スペインなどの動向が紹介されています。
APAC(エイパック)は「Asia-Pacific」の略で、アジア太平洋地域を指します。電通グループの今回の区分では日本を除き、中国、台湾、インド、オーストラリアなどが含まれます。
上記の表を整理すると、
日本は「成長して利益を出している」。
海外は「売上成長が弱い中で、コストを削って利益を改善している」。
同じ電通グループでも、中身はかなり違います。
電通海外事業売却が失敗した理由で取り上げた海外事業の問題は、今回の決算でもまだ解決したとは言えません。
3,400人削減などの構造改革は、数字に表れ始めている
一方で、海外の立て直しがすべてうまくいっていないわけでもありません。
売上の伸びが弱いEMEAで利益が大幅に増え、赤字だったAPACでも損失額が縮小しています。
これは非常に重要な変化です。
電通グループ自身も今回、経営基盤の再構築によるコスト削減効果や販管費抑制が利益改善につながったと説明しています。
以前取り上げた電通3,400人削減の衝撃は、発表された時点では「これから何が起きるのか」という記事でした。
今回の決算では、その改革が少しずつ損益計算書に表れ始めています。
ただし、ここにも注意が必要です。
人員を減らし、固定費を削れば、利益率は改善できます。
しかし、それだけでは会社そのものが成長しているとは言えません。
電通の次の課題は、コスト削減による利益改善から、売上成長を伴う利益改善へ移れるかどうかです。
財務面では、以前より落ち着いてきた
もう一つ確認しておきたいのが財務状態です。
2025年末から2026年6月末にかけて、現金及び現金同等物は約2,952億円から約3,664億円へ増えました。
親会社所有者帰属持分比率も11.7%から13.8%へ改善しています。
営業活動によるキャッシュ・フローも、前年上期の370億円から951億円へ増えました。
以前の電通「赤字5,200億円」完全解説では、「これだけ赤字を出して電通は大丈夫なのか」という点も取り上げました。
少なくとも今回の中間決算を見る限り、財務状態がさらに急速に悪化しているわけではありません。
むしろ数字は改善方向です。
一方、2026年12月期の配当予想は引き続き0円です。
その意味でも、「完全復活」と呼ぶにはまだ早いでしょう。
実は電通自身も、通期について強気になっているわけではない
ここは今回の決算で見落としたくない部分です。
上期だけを見るとかなり改善していますが、電通グループは2026年通期の業績予想を変更していません。
通期予想は次の通りです。
| 指標 | 2026年通期予想 | 前年比 |
|---|---|---|
| 収益 | 1兆4,915億円 | +3.9% |
| 売上総利益 | 1兆2,302億円 | +2.7% |
| 調整後営業利益 | 1,663億円 | ▲3.6% |
| オペレーティング・マージン | 13%台 | ― |
| 親会社帰属調整後当期利益 | 852億円 | ▲8.9% |
つまり会社側は、上期の黒字転換を受けても通期予想を上方修正していません。
しかも、調整後営業利益は前年比で減益を見込んでいます。
これはかなり象徴的です。
「大赤字から黒字になった」というニュースと、「本業の成長が完全に戻った」という話は別なのです。
電通自身も、中東情勢やウクライナ情勢など世界経済の不透明感が残っているとして、慎重な見通しを維持しています。
では、これから電通の何を見ればいいのか
今後の電通を見るうえで、私は「赤字か黒字か」だけを追う必要はないと思っています。
今回のような大規模な構造改革では、一時的な売却益や減損によって営業利益が大きく動くためです。
むしろ、次の3つを見た方が電通の実力を判断しやすくなります。
1.海外のオーガニック成長率が戻るか
最も重要なのはここです。
Americasがマイナス5.0%、APACがマイナス3.8%という状態が続けば、利益を改善するために削れるコストにも限界がきます。
海外事業が再び成長へ転じるか。
これが本当の意味での再建を判断する数字になるでしょう。
2.コスト削減後も利益率を維持できるか
現在は構造改革の途中です。
不採算事業を整理し、人員や固定費を減らすことで利益率は改善できます。
問題は、その効果が一巡した後です。
事業そのものの競争力が高まっていれば利益は残ります。
そうでなければ、再び利益率が低下する可能性があります。
3.日本の強さを海外へつなげられるか
今回、日本ではインターネット広告だけでなく、テレビ、DX、BX、スポーツ&エンターテインメントまで幅広い分野が成長しました。
これは広告業界から見ると興味深いところです。
広告会社が「広告だけでは成長できない」と言われる時代ですが、日本の電通は広告とその周辺領域を組み合わせながら、まだ高い収益力を維持しています。
この強さを海外でも再現できるのか。
そこまでできて初めて、長年進めてきたグローバル化が成果を生んだと言えるのではないでしょうか。
電通は復活したのか?
今回の決算だけで答えるなら、
「危機的な状態からは明らかに改善している。しかし、復活を宣言するにはまだ早い」
というのが妥当だと思います。
日本事業は強い。
本業ベースの利益も増えた。
キャッシュ・フローや自己資本も改善しています。
一方、海外のオーガニック成長率は弱く、Americasは減益、APACはまだ赤字です。
現在の電通は、売上を大きく伸ばして復活しているというより、
過去の海外M&Aで膨らんだ会社を整理し、利益を出せる体質へ作り直している途中
と見る方が実態に近いでしょう。
3,276億円の赤字、海外事業の売却断念、3,400人の削減、資産売却。
これまで「電通自己手術シリーズ」で追ってきた出来事は、別々のニュースではありません。
一つの大きな経営再建の流れです。
そして2026年上期決算は、その手術後に初めて見えてきた「経過報告」と言えます。
出血はかなり止まってきました。
次に必要なのは、体を小さくして利益を出すことではなく、再び成長できる会社になったことを数字で示すことです。
次の決算で注目したいのは、営業利益が何百億円になったかではありません。
AmericasやAPACのオーガニック成長率がプラスへ戻るのか。
そこが、電通の「回復」と「復活」を分ける数字になりそうです。

