2026年9月、岡山の広告代理店が破産手続き開始決定を受けたというニュースが流れました。
地元の大手住宅メーカーなどを主な得意先として、テレビCMや新聞広告を手がけてきた会社です。
このニュースで私が気になったのは、負債約1.4億円という金額ではありません。
報道には、「WEB広告メインの主力先のニーズを捉えきれず」とあります。
単純に「得意先がなくなった」とは書かれていません。
ここには、これから多くの広告代理店で起こり得る、かなり怖い問題が隠れていると思います。
それでも、自社の売上だけが減っていく。
もし自社に置き換えて考えるなら、警戒すべきなのは「取引がなくなった時」ではありません。
そのずっと前から変化は始まっています。
広告費がなくなったのではなく、行き先が変わった
今回の広告代理店の主要得意先が、実際にどれだけ広告費を使っていたのか。それが増えたのか減ったのか。そこまでは分かりません。
ただ、広告市場全体を見ると、「広告主がお金を使わなくなった」という状況ではありません。
電通の「2025年 日本の広告費」によれば、日本の総広告費は8兆623億円。4年連続で過去最高を更新しました。
その一方で、インターネット広告費は4兆459億円まで拡大し、総広告費の50.2%を占めています。
広告費は増えています。
大きく変わったのは、その配分です。
例えば、年間2,000万円の広告費を使う企業があったとします。
| 広告予算 | 以前 | 現在 |
|---|---|---|
| テレビ・新聞・折込など | 1,500万円 | 500万円 |
| WEB・SNSなど | 500万円 | 1,500万円 |
| 合計 | 2,000万円 | 2,000万円 |
広告主から見れば、広告費は減っていません。
しかし、テレビや新聞などを中心に扱っていた広告代理店から見れば、自社が受注できる領域は大幅に縮小します。
市場が縮小したのではなく、自社の前を通る広告費が減った。
この違いは大きいと思います。
関連記事:日本の広告費は伸びているのに、なぜ現場は苦しいのか?
取引が続いているから、危機に気づくのが遅れる
長年付き合ってきた得意先なら、ある日突然すべての発注がなくなるとは限りません。
テレビCMはまだ発注される。新聞広告も時々ある。担当者にも普通に会える。
営業会議でも、「あの会社とは長い付き合いですから」と話しているかもしれません。
ところが、その広告主の別のところではWEB広告、SNS、動画、デジタルマーケティングの予算が膨らんでいる。
そこを別の広告会社やWEB会社が受けているとしたら、どうでしょうか。
最初はリスティング広告だけだったかもしれません。
その会社がアクセスデータを見るようになり、SNSも担当し、キャンペーンの相談を受けるようになる。
やがて広告主から最初に相談される相手が、そちらへ変わっていきます。
昔からの代理店には、テレビや新聞を使う時だけ連絡が来る。
これが一番怖い状態です。
売上がゼロになるわけではないので、変化が見えにくい。
しかし数年かけて、自社の立ち位置だけが少しずつ小さくなっていきます。
その途中で、何度かチャンスはあったはず
今回の会社と得意先との間で、実際にどのような会話があったのかは分かりません。
ただ、長く取引している広告主の広告予算が大きく動くのであれば、その途中で何らかの話が出ることは珍しくありません。
「今度WEB広告も増やそうと思っている」
「SNSって御社でもできますか?」
「Google広告もまとめてお願いできますか?」
会議というより、雑談の中から出てくることもあります。
長い付き合いがある会社なら、まず既存の代理店に聞いてみようと考える広告主もいるでしょう。
そこで「対応できます」と言えれば、新しい領域へ入るきっかけになります。
反対に、そのたびに「そこは専門外です」と答えていれば、広告予算だけでなく相談窓口まで外へ移っていきます。
広告代理店のデジタル化というと、新しい商品を覚えることのように聞こえます。
しかし本当は、もっと単純な話かもしれません。
得意先の広告活動が変わった時に、一緒についていけるか。
まず問われているのは、そこです。
ただ、WEB広告を扱えるようになれば解決する話でもない
ここで「ではWEB広告を強化すればいい」と考えると、また次の問題が出てきます。
広告主側でも、広告運用や制作を自社で行うインハウス化が進んでいるからです。
さらにAIや広告プラットフォームの自動化が進めば、これまで外部へ発注していた仕事の一部は、今後もっと社内で処理できるようになります。
つまり、マス広告からWEB広告へ移った予算を追いかけるだけでは、また次の変化が起きた時に同じことを繰り返します。
テレビからWEBへ。
WEBから内製化へ。
そのたびに「次は何を売ればいいのか」と考えているだけでは、いつまでも後追いになります。
ここから先は、広告代理店の立つ場所そのものを変える必要があると思います。
予算の「受け皿」ではなく、予算の使い方を一緒に決める
広告主から「WEB広告に1,000万円使いたい」と言われてから、その仕事を取りに行く。
これでは、すでに予算の行き先が決まった後です。
それよりも前の段階。
「今年の広告費をどう使うか」
「WEBを増やすべきか」
「SNSは自社で運用するべきか」
「外部へ任せる仕事と社内で行う仕事をどう分けるか」
こうした判断の段階から相談される会社になる。
ここまで入れれば、広告媒体や手法が変わっても関係は切れにくくなります。
時には「それは内製した方がいい」と言う
例えば、日々のSNS投稿や簡単なバナー制作など、広告主自身で行った方が速く、安くできる仕事もあります。
そうであれば、代理店側から内製化を提案してもいいと思います。
運用方法を教える。必要なツールを選ぶ。社内体制を作る。困った時だけ支援する。
短期的には、自社の売上が減るかもしれません。
しかし広告主から見れば、自社の利益よりこちらの事情を考えてくれる会社になります。
そして、大きな広告戦略やキャンペーンを考える時には、再び相談される。
仕事を抱え込むことで存在理由を作るのではなく、判断を任せられることで存在理由を作る。
これからの広告代理店には、その発想も必要になるのではないでしょうか。
関連記事:インハウス化の波は止まらない?ネット広告専業代理店の未来は?
売上だけではなく「得意先の中での自社シェア」を見る
では、自社で同じことが起きていないか、どう確認すればいいのでしょうか。
私は、主要得意先について「自社の売上」だけを見るのでは足りないと思います。
例えば、ある得意先からの年間売上が1,000万円から800万円に減った。
これだけを見ると「2割減」です。
しかし、その広告主の広告・マーケティング予算そのものが1,500万円から3,000万円に増えていたとしたら、見え方は全く変わります。
| 以前 | 現在 | |
|---|---|---|
| 広告主の広告・マーケティング予算 | 1,500万円 | 3,000万円 |
| 自社売上 | 1,000万円 | 800万円 |
| 自社が関与する割合 | 約67% | 約27% |
売上だけなら200万円減っただけです。
しかし広告主の中での自社の存在感は、大きく下がっています。
もちろん、得意先の広告予算総額を正確に把握できるとは限りません。
それでも営業担当者なら、どんな広告を出しているのか、他にどんな会社が入っているのか、新しい施策を始めていないかはある程度見えるはずです。
主要得意先について、
- 自社が受注していない広告が増えていないか
- 以前は相談された案件が、決まった後に知らされるようになっていないか
- 新しい広告会社やコンサル会社が入り込んでいないか
- 広告主の社内に新しいマーケティング担当者や専門部署ができていないか
こうした変化の方が、売上数字より早く危険を教えてくれることがあります。
広告市場は伸びている。だから安心とは限らない
今回の岡山の広告代理店が、どの段階で何をすれば違う結果になったのか。それは外部からは分かりません。
倒産の原因も、一つだけではないでしょう。
しかし「WEB広告メインの主力先のニーズを捉えきれなかった」という報道は、広告代理店にとって他人事ではありません。
日本の広告市場は伸びています。
だから「広告業界にはまだお金がある」と考えることもできます。
一方で、そのお金が自社を通るとは限りません。
得意先との取引が続いている会社ほど、一度確認してみてもいいと思います。
「この会社から、いくら売上があるか」ではなく、
「この会社の広告・マーケティング活動の中で、自分たちは今どの位置にいるのか」
その答えの方が、これから先の売上を教えてくれるかもしれません。
そして、もう一つ大きく動き始めているのが広告制作です。
制作会社だけでなく、制作部門を抱える広告代理店にもAIの影響が迫っています。
次の記事では、広告制作会社の倒産増加という別のニュースから、今度は「制作する仕事」に何が起きているのかを考えます。

