オフライン回帰の背景にある、デジタル広告の限界とは?

広告豆知識

前回の記事「オンライン時代にオフラインが再注目される理由とは?」では、なぜリアルな広告施策が再評価されているのかを解説しました。

その背景には、インターネット広告が「飽和状態」に近づきつつあるという現実があります。
この記事では、なぜそのような状態が生まれ、これからどんな方向性を見出すべきかを整理します。

前回の記事:オンライン全盛時代に「リアル」が再び求められる理由とは!はこちら!

インターネット広告に訪れるかもしれない“成長の鈍化”

では、最初に「インターネット広告」の成長が鈍化するかもしれない!5つの理由をお伝えします。

 

1. 広告出稿量の過多とユーザーの広告疲れ

近年、インターネット広告は爆発的に拡大し、SNS、ニュースサイト、動画、アプリ、検索結果など、あらゆる場所に広告があふれています。
企業は多くの予算を投じてユーザーにリーチしようとする一方で、ユーザー側では広告の多さに疲れ、見ても記憶に残らないという現象が加速しています。

広告は日々あらゆるインターネット媒体に表示され、ユーザーは無意識に「広告を見ない力=アドブラインドネス」を身に付けていると思われます。(※アドブラインドネスとは、バナー広告やテキスト広告などを無意識に視界から外し、見ないようにする心理的な傾向のことです)。これにより、インターネット広告を出せば効果が出るという“旧来の神話”は崩れつつあると想定できます。

2. 単価の上昇とROIの悪化

デジタル広告の主力はGoogle、Meta、Amazonの寡占状態となっており、広告単価(CPMやCPC)は年々上昇傾向です。中小企業にとっては費用対効果の面で参入障壁が高くなっています。

3. サードパーティCookie廃止とターゲティング精度の低下

AppleやGoogleのプライバシー保護方針の強化により、従来のようなリターゲティング手法は大きな制約を受けるようになりました。
ユーザーがトラッキングを拒否できるようになり、リターゲティングの精度の大幅に低下も考えらまれます。
さらに、Googleも段階的にサードパーティCookieを廃止しており、Web行動に基づく詳細な広告配信が難しくなっています。
これにより、広告配信は”出せば届く”ものではなくなりつつあるのです。

4. フォーマット化した広告クリエイティブ

多くのバナーや動画がテンプレート化しており、ユーザーには似たような広告が繰り返し表示されます。これにより、新鮮さや印象に残る体験が失われがちです。

5. 若年層のSNS離れと広告忌避

Z世代を中心に、「広告っぽさ」を嫌う傾向がより顕在化していると思われます。
従来から広告への警戒心は一定ありましたが、SNSの普及と情報過多の時代において、より自然な情報発信や共感性を重視する傾向が強まっているのです。
フォロワー数よりも、価値観や世界観への共感が重視され、従来型のインフルエンサー施策では効果が出にくくなっています。

こうした5つの観点から見ても、インターネット広告はかつてのような成長の勢いを維持することが難しくなってきているはずです。
今後は、単に広告を打つだけでは成果を得づらく、戦略や設計の再構築が求められる時代に突入しているのです。

では、これからの広告戦略はどうあるべきか?

“接触の量”から”接触の質”へ

今後は、一方的な広告配信ではなく、生活文脈やタイミングに沿った「意味のある接触」を設計することが重要です。
たとえば、ユーザーの行動履歴やその時の気分に応じて広告を変化させる“感情ベース広告”や、音楽アプリのBGMに合わせた飲料ブランドの連動プロモーションなどは、実際に一部のブランドが取り組みを始めている事例です。
また、冷蔵庫の中身をスマート家電が把握して広告を配信するといった施策も、現時点ではまだ構想段階ながら、今後の技術進化によって実現が期待される領域といえるでしょう。

このように、すでに現実化しているものと、未来志向のアイデアをうまく組み合わせながら、従来の「売り込み型」から「寄り添い型」へのシフトを設計することが、これからの広告戦略の鍵となるはずです。

“リアルとの連動”を再設計

前回の記事で紹介した通り、オフラインとの掛け算がブランド体験を深めるカギになります。たとえば「店頭×SNS」「雑誌記事×動画広告」など、クロスメディア設計が求められます。

“メディアの信頼性”を活かす

新聞・雑誌・テレビといったオールドメディアと連携することで、広告の信頼性や重みを担保する戦略が再注目されるようになるかもしれません。
たとえば、新聞紙面に掲載した広告を交通広告と連動させることで地域全体への浸透を狙ったり、テレビ番組内で紹介した内容を雑誌記事と連動させて深掘りするなど、メディア間で一貫性と補完性をもたせた展開が見直されるかもしれません。

こうした伝統的メディアを戦略的に取り入れることで、情報の信頼性を高めながら、ターゲットとの多面的な接触機会を生み出せるのです。

これは、長らく衰退傾向にあったオールドメディアにとっても大きな転機となる可能性があります。デジタル広告が飽和し、ユーザーが信頼性や文脈を重視する今、新聞や雑誌、テレビといったメディアが“情報の質”と“信頼の接点”として再評価される土壌が整いつつあるはずです。

広告主にとっても、オンラインでは得られない深度や安心感を補完する手段として、今後あらためて活用を検討する動きが広がることが想定されます。

インターネット広告は今後も重要なチャネルであることに変わりはありませんが、もはや“打てば響く”時代ではありません。これからは、ユーザーとの関係性をどう設計し、どの文脈で接点を持つかが鍵になります。つまり、「量」ではなく「質」、そして「仕組みの設計力」が問われる時代へと確実にシフトしているのです。

👉 オフラインとの融合戦略については、こちらの記事もご覧ください。