毎日新聞の2025年上半期の販売データを見ていて、気になる数字がありました。
四国4県をすべて合わせても、朝刊は13,069部しかありません。
徳島県1,334部、香川県4,231部、愛媛県6,621部、そして高知県は883部です。
これだけ広い四国で、わずか1.3万部。
最初に数字を見たとき、筆者が疑問に感じたのは単純なことでした。
「これだけ少ない新聞を、四国の広い面積にどうやって毎朝届けているのか?」
印刷した新聞は、トラックで各地域へ運び、さらに販売店から各家庭へ届けなければなりません。部数が減っても、四国の面積が小さくなるわけではありません。
ところが調べていくと、もう一つ重要な事実が見えてきます。
毎日新聞は2020年、岡山・広島・四国4県向けの印刷を、自社系の印刷体制から四国新聞側への委託へ切り替えていました。
つまり、少ない部数でも自前のインフラを抱えているのではありません。
自前で抱えなくても済む仕組みに変えたからこそ、紙を残せているとも考えられます。
ただし、この合理化には別の問題があります。
自社の固定費を減らした代わりに、紙を続けられるかどうかを自社だけでは決められなくなったことです。
この記事では、毎日新聞の四国1.3万部から、全国紙が地方で紙を残すための仕組みと、その弱点を考えてみます。
四国4県を全部合わせても13,069部
まず販売部数を確認します。
| 県 | 毎日新聞 朝刊販売部数 |
|---|---|
| 徳島県 | 1,334部 |
| 香川県 | 4,231部 |
| 愛媛県 | 6,621部 |
| 高知県 | 883部 |
| 四国4県合計 | 13,069部 |
※日本ABC協会「新聞社発行レポート 半期」2025年1~6月平均。毎日新聞社「全国の配布エリアと販売部数」を基に作成。
四国全体で約1.3万部です。2025年のデータですので、今はもっと減少しています。
しかも均等に1.3万部あるわけではなく、高知県では1,000部を下回っています。
もちろん実際の購読者は高知市など人口の多い地域に集中している可能性があります。
県内に均等に883部が散らばっているわけではありません。
それでも、県全体で883部という数字を見れば、従来型の新聞配送モデルを単独で維持することに疑問を持つのは自然です。
購読料に置き換えると、四国全体で年間約6.3億円
規模感を見るため、購読料に単純に置き換えてみます。
毎日新聞の統合版は、2026年8月現在、月額4,000円です。
13,069部 × 4,000円 × 12か月 = 約6億2,731万円
高知県だけなら、
883部 × 4,000円 = 月約353万円
年間でも約4,238万円です。
ただし、これはあくまで「販売部数×定価」の単純試算です。
販売店の収入や経費、広告収入などは含まれておらず、毎日新聞社の実際の売上高や利益を示す数字ではありません。
それでも、県単位の紙媒体としてどの程度の規模なのかを見る参考にはなります。
実は毎日新聞は2020年に「自前で刷る」構造から降りていた
ここで重要なのが印刷です。
2020年3月、毎日新聞社と四国新聞社は、岡山・広島・香川・愛媛・徳島・高知の6県で発行する毎日新聞朝刊約5万4,000部を、四国新聞印刷センターへ委託することで合意しました。
つまり四国では、部数が現在の1.3万部になるより前から、印刷設備を自社だけで維持するのではなく、地元新聞社の設備を利用する方向へ切り替えていたことになります。
現在の販売データで、当時の委託対象だった6県を合計すると次のようになります。
| 地域 | 2025年上半期 朝刊販売部数 |
|---|---|
| 岡山県 | 7,056部 |
| 広島県 | 8,431部 |
| 四国4県 | 13,069部 |
| 6県合計 | 28,556部 |
2020年の「約5万4,000部」は印刷対象部数として報じられた数字で、現在の28,556部はABCの販売部数です。集計条件が同じとは限らないため、単純に「何%減った」と比較することはできません。
ただ、現在の販売規模が非常に小さくなっていることは分かります。
そしてこの動きは、2026年に東北で起きた委託印刷とも重なります。
▶ 毎日新聞が東北で委託印刷へ切り替えた背景はこちらで詳しく検証しています。
委託印刷は合理的。ただし「他社都合」というリスクが生まれる
少部数の地域で自社工場を維持するより、すでに稼働している他社の工場を利用する方が合理的です。
輪転機、建物、人員、保守、電力などの固定費を自社だけで負担する必要性を減らせるからです。
毎日新聞にとって、委託印刷は地方で紙を残すための有効な延命策だと考えられます。
しかし、同時に別のリスクも生まれます。
印刷を続けるためには、委託先にも「この仕事を続ける合理性」が必要になるからです。
例えば将来、
- 委託料金の見直し
- 人件費や電力費の上昇
- 輪転機の更新問題
- 工場再編
- 委託先自身の紙媒体事業の縮小
などが起きれば、毎日新聞側が現在の条件で続けたいと思っていても、同じ仕組みをそのまま維持できるとは限りません。
もちろん契約先を変更するという選択肢もあります。
したがって「委託先がやめると言えば、その瞬間に毎日新聞も四国撤退」とまで言うことはできません。
それでも、自社工場で刷っていた時代とは決定的に違います。
紙を残すための重要なインフラについて、自社の意思だけでは完結しない構造になったということです。
では、四国新聞側は盤石なのか
ここで、もう一つ考えなければならない問題があります。
毎日新聞の四国での印刷を支えてきた四国新聞側も、紙の新聞市場全体の縮小と無関係ではありません。
四国新聞系列のニュースフローは現在、自社サイトで四国新聞の発行部数を「約20万部」と案内し、四国新聞本紙のほか全国紙などの代行印刷も行っているとしています。
ただし、この「約20万部」が最新のABC販売部数と同じ意味なのかは、今回確認した公開資料からは判断できません。
そのため本記事では、「四国新聞は現在○万部まで減っている」といった推計は行いません。
重要なのは具体的な現在部数ではなく、構造です。
仮に将来、四国新聞自身の紙の部数が大きく減れば、印刷工場をどの規模で維持するのかという問題は当然出てきます。
自社紙のために設備を更新するのか。他社の印刷受託を増やすのか。別の新聞社と設備を共同化するのか。あるいは自社も外部委託へ向かうのか。
どの選択になるかは分かりません。
しかし、その判断が毎日新聞の四国での紙の供給にも影響する可能性があります。
四国新聞の部数減=委託終了、とは限らない
ただし、ここは逆方向からも見る必要があります。
四国新聞本紙の印刷部数が減れば、印刷設備に余力が生まれます。
そうなれば、むしろ全国紙などから受託する印刷業務の重要性が高まる可能性もあります。
したがって、
「四国新聞の部数が減る → 毎日新聞の印刷委託をやめる」
という単純な関係ではありません。
問題になるのは、さらにその先です。
紙全体の市場縮小が進み、工場そのものの維持や設備更新が合理的ではないと判断される段階まで来たときです。
その場合、毎日新聞は自社の部数や意向とは別の理由から、新しい印刷体制を探さなければならなくなる可能性があります。
さらに難しいのが「最後の1部」を家庭まで届けること
新聞は印刷できれば終わりではありません。
工場から各地域へ運び、最終的には各家庭のポストまで届ける必要があります。
特に高知県883部のような地域では、「何部あるか」だけでなく、その883部がどこに存在するのかが重要です。
高知市周辺などに集中していれば、比較的効率よく配達できるかもしれません。
一方、山間部を含めて1部、2部と広範囲に散らばっていれば、1部を届けるための追加コストは大きくなります。
部数が減るほど印刷だけではなく、輸送・販売・最終配達まで含めた供給網全体の維持が問題になることは間違いありません。
富山では実際に「紙を届けること」が止まった
この問題を考えるうえで参考になるのが富山県です。
毎日新聞は2024年9月末で富山県への通常配送を休止しました。
当時の朝刊販売部数は推計約840部。
毎日新聞側は、発行部数の減少に加え、大阪からの輸送費や印刷費などの負担増を理由としていました。
取材拠点までなくしたわけではありません。
紙を通常の配送網で届けることだけをやめ、希望者には郵送などで対応する形へ切り替えました。
つまり、新聞社が地域から完全に撤退しなくても、「毎朝紙を届けるビジネス」だけが先に終了することはすでに起きています。
「撤退するか」は毎日新聞だけを見ても分からない
ここまでを見ると、毎日新聞の地方撤退を考えるとき、毎日新聞の発行部数だけを追っていても十分ではないことが分かります。
見るべきなのは、
- その地域で何部売れているのか
- どこで印刷しているのか
- 印刷設備を誰が維持しているのか
- どの距離を輸送しなければならないのか
- 地域の販売・配達網を維持できるのか
です。
自社設備を減らし、外部インフラを利用すれば、少部数でも紙を長く残せます。
しかし外部依存が増えるほど、今度は委託先や物流、販売網の事情にも左右されます。
合理化によって紙を延命した一方、その延命期間を自社だけでは決められなくなっていく。
これが、現在の全国紙が地方で抱えているもう一つの問題ではないでしょうか。
まとめ|四国撤退の引き金を引くのは、毎日新聞とは限らない
毎日新聞の四国4県の朝刊販売部数は13,069部、高知県では883部です。
少部数でも紙を維持できている背景には、印刷などを外部インフラに委ねる合理化があります。
しかし、それは同時に、紙を続けられるかどうかを自社だけでは決められない構造になったということでもあります。
現時点で毎日新聞の四国撤退や、四国新聞側の委託印刷終了が発表されているわけではありません。
ただし今後、委託先の条件変更や設備再編、物流・販売網の縮小が進めば、毎日新聞が継続を望んでも紙を届けられなくなる可能性があります。
全国紙の地方撤退は、新聞社自身ではなく、紙を支える側の事情から始まることもある。
今回の記事で見えてきたのは、そんな新しいリスクです。

