産経新聞は、東北6県で紙の発行を休止する道を選びました。
一方、毎日新聞は青森県と秋田県で、地元紙・東奥日報への委託印刷に切り替え、紙を残しています。
産経は撤退。毎日は継続。
一見すると正反対の判断ですが、私は同じ「全国紙の地方縮小」という流れの中にあると考えています。
毎日新聞が東北から撤退すると発表した事実はありません。
しかし、現在の東北の部数、自社グループでの印刷から外部委託へ切り替えたこと、そして産経新聞が実際に東北から紙を引くことまで考えると、毎日新聞だけが今後も従来通りの供給体制を維持すると考える方が難しくなっています。
今回の委託印刷は、少ない部数でも紙を残すための「延命策」です。
しかし同時に、さらに部数が減ったときに縮小や撤退を選びやすくする体制づくりでもあると私は見ています。
青森2,426部、秋田3,357部。それでも紙を残した
2026年3月23日、毎日新聞は青森県と秋田県向け朝刊の印刷を、東奥日報社へ委託する体制に切り替えました。
それまでは毎日新聞グループの東日オフセットが印刷していました。
つまり、紙の発行をやめたわけではありませんが、自社グループで青森・秋田分を印刷する体制からは降りたことになります。
ここで重要なのが、実際の販売部数です。
| 県 | 毎日新聞 朝刊販売部数 |
|---|---|
| 青森県 | 2,426部 |
| 岩手県 | 4,152部 |
| 宮城県 | 4,588部 |
| 秋田県 | 3,357部 |
| 山形県 | 6,742部 |
| 福島県 | 10,062部 |
| 東北6県合計 | 31,327部 |
※日本ABC協会「新聞社発行レポート 半期」2025年1~6月平均。毎日新聞社「全国の配布エリアと販売部数」を基に作成。
青森県と秋田県を合わせても5,783部です。
東北6県すべてを足しても約3.1万部。
これだけ部数が縮小すると、「紙を残すかどうか」だけでなく、その3万部を誰が、どの設備で刷るのかまで経営判断の対象になります。
なぜ5,783部を自前で刷らず、委託して残すのか
新聞工場には輪転機、建物、人員、保守、電力など多くのコストがかかります。
部数が半分になったからといって、こうした費用が半分になるわけではありません。
そのため部数が減るほど、1部あたりに負担させる固定費は重くなります。
そこで、自社設備だけで印刷するのではなく、地元紙の工場を利用するという選択肢が出てきます。
具体的な委託契約の条件は公表されていないため、「完全な変動費になった」とまでは言えません。
それでも、自社グループでその地域向けの印刷設備を維持する必要性を減らせることには大きな意味があります。
毎日新聞は東北の紙をやめたのではなく、少ない部数でも残せるように「残し方」を変えたと考えると分かりやすいでしょう。
延命策であり、同時に「出口への準備」でもある
短期的に見れば、今回の委託印刷は明らかに延命策です。
自前で印刷するよりも軽いコスト構造へ移ることで、青森・秋田でも紙を残せる可能性が高まります。
しかし、ここにはもう一つの側面があります。
自社の印刷設備への依存を減らしておけば、将来さらに部数が減った場合、供給地域の縮小や紙の休止も判断しやすくなります。
今は「撤退しないための合理化」。
しかし同時に、将来「撤退する」という選択も取りやすくする合理化です。
これは矛盾しているようですが、企業の縮小局面では自然な動きです。
まず固定費を軽くして事業を残す。
それでも市場縮小が続けば、さらに供給網を見直す。
新聞の地方撤退も、ある日突然すべてをやめるのではなく、自社印刷から委託へ、配送地域の縮小へ、そして紙の休止へと段階的に進む可能性があります。
部数減が続けば、次は「誰が刷るか」ではなく「紙を残すか」
私は、現在の部数減少が続くことを前提にすれば、毎日新聞が東北で現在の紙の供給体制を長期間そのまま維持するのは難しいと考えています。
東北6県で約3.1万部。
青森・秋田は5,783部。
そして同じ全国紙の産経新聞は、東北6県で紙の発行を休止する判断をしました。
もちろん、毎日新聞が同じ時期に同じ判断をするとは限りません。
今回のように委託印刷を使えば、産経とは違う形で紙を長く残すこともできます。
しかし、部数減少そのものが止まらなければ、合理化だけで永遠に維持することはできません。
いずれ問われるのは「東北分を誰が印刷するか」ではなく、「東北で紙をどこまで残すのか」です。
私は今回の委託印刷を、その手前にある重要な一段階と見ています。
そして、この問題は東北だけではない
今回の記事では、産経新聞の発行休止との関係から東北に絞っています。
しかし毎日新聞の全国データを見ると、同じ問題を抱える地域はほかにもあります。
2025年上半期の朝刊販売部数は、石川県1,030部、福井県1,009部、高知県883部、沖縄県175部です。
一方、大阪府は23万部を超え、埼玉・福岡も11万部を超えています。
さらに富山県ではすでに配送を休止し、北海道や島根県の一部でも配送休止が始まっています。
つまり、毎日新聞の問題は単純な「全国の総部数減」ではありません。
部数が残る地域と、紙の供給を維持することが難しい地域との差が大きくなっていることです。
現在の減少が続けば、全国一律の供給網ではなく、大阪・近畿、首都圏、福岡など一定の部数が残る地域を中心に紙を維持し、その他では委託印刷や配送縮小、紙の休止を組み合わせる方向へ進む可能性が高いと考えています。
結果として「全国紙」という名称を残しながらも、実態は大都市圏を中心としたブロック型へ近づいていくということです。
▶ 毎日新聞100万部割れと全国のブロック化についてはこちらで詳しく解説しています。
広告主・広告代理店は何を見るべきか
印刷が東奥日報への委託になったからといって、毎日新聞へ広告を掲載できなくなるわけではありません。
広告実務で重要なのは、誰が印刷しているかより、その地域で毎日新聞が実際に何部届いているかです。
東北6県で約3.1万部という実数を踏まえ、地方紙も含めて到達規模と広告料金を比較する必要があります。
「全国紙だから全国に一定規模で届く」という前提だけで媒体を選ぶ時代ではなくなっています。
まとめ|毎日は「東北に残った」のではなく、残し方を変えた
産経新聞は東北6県で紙を休止する。
毎日新聞は、地元紙へ印刷を委託して紙を残す。
対応は違いますが、背景にあるのは同じです。
部数が減る中で、全国紙が従来通り地方の印刷・輸送・宅配網を維持することが難しくなっている。
毎日新聞は今、委託印刷によって東北の紙を延命しています。
しかし、自社グループでの印刷から降りたことで、今後さらに部数が減った場合には次の合理化へ進みやすい体制にもなりました。
毎日新聞は東北から撤退したわけではありません。
しかし「これまでと同じ方法で東北を守り続ける」ことからは、すでに一歩離れています。
この先、部数減少が続けば、次に問われるのは印刷工場ではありません。
「東北で紙をいつまで、どこまで残すのか」です。
そして全国の部数を見る限り、同じ判断を迫られる地域は東北だけではないでしょう。
今回の委託印刷は、毎日新聞が全国紙からブロック型の供給体制へ移っていく過程を考えるうえで、重要な出来事だと私は考えています。
▶ 次に読む:毎日新聞100万部割れへ|全国データで見る「全国紙」の限界と大都市ブロック紙化
確認資料
※毎日新聞の今後の撤退・ブロック化については、毎日新聞社が発表した将来計画ではありません。公開されている販売部数、配送状況、印刷委託、他紙の再編状況を基にした筆者の分析・予測です。

