第二弾:インハウス化の波は止まらない?ネット広告専業代理店の未来は?

広告業界の課題と提言

止まらない「セルフ主義」の波 ~ヤマダデンキに続く企業たち~

先日お伝えしたヤマダデンキのAI広告運用内製化のニュースは、記憶に新しいかもしれません。

しかし、これは特別な事例ではありません。今、広告・マーケティング業務のインハウス化(内製化)が世界的に加速しています。

日経Xトレンドによると、全米広告主協会(ANA)の調査では、米国企業の82%が広告・マーケティング業務を内製化していると報告されています。その背景にあるのが、生成AIなどのテクノロジーの進化です。

AIの活用により、企業は少ない社内リソースでも、広告運用から戦略立案・検証・実行までを自社で完結できる「自走型マーケティング体制」を築けるようになりました。

(※)日経Xトレンド:マーケ界で台頭「セルフ主義」、米国企業の8割転換 Google新AIが追い風より引用(一部有料です)

象徴的な事例として、酒類・食品宅配のカクヤスグループが挙げられます。

同社は配送を完全内製化し、AIによる配送ルート最適化やAIオペレーターでの受注自動化を実現。物流の“インハウス化”により競争優位性を確立しています。

これは広告業界にも通じる話です。広告運用のインハウス化も、まさに同じ構図。AIが広告運用を自動化し、外部の広告代理店を必要としなくなる流れは、確実に進んでいます。

 

ここで、多くの広告関係者が抱く疑問はこうでしょう。「インターネット広告市場は拡大し続ける中で、専業代理店の成長は鈍るのだろうか?」

この疑問について考えてみましょう!

 

第1章:なぜ企業はインハウス化を進めるのか?

企業がインハウス化に舵を切る最大の理由は、AIによる広告運用の高度な自動化です。

代表例が、GoogleのAI広告ツール「P-MAX」。

商品情報やクリエイティブを登録するだけで、AIが自動で最適な入札・配信を行い、パフォーマンスを最大化します。これにより、従来は広告代理店に依頼していた複雑な運用が社内の担当者だけで完結するようになりました。

インハウス化には、以下の3つの明確なメリットがあります:

  1. ノウハウが社内に蓄積できる
  2. 意思決定のスピードが速くなる
  3. コストが削減できる

さらに、最大のメリットは「データと気づき」の内製化です。

ヤマダデンキは、AI広告を活用して従来の常識を覆す需要のピークを発見し、新たな売上を創出しました。これは、カクヤスの物流戦略同様、自社でデータを分析することで競争優位性を獲得する典型例です。

もはや、データに触れずに外部任せで広告を運用する時代は終わりに向かいつつある可能性があります。

第2章:専業代理店は「直撃」を受けるのか?

インハウス化の波は、インターネット広告専業代理店にとって深刻な脅威です。

これまで専業代理店は、リスティング広告やSNS広告などの高度な運用ノウハウツールの知識データ分析力を武器に急成長してきました。

 

広告代理店の売上ランキングの順位を塗り替えてきているのも、この専業代理店です。

しかし、AI時代の到来により、以下の3つの強みは急速に陳腐化する可能性があります:

  1. 運用代行の価値の低下
  2. ツール知識の優位性の消失
  3. データ囲い込み戦略の限界

AIが高精度な自動運用を実現する中で、従来の運用代行は不要になり、ツール自体も使いやすく進化。さらに、企業は自社でデータを保持・活用したいと考えるようになり、代理店によるデータ独占は難しくなるでしょう。

結果として、広告市場は成長していても、専業代理店の売上が伸び悩む現象が現実味を帯びています。

第3章:専業代理店の生存戦略

では、専業代理店はどう生き残るべきか? 答えは明確です。「運用代行屋」から「戦略パートナー」への進化です。

具体的には、以下4つの転換が求められます:

  1. 作業から戦略へ:戦略設計力の強化
  2. 共創型パートナーへの進化:内製化支援型のビジネスモデル
  3. クリエイティブ×テクノロジーの融合:AIを活かしつつ、人間ならではの感性を磨く
  4. 統合型ソリューション提供:デジタル×アナログを横断するマーケティング支援

これからの代理店は「戦略立案・共創・クリエイティブ・統合提案」の4領域で価値を出すことが不可欠です。

結論:ハイブリッド人材こそ未来の広告人材

インハウス化は不可逆の流れです。この流れは専業代理店を直撃します。

しかし、マイナスに見える状況は、実はプラスへの転換点でもあります。

むしろ、AIでは代替できない「戦略思考」や「人間力」を兼ね備えた“ハイブリッド人材”が、これからの広告業界で求められるようになるはずです。

インターネット広告の普及に伴い、広告業界ではいわゆる「オタク人材」のニーズが高まり、アナログ営業を得意とする人材の価値は低下しました。

しかし、これからは違うかもしれません。

クライアントとしっかり会話ができ、戦略を語れるコミュニケーション能力の高い人材が、再び求められるようになるでしょう。

つまり、単なるネット知識のオタクではなく、AIの力を活用しつつ、クライアントの本質的な課題を深く理解し、会話を通じて信頼を築ける人材です。

そして、こうした「人間力のある人材」と「ネット知識に強い人材」を組み合わせて、クライアントと向き合えるかどうか。

その体制を作れる広告代理店こそが、インハウス化時代の勝者になるでしょう。

この変革を「脅威」と捉えるか、「成長のチャンス」と捉えるかで、今後の成長は大きく変わるはずです。

 

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