「Xによると」報道の三重の問題 —政治家・著名人の直接発信が壊した仲介者の役割

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【2026年最新】日本の報道自由度ランキングが62位の理由|「アメリカ超え」に潜む罠とメディア不信の正体

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前編では、日本の報道自由度が62位にとどまる構造的な理由を、制度・記者クラブ・自己検閲という三つの視点から整理しました。

しかし、マスメディアが直面している危機は、それだけではありません。

生活者からは「オールドメディア」と呼ばれ、不信を抱かれている。

これは前編で触れた通りです。しかし今、もう一方の側「政治家や著名人」という、これまで「取材対象」としてきた人の行動も、根本から変わっています。

  • 彼らは今、マスメディアを通さずに発信します。
  • Xに投稿すれば、その瞬間に生活者に届きます。

そして、マスメディアは、生活者と同じタイミングでその投稿を目にし、翌日「Xによると」と報道します。

本記事のポイント:3分でわかる要約

構造の変化:かつて情報は「政治家・著名人 → マスメディア → 生活者」と流れていました。今は「政治家・著名人 → X → 生活者(とマスメディア、同時に)」です。

三重の問題:「Xによると」報道は、速報・検証・独立性という、マスメディアの三つの存在価値を同時に放棄しています。

立場の消滅:マスメディアは今、取材対象側からも生活者側からも「いなくてもよい」位置に自ら移動しつつあります。

活路:「Xをより深く検証する」では問題は解決しません。Xの投稿を解説し続ける限り、議題を設定しているのは依然として発信者です。独自取材によって「報道すべき議題」を自分たちで立て直す——議題設定権を取り戻すことだけが、マスメディアの本当の活路です。

➀情報流通の構造は、いつ・どう変わったのか

以前であれば、政治家が重要な政策を発表するときは記者会見を開くか、特定のマスメディアに独占取材を提供していました。

著名人の発言も、インタビューや囲み取材を経てマスメディアが整理し、生活者に届けていた。

この構造が変わったのは、SNS、とりわけ“X”の普及以降です。

情報流通の構造変化

【従来の構造】

政治家・著名人
→ 取材・会見 →
マスメディア
→ 編集・検証・発信 →
生活者

マスメディアが「門番(ゲートキーパー)」として情報を選別・整理・検証してから届ける

【現在の構造】

政治家・著名人
→ X投稿(即時)→
生活者
↓ マスメディアも生活者と同じタイミングで受信
マスメディア
→「Xによると〇〇氏はこう述べた」と後追い

門番の機能が失われ、マスメディアは「受信者の一人」に成り下がっている

この変化が意味することは、単に「報道が遅れた」というレベルの話ではありません。マスメディアが長年にわたって担ってきた「情報の門番(ゲートキーパー)」としての機能が、根本から問い直されているということです。

かつては、マスメディアを通らなければ情報は広がりませんでした。

だからこそ、政治家も著名人もマスメディアを重視し、取材に応じ、会見を開いていた。その関係性が、Xによって完全に崩れています。

②なぜ政治家や著名人はXで発信するのか

政治家や著名人がXを好む理由は、単に「便利だから」ではありません。マスメディアを経由しないことには、彼らにとって明確なメリットがあります。

1編集されない
マスメディアが記事にすると、文脈が切り取られたり、都合の悪い部分が強調されたりする場合があります。Xなら、自分の言いたいことをそのまま届けられます。

2反論されない(少なくとも即座には)
会見や取材では記者から厳しい質問が来る場合があります。Xは一方向の発信なので、不都合な問いをその場で受けずに済みます。

3即時・直接に届く
新聞の朝刊やテレビのニュース番組を待つ必要がありません。フォロワーに対して、自分のタイミングで瞬時に情報を届けられます。

4マスメディアが後追いしてくれる
Xで発信すると、マスメディアが「Xによると」と引用して報じてくれる。つまり、会見を開かなくても、マスメディアの拡散力を利用できます。

特に4点目は深刻です。

政治家や著名人は、マスメディアを「通らなくても」情報が広がるうえに、マスメディアが後から引用することでさらに広がるという構造を、すでに理解して活用しています。

マスメディアは、意図せず「無料の広報ツール」になっています。

③「Xによると」報道が生む三重の問題

マスメディアが「Xによると」と書くとき、表面上は「情報を伝えている」ように見えます。しかし実際には、マスメディアの存在価値の根幹を、三つ同時に失っています。

1

速報性の喪失

生活者がすでにXで知っている情報を、マスメディアが後から報じても、速報としての価値はありません。ニュースの第一報として届ける役割は、すでにXに移っています。

「Xによると」と書く時点で、マスメディアは速報競争に敗れたことを自ら認めています。

2

報道の「議題」をXに設定させている

誤解のないよう言えば、マスメディアはXの投稿をそのまま流しているわけではありません。

テレビでは解説者やアナウンサーが複数人並んで、Xの投稿内容を紹介し、検証・解説し合う。一定の報道行為は存在しています。

しかし問題の本質はそこではありません。

検証の出発点がXの投稿である、という構造です。

政治家や著名人がXで発信した内容が「報道すべき議題」として自動的に設定され、マスメディアはその議題に乗っかって解説する側に回っている。本来マスメディアが自ら取材して立てるべき議題を、Xに決めてもらっている状態です。

3

独自取材との「同等性」が失われている

かつてマスメディアは、自らが取材し、裏を取り、複数の情報源を当たった上で報道の議題を立てていました。

Xの投稿を解説することが報道の中心になるということは、その独自取材と「Xを解説する報道」が同等の扱いで並ぶ、あるいはXの解説が主役になるということです。

政治家や著名人の側から見れば、「Xに書けばマスメディアが取り上げて解説してくれる」という構造が固定化します。

つまり発信者が報道のアジェンダをコントロールできる。マスメディアが独自に「これを問うべきだ」と判断して取材する機会が、相対的に減っていくのです。

速報でXに負け、報道の議題をXに設定され、独自取材の比重が下がっていく。「Xによると」の四文字は、マスメディアが自ら議題を立てる力を少しずつ手放していく過程の、象徴的な言葉です。

④両側から「いなくてもよい」立場になりつつあるマスメディア

前編で整理した通り、生活者はすでにマスメディアを「オールドメディア」と呼び始めています。

  • 自分たちに都合の悪い問題に踏み込まない。
  • 権力と近すぎる。
  • 横並びの報道しかしない。

そういった不信から、生活者の側がマスメディアから離れています。

そして今、取材対象の側も、マスメディアを必要としなくなっています。

マスメディアをめぐる「二重の離脱」

生活者側からの離脱

  • 「オールドメディア」という不信
  • 自己検閲・横並びへの嫌気
  • SNSで直接情報を取得
  • 新聞購読・テレビ視聴の減少

取材対象側からの離脱

  • Xで直接発信・拡散
  • 編集・反論を受けない
  • マスメディアが後追い引用
  • 会見・取材機会の縮小

マスメディアはかつて、取材対象と生活者の「あいだ」に立つことで価値を持っていました。

しかし今、その「あいだ」から押し出されつつあります。

取材対象は直接発信し、生活者は直接受信する。マスメディアは、その流れの外に置かれています。

これはマスメディアにとって、かつてない規模の存在意義の危機です。

しかし、同時に与えられた課題でもあります。マスメディアにしかできないことは、本当に何もないのか。

⑤活路は「Xを深く検証する」ことではない“議題設定権を取り戻すこと”

ここで一つ、陥りやすい誤解を整理しておく必要があります。

「Xによると」報道の問題を指摘すると、「ではXの投稿をより深く検証すればよい」という発想が出てきます。しかしそれは、問題の解決にはなりません。

Xの投稿を深く検証しても、報道の中心がXであることに変わりはありません。

議題を設定しているのは依然として発信者であり、マスメディアはその議題の上で動いているだけです。

本当の活路は、マスメディアが自ら議題を立て直すことです。

Xへの依存から脱却し、独自の取材力によって「報道すべきこと」を自分たちで決める力、議題設定権を取り戻すことです。

そして、Xを脇役にしなければいけません。

議題設定権の比較

【Xに議題を設定させている状態】

  • 政治家がXで発信 → それを報道の起点にする
  • Xで話題になっていること → それを解説・検証する
  • 発信者の都合で選ばれた議題 → マスメディアが乗っかる

【マスメディアが議題設定権を持っている状態】

  • 政治家がXで言わなかったこと → 独自取材で掘る
  • Xでは話題にならない構造的問題 → 自ら立てて報じる
  • 生活者の側から見た議題 → 自分たちで設定する

かつてマスメディアが力を持っていたのは、単に情報を仲介していたからではありません。

「これが今、社会にとって重要な問題だ」と判断し、取材し、報じることで、世論の関心を動かす力、議題設定力を持っていたからです。

その力は、Xに奪われたのではありません。Xの登場に対応する中で、マスメディア自身が少しずつ手放してきたのです。

議題設定権を取り戻すために必要なこと

  • Xで発信されていない問題を、独自取材で発掘する
  • 発信者が触れたくない事実を、取材によって表に出す
  • 生活者が知るべきなのに誰も報じていない構造問題を立てる
  • 「Xが話題にしていること」ではなく「社会が本当に必要としている情報」を基準に報道を組み立てる

まとめ

政治家も著名人もXで発信する時代に、マスメディアはかつての「仲介者」としての立場を失いつつあります。

生活者からも、取材対象からも、「いなくてもよい」位置に追いやられています。

この記事のまとめ

  • 情報は「政治家→マスメディア→生活者」から「政治家→X→生活者(とマスメディア同時)」へと変わった
  • 政治家・著名人がXを使う理由は「編集されない」「反論されない」「マスメディアが後追いしてくれる」から
  • 「Xによると」報道は速報で負け、報道の議題をXに設定され、独自取材の比重を下げる
  • マスメディアは生活者側からも取材対象側からも「二重に離脱」されつつある
  • 活路は「Xをより深く検証する」ことではなく、独自取材によって議題設定権を取り戻すことだ

Xによる構造変化は、マスメディアに「議題設定権を誰が持つのか」という根本的な課題を突きつけています。

Xの投稿を解説し続けるなら、マスメディアは発信者の広報装置として機能し続けることになります。

しかし逆に、Xで話題になっていないことを独自取材で掘り起こし、発信者が触れたくない事実を表に出し、生活者が本当に必要としている情報を自分たちの判断で届けるなら、マスメディアはXが存在するこの時代にも、なくてはならない存在であり続けられます。

「Xによると」と書くたびに、マスメディアは議題設定権を一つ手放しています。

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広田 誠一