かつて、新聞業界の部数減少は「緩やかな下り坂」と表現されていました。
しかし2026年を迎えた今、その表現はもはや正確ではありません。
全国で一律の戸別配達を支えてきたビジネスモデルそのものが、「維持できるかどうか」の瀬戸際に立たされているからです。
部数半減の現実
1997年のピーク時に5,000万部を超えていた新聞の総発行部数は、2025年10月時点で2,486万部まで落ち込みました。30年を経ずして、新聞市場はほぼ半減したことになります。
しかも、この「発行部数」という数字には、実際には読者に届いていない可能性がある「押し紙」が含まれていると指摘されています。
つまり、新聞広告の実態を考えるには、公表部数だけでなく、実際に読者の手元に届いている部数まで見ていく必要があります。本記事では最新のABC部数をもとに、その実像を整理します。
1「発行部数」「実売部数」「押し紙」の違いを整理する
まず、新聞の部数を読むうえで欠かせない3つの言葉を整理しておきます。新聞広告を考えるうえでは、この違いを理解しておくことが非常に重要です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 発行部数 | 新聞社が発行・出荷し、日本ABC協会などで集計される部数。広告主に提示される公式数字として使われることが多い。 |
| 実売部数 | 実際に読者が購読し、料金を支払っていると考えられる部数。 |
| 押し紙 | 販売店に搬入されるものの、実際には読者に配達されず、残紙・廃棄などになると指摘される部数。 |
数式で表すと
発行部数 = 実売部数 + 押し紙とされる可能性のある部数
たとえば「500万部発行」と公表されている新聞でも、その一部が実際には読者に届いていないとすれば、広告主が想定する到達規模とはズレが生じます。押し紙の構造や裁判の経緯まで詳しく知りたい方は、押し紙問題 完全ガイドで体系的に整理しています。
2全国主要5紙の部数データ推移
では、2026年時点で主要全国紙の発行部数はどうなっているのでしょうか。
| 新聞社 | 2026年2月ABC部数 | 前年同月比減少数 |
|---|---|---|
| 読売新聞 | 5,212,170部 | −389,059部 |
| 朝日新聞 | 3,118,265部 | −162,875部 |
| 毎日新聞 | 1,108,806部 | −188,772部 |
| 日本経済新聞 | 1,220,389部 | −107,038部 |
| 産経新聞 | 761,322部 | −49,945部 |
参照元:MEDIA KOKUSYO
読売・毎日で目立つ大幅減
読売新聞は年間で約39万部を失いました。
毎日新聞も約19万部、率にして約14.5%の減少となり、部数規模に対する減少率では主要全国紙の中でもかなり厳しい状況です。
主要5紙全体で見ると、紙の新聞を支えてきた全国紙モデルそのものが大きな曲がり角に来ていることが分かります。
なお、直近の2026年3月度ABC部数では、毎日新聞は1,083,632部まで減少し、前年同月比202,418部減、減少率は約15.7%となっています。2月時点でも厳しい数字でしたが、3月にはさらに減少が進んでおり、部数減少の流れが続いていることが分かります。
現場の視点:数字より先に、風景が動いていた
部数の減少は、ABCの数字を待つまでもなく、現場の風景から先に伝わってきます。
電車内で新聞を広げる人は目に見えて減り、かつては当たり前に置かれていた飲食店の新聞も、姿を消しつつあります。「新聞販売店」関連のキーワードで当ブログへ流入する検索の多さも、実売部数の落ち込みと、押し紙対策に苦しむ販売現場の空気を映していると感じます。
一方で、ホテルや飲食店で新聞が大量に無料配布される光景は、むしろ最近よく見かけるようになりました。配れば配るほど紙代・輸送費がかさむはずの紙が、なぜ無料で積まれているのか?確たることは言えませんが、実配先を失った部数の行き先を考えると、腑に落ちる部分があります。数字は、現場で起きていたことに後から追いついているにすぎません。
3押し紙を考慮した「実売部数」の推定
次に、2026年2月度のABC部数をベースに、押し紙の存在を考慮した実売部数の試算を行います。
ここでは便宜上、各紙の想定押し紙率を約30%と仮定しています(2025年以前の記事では毎日新聞の押し紙率を50%前後で試算していましたが、2026年以降は押し紙調整が進んでいる可能性を考慮し、本記事では各紙30%で統一して試算しています)
また、実際の押し紙率は新聞社や地域、販売店によって異なります。そのため、以下の数字はあくまで広告出稿を検討する際の参考値としてご覧ください。
この推計はあくまで試算です。実際の実売部数を断定するものではありません。新聞広告の費用対効果を考える際のひとつの目安としてご参照ください。
| 新聞社 | ABC公表部数 | 想定押し紙率 | 実売推計 |
|---|---|---|---|
| 読売新聞 | 5,212,170部 | 約30% | 約365万部 |
| 朝日新聞 | 3,118,265部 | 約30% | 約218万部 |
| 毎日新聞 | 1,108,806部 | 約30% | 約78万部 |
| 日本経済新聞 | 1,220,389部 | 約30% | 約85万部 |
| 産経新聞 | 761,322部 | 約30% | 約53万部 |
実売推計では、100万部を割る新聞が増える
ABC公表部数では、主要5紙のうち4紙が100万部を超えています。
しかし、押し紙を考慮した実売推計で見ると、100万部を超えるのは読売新聞と朝日新聞の2紙に限られる可能性があります。
毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞はいずれも実売推計では100万部を割り込む水準となります。特に毎日新聞は、全国紙としての影響力をどう維持するのかが大きな課題です。
なぜ毎日新聞も30%に戻したのか(当ブログ独自の推計)
押し紙率の前提について、当ブログの考え方を補足しておきます。読売・朝日・日経・産経の4紙は、過去の裁判記録や公開情報をもとに、かねてより約30%で試算してきました。毎日新聞だけは、裁判記録や業界関係者の複数の証言、そして筆者自身が広告の現場で見てきた実感から、従来は50%相当と判断していました。
ただ、ここ2年ほど15%近い部数減の公表が続き、公称が100万部強まで下がりました。仮に押し紙率を50%のまま当てはめると、実配は約50万部という計算になります。さすがにそこまでではなく、相応に押し紙の調整は進んだとみるのが自然です。そこで本記事では、毎日新聞も他紙と同じ30%に戻し、実売を約78万部(70万部台)と置いています。
押し紙率が10%程度にとどまると見るのは、現在の新聞販売の構造を考えるとやや楽観的かもしれません。もちろん実態を外部から断定することはできませんが、本記事では30%という前提を、広告出稿を検討するうえでの現実的な試算値として置いています。
広告主への実務的示唆
新聞広告の出稿判断では、ABC公表部数だけを見るのではなく、実売に近い到達規模を想定して費用対効果を再計算することが重要です。特に全国紙へ大きな予算を投下する場合は、部数・地域・読者属性・広告料金をセットで確認する必要があります。
4デジタルシフトの成否で鮮明になる格差
紙の部数が減る中で、各新聞社の将来性を分けるのはデジタル収益の強さです。
紙の減少をデジタルで補える新聞社と、補えない新聞社の差は、今後さらに広がると考えられます。
| 新聞社 | デジタル戦略の状況 |
|---|---|
| 日本経済新聞 | デジタル会員数が大きく、紙とデジタルの収益バランスが比較的安定している。 |
| 朝日新聞 | デジタル展開は進めているものの、日経との差は大きい。 |
| 毎日新聞 | デジタル収益化が遅れており、紙の部数減少を十分に補えていない可能性がある。 |
日経新聞は紙の部数だけを見ると減少していますが、デジタル会員という別の収益基盤を持っています。
一方で、紙の部数減少をデジタル収益で補えない新聞社は、販売網、広告収入、編集体制のすべてに影響が出やすくなります。
現場の視点:有料で申し込む理由が、見えにくい
率直に言えば、有料で申し込む積極的な理由が見当たらない、というのが率直な印象です。無料のポータルサイトで読める情報で十分だからです。日経が「ビジネスに不可欠」、朝日が「コアな読者の支持」という明確な理由を持つのに対し、毎日には「ここでしか読めない」「毎日ならではの視点」という一点が見えにくいのです。紙とデジタルを併用する読売とは、そもそも事情が異なります。
デジタル課金が伸びるかどうかは、結局のところ部数減を補う体力の問題ではなく、その新聞が持つ「代わりのなさ」の問題です。毎日新聞の苦戦は、デジタル戦略の巧拙という以前に、媒体としての独自性をどう取り戻すかという、より根の深い課題を映していると感じます。
5広告主が新聞広告を判断するための3つの視点
ここまでの部数データを踏まえると、広告主や広告代理店は、新聞広告をこれまでと同じ感覚で判断するべきではありません。最低限、次の3つの視点が必要です。
視点1:ABC部数をそのまま信じない
ABC部数は重要な公式指標ですが、実際の読者接触をそのまま表しているとは限りません。広告出稿前には、実売に近い到達規模を想定して、広告料金とのバランスを見る必要があります。
視点2:全国紙と地域の一致を確認する
読売新聞が全国最大部数であっても、広告主のターゲットが集中する地域で強いとは限りません。都道府県別の発行部数や、実際の商圏との一致を確認することが重要です。
視点3:毎日新聞の急落は特殊事情として切り分ける
毎日新聞の部数減少は、業界全体の減少ペースと比べても目立ちます。他紙と同じ全国紙として単純比較するのではなく、毎日新聞の発行部数減少の構造を個別に押さえたうえで、経営状況・販売網・読者基盤・広告価値を見て判断する必要があります。
6まとめと、次に読むべき記事
2026年の全国紙は、公表部数の減少に加え、押し紙を差し引いた実売ではさらに小さな数字が見えてきます。とりわけ毎日新聞は、減少率・実売・デジタルのいずれの面でも、全国紙モデルの限界を最も鮮明に映す存在になっています。広告主・広告代理店にとっては、「全国紙だから安心」という前提を一度外して数字を読み直すことが、これまで以上に重要になっています。
📌 当ブログでは、ABC部数が更新されるたびに本記事の数字を見直し、最新の全国紙の部数動向を追いかけています。新聞の部数を定点観測したい方は、ぜひブックマークしてまた覗きにきてください。
次に読むなら、この3本
② 全国紙5紙の最新ランキングをまとめて見たい方は新聞発行部数ランキング2026へ。
③ 押し紙の構造や裁判の経緯を深掘りしたい方は押し紙問題 完全ガイドへ。
※本記事では、主要全国紙ごとの最新動向を把握するためにMEDIA KOKUSYO掲載の2026年2月度・3月度ABC部数を参照し、新聞広告の実態を考えるために押し紙問題に関する各種情報をもとに整理しています。実売部数の推計は当ブログ独自の試算であり、実際の部数を断定するものではありません。

