かつて、新聞業界の部数減少は「緩やかな下り坂」と表現されていました。
しかし2026年を迎えた今、その表現はもはや正確ではありません。
全国で一律の戸別配達を支えてきたビジネスモデルそのものが、「維持できるかどうか」の瀬戸際に立たされているからです。
部数半減の現実
1997年のピーク時に5,000万部を超えていた新聞の総発行部数は、2025年10月時点で2,486万部まで落ち込みました。30年を経ずして、新聞市場はほぼ半減したことになります。
しかも、この「発行部数」という数字には、実際には読者に届いていない可能性がある「押し紙」が含まれています。
つまり、新聞広告の実態を考えるには、公表部数だけでなく、実際に読者の手元に届いている部数まで見ていく必要があります。
本記事では、2026年6月度の最新ABC部数をもとに、その実像を整理します。
【2026年9月・関連ニュース】
部数と広告料金の関係を考えるうえで、見過ごせないニュースが入りました。日本経済新聞社が、広告冊子「THE NIKKEI MAGAZINE」の広告主2社に対し、部数を過大に提示して料金を過大請求していたと発表しています。
日経の広告冊子はなぜ「過大請求」に至ったのか——部数を巡る10の疑問で、社内で確認できたはずの事実がなぜ長期化しているのかを整理しています。
本記事のテーマである「発行部数と実配部数のズレ」が、広告料金という形で表面化した事例として、あわせて読むことをおすすめします。
1.「発行部数」「実売部数」「押し紙」の違いを整理する
まず、新聞の部数を読むうえで欠かせない3つの言葉を整理しておきます。新聞広告を考えるうえでは、この違いを理解しておくことが非常に重要です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 発行部数 | 新聞社が発行・出荷し、日本ABC協会などで集計される部数。広告主に提示される公式数字として使われることが多い。 |
| 実売部数 | 実際に読者が購読し、料金を支払っていると考えられる部数。 |
| 押し紙 | 販売店に搬入されるものの、実際には読者に配達されず、残紙・廃棄などになると指摘される部数。 |
数式で表すと、発行部数 = 実売部数 + 押し紙とされる可能性のある部数です。
たとえば「500万部発行」と公表されている新聞でも、その一部が実際には読者に届いていないとすれば、広告主が想定する到達規模とはズレが生じます。
押し紙の構造や裁判の経緯まで詳しく知りたい方は、押し紙問題 完全ガイドで体系的に整理しています。
2.全国主要5紙の最新部数(2026年6月)
2026年6月度のABC部数を多い順に並べると、次のとおりです。
| 新聞社 | 2026年6月ABC部数 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 読売新聞 | 4,997,651部 | ▲444,899部(約8.2%減) |
| 朝日新聞 | 3,059,598部 | ▲174,715部(約5.4%減) |
| 日本経済新聞 | 1,173,206部 | ▲115,233部(約8.9%減) |
| 毎日新聞 | 1,054,237部 | ▲157,335部(約13.0%減) |
| 産経新聞 | 740,939部 | ▲57,313部(約7.2%減) |
※部数と前年同月比は、MEDIA KOKUSYO「2026年6月ABC部数」を参照。減少率は前年同月の部数から当ブログで計算しています。
読売は500万部割れ、毎日は100万部が目前
読売新聞は4,997,651部となり、500万部を割りました。前年同月から444,899部、約8.2%の減少です。
毎日新聞は1,054,237部で、100万部まで約5.4万部です。前年同月から157,335部、約13.0%減少し、主要5紙の中で最も大きな減少率となりました。
5紙合計は11,025,631部です。前年同月から949,495部、率にして約7.9%減りました。特定の一紙だけではなく、全国紙全体の縮小が続いています。
現場の視点:数字より先に、風景が動いていた
部数の減少は、ABCの数字を待つまでもなく、現場の風景から先に伝わってきます。
電車内で新聞を広げる人は目に見えて減り、かつては当たり前に置かれていた飲食店の新聞も、姿を消しつつあります。
「新聞販売店」関連のキーワードで当ブログへ流入する検索の多さも、実売部数の落ち込みと、押し紙対策に苦しむ販売現場の空気を映していると感じます。
一方で、ホテルや飲食店で新聞が大量に無料配布される光景は、むしろ最近よく見かけるようになりました。
配れば配るほど紙代・輸送費がかさむはずの紙が、なぜ無料で積まれているのか。確たることは言えませんが、実配先を失った部数の行き先を考えると、腑に落ちる部分があります。
数字は、現場で起きていたことに後から追いついているにすぎません。
3.押し紙を考慮した「実売部数」の推定
次に、2026年6月度のABC部数をベースに、押し紙の存在を考慮した実売部数を試算します。
ここでは便宜上、各紙の想定押し紙率を約30%と仮定しています。
2025年以前の記事では毎日新聞の押し紙率を50%前後で試算していましたが、近年の大幅な公称部数減少により押し紙の調整が進んだ可能性を考慮し、本記事では5紙とも30%で統一しました。
実際の押し紙率は、新聞社、地域、販売店によって異なります。
以下の数字は、広告出稿を検討する際の参考値であり、実際の実売部数を断定するものではありません。
| 新聞社 | ABC公表部数 | 想定押し紙率 | 実売推計 |
|---|---|---|---|
| 読売新聞 | 4,997,651部 | 約30% | 約350万部 |
| 朝日新聞 | 3,059,598部 | 約30% | 約214万部 |
| 日本経済新聞 | 1,173,206部 | 約30% | 約82万部 |
| 毎日新聞 | 1,054,237部 | 約30% | 約74万部 |
| 産経新聞 | 740,939部 | 約30% | 約52万部 |
実売推計では、100万部を超えるのは2紙
ABC公表部数では、主要5紙のうち4紙が100万部を超えています。
しかし、押し紙を30%と仮定した実売推計では、100万部を超えるのは読売新聞と朝日新聞の2紙です。
日本経済新聞、毎日新聞、産経新聞はいずれも100万部を割り込む試算となります。
公表部数だけを見て広告の到達規模を判断すると、実際の読者接触との間に大きな差が生じる可能性があります。
毎日新聞の想定押し紙率を30%とした理由
読売・朝日・日経・産経の4紙は、かねてより約30%で試算してきました。
毎日新聞だけは従来50%相当と判断していましたが、大幅な部数減少が続き、50%のままでは実売が約53万部となり低すぎるため、本記事では毎日新聞も30%と仮定し、実売を約74万部と置いています。
もちろん実態を外部から断定することはできず、あくまで試算値です。
広告主への実務的示唆
新聞広告の出稿判断では、ABC公表部数だけを見るのではなく、実売に近い到達規模を想定して費用対効果を再計算することが重要です。
特に全国紙へ大きな予算を投下する場合は、部数・地域・読者属性・広告料金をセットで確認する必要があります。
4.デジタルシフトの成否で鮮明になる格差
紙の部数が減る中で、各新聞社の将来性を分けるのはデジタル収益の強さです。
紙の減少をデジタルで補える新聞社と、補えない新聞社の差は、今後さらに広がると考えられます。
| 新聞社 | デジタル戦略の状況 |
|---|---|
| 日本経済新聞 | デジタル会員数が大きく、紙とデジタルの収益バランスが比較的安定している。 |
| 朝日新聞 | デジタル展開は進めているものの、日経との差は大きい。 |
| 毎日新聞 | デジタル収益化が遅れており、紙の部数減少を十分に補えていない可能性がある。 |
日経新聞は紙の部数だけを見ると減少していますが、デジタル会員という別の収益基盤を持っています。
実践的な使い方は日経電子版を打ち合わせ・営業・企画に生かす実践方法で紹介しています。
一方、紙の部数減少をデジタル収益で補えない新聞社は、販売網、広告収入、編集体制のすべてに影響が出やすくなります。
毎日新聞の苦戦は、デジタル戦略の巧拙という以前に、媒体としての独自性をどう取り戻すかという、より根の深い課題を映していると感じます。
5.広告主が新聞広告を判断するための3つの視点
ここまでの部数データを踏まえると、広告主や広告代理店は、新聞広告をこれまでと同じ感覚で判断するべきではありません。最低限、次の3つの視点が必要です。
視点1:ABC部数をそのまま信じない
ABC部数は重要な公式指標ですが、実際の読者接触をそのまま表しているとは限りません。広告出稿前には、実売に近い到達規模を想定して、広告料金とのバランスを見る必要があります。
視点2:全国紙と地域の一致を確認する
読売新聞が全国最大部数であっても、広告主のターゲットが集中する地域で強いとは限りません。都道府県別の発行部数や、実際の商圏との一致を確認することが重要です。
視点3:毎日新聞の急落は特殊事情として切り分ける
毎日新聞の部数減少は、業界全体の減少ペースと比べても目立ちます。他紙と同じ全国紙として単純比較するのではなく、毎日新聞の発行部数減少の構造を個別に押さえたうえで、経営状況・販売網・読者基盤・広告価値を見て判断する必要があります。
6.まとめと、次に読むべき記事
2026年6月、読売新聞は500万部を割り、毎日新聞は100万部まで約5.4万部となりました。
公表部数の減少に加え、押し紙を考慮した実売推計では、さらに小さな到達規模が見えてきます。
広告主・広告代理店にとっては、「全国紙だから安心」という前提を外し、最新部数、地域、読者属性、広告料金を合わせて判断することが、これまで以上に重要です。
当ブログでは、ABC部数が更新されるたびに本記事の数字を見直し、最新の全国紙の部数動向を追いかけています。新聞の部数を定点観測したい方は、ぜひブックマークしてまた覗きにきてください。
次に読むなら、この3本
- 毎日新聞「100万部割れ」の現実を読む
- 新聞発行部数ランキング2026|全国紙5紙の最新ランキング
- 押し紙問題 完全ガイド|構造や裁判の経緯を深掘り
※本記事の2026年6月度ABC部数は、MEDIA KOKUSYO掲載データを参照しています。減少率と実売部数の推計は当ブログ独自の計算であり、実際の有料購読者数を断定するものではありません。

