連載:新聞社のデジタルはなぜ稼げないのか(全4回)
第1回(事実)新聞社はデジタルで稼げているのか ←本記事
第2回(原因)新聞のニュースはなぜYahoo!で完結してしまうのか
第3回(処方)新聞社のデジタル広告はなぜ伸びないのか
第4回(実例)千葉日報のLINE74万人は、地方紙の未来を変える可能性がある
新聞社は、紙からデジタルへ移行しなければならない。
これは、もはや新聞業界だけでなく、広告業界でも広く共有されている前提です。
紙の新聞発行部数は減少し、新聞広告もかつてのような力を失っています。
若い世代は紙の新聞を購読せず、ニュースはスマートフォンで見る。
広告主も、新聞、雑誌、テレビ、ラジオといった従来型メディアだけではなく、インターネット広告、SNS広告、動画広告、検索広告、リテールメディアなどへ予算を移しています。
だからこそ新聞社は、デジタル化を進めなければならない。
ここまでは、誰もが納得しやすい話です。
しかし、本当に考えなければいけないのは、
「新聞社はデジタル化に取り組んでいるのか」ではありません。
考えるべきは、
新聞社はデジタルで稼げているのか
という点です。
結論から言えば、少なくとも広告収入という面では、厳しい現実が見えています。
新聞広告は1年で約280億円減少した
電通が2026年3月に発表した「2025年 日本の広告費」によると、2025年の新聞広告費は3,136億円、前年比91.8%でした。
単純に逆算すると、2024年の新聞広告費は約3,416億円です。
つまり、2025年は前年から約280億円減少したことになります。
新聞広告の減少は、今に始まった話ではありません。
完全な縮小トレンドにあります。
しかし、ここで重要なのは、減少した金額の大きさです。
新聞広告は、たった1年で約280億円減りました。
では、その減少分を、新聞社のデジタル広告は補えているのでしょうか。
補えていれば問題ありません。
しかし、答えは厳しいものです。
新聞デジタル広告費は、年間総額でも191億円しかない
同調査によると、2025年の新聞デジタル広告費は191億円、前年比97.9%でした。
つまり、新聞デジタル広告費は、年間総額で191億円です。
新聞広告は1年で約280億円減った。
一方、新聞デジタル広告費は年間総額で191億円。
つまり、新聞広告が1年間で失った金額だけで、新聞デジタル広告費の市場規模そのものを上回っているのです。
数字で見ると、厳しさは一目瞭然です。
| 項目 | 金額・前年比 |
|---|---|
| 2025年の新聞広告費 | 3,136億円・前年比91.8% |
| 新聞広告費の前年差 | 約280億円減少 |
| 2025年の新聞デジタル広告費 | 191億円・前年比97.9% |
新聞社は「紙からデジタルへ」と言われています。
しかし広告収入だけを見ると、紙の減少分をデジタルが補うどころか、新聞デジタル広告費の総額ですら、紙の1年分の減少額に届いていません。
この現実は、もっと重く受け止めるべきでしょう。
新聞デジタル広告は2022年をピークに失速している
さらに重要なのは、2025年だけが悪かったわけではないという点です。
新聞デジタル広告費は、2018年に推定が始まって以降、しばらくは成長していました。
| 年 | 新聞デジタル広告費 | 流れ |
|---|---|---|
| 2018年 | 132億円 | 推定開始 |
| 2019年 | 146億円 | 成長 |
| 2020年 | 173億円 | 成長 |
| 2021年 | 213億円 | 大きく成長 |
| 2022年 | 221億円 | ピーク |
| 2023年 | 208億円 | 前年割れ |
| 2024年 | 195億円 | 前年割れ |
| 2025年 | 191億円 | 前年割れ |
2022年までは、確かに成長していました。
特に2020年から2021年にかけては、コロナ禍によるニュース接触の増加、新聞社サイトのPV増加、オンラインイベントやタイアップ広告の拡大などもあり、新聞デジタル広告は伸びていました。
しかし、その成長は長く続きませんでした。
2022年の221億円をピークに、2023年は208億円、2024年は195億円、2025年は191億円と、3年連続で前年割れしています。
つまり、新聞デジタル広告は「これから伸び続ける市場」というより、すでに一度ピークを迎え、失速局面に入っている可能性があります。
新聞社のデジタル化は急務だと言われています。
本来であれば、新聞デジタル広告は今こそ二桁成長していても不思議ではありません。
ところが現実には、3年連続で前年割れしている。
これは、単なる一時的な不調ではなく、新聞社のデジタル広告モデルそのものが成長軌道に乗れていない可能性を示しています。
インターネット広告全体は伸びている
さらに厳しいのは、インターネット広告市場全体は伸びているという点です。
同調査によると、2025年のインターネット広告費は4兆459億円、前年比110.8%でした。
日本の総広告費に占めるインターネット広告費の構成比は50.2%となり、初めて過半数を超えています。
つまり、広告市場全体では、デジタル広告は成長しています。
広告主のお金は、確実にデジタルへ流れています。
それにもかかわらず、新聞デジタル広告費は191億円、前年比97.9%。前年割れです。
もしインターネット広告市場全体が縮小しているなら、新聞デジタル広告の苦戦も市場環境の問題として説明できます。
しかし実際には、ネット広告全体は二桁成長しています。
その中で新聞デジタル広告は伸びていない。
これは、新聞社のデジタル広告が、現在のインターネット広告市場の成長構造にうまく乗れていないことを示しています。
なぜ191億円しかないのか
答えを探るには、新聞デジタル広告の内訳に目を向ける必要があります。
同調査によると、2025年は官公庁、金融、ECサイト、BtoB企業などの出稿が目立ちました。
「予約型広告」や「タイアップ広告」は比較的堅調だった一方で、「運用型広告」はPV減少や単価低下の影響を受けました。
つまり、新聞社ブランドを生かした広告商品には一定の需要があるものの、PVと広告単価に依存する一般的なネット広告では苦戦しているということです。
新聞社らしい信頼性や編集力を評価する広告主は一定数は存在します。
しかし、インターネット広告市場全体を牽引しているのは「運用型広告」です。
新聞デジタル広告が伸び悩んでいる背景には、この市場構造とのミスマッチがあります。
新聞デジタル広告は、ネット広告市場のわずか0.5%弱
新聞デジタル広告費191億円という数字は、単体で見れば小さくないように見えます。
しかし、インターネット広告費全体は4兆459億円です。新聞デジタル広告のシェアは0.5%弱に過ぎません。
広告市場全体がデジタルへ移る中で、新聞社はその成長の恩恵を十分に取り込めていないのです。
新聞社には取材力や編集力、長年培ったブランドや信頼があります。
それでもデジタル広告市場では大きな存在感を示せていません。
「デジタル化している」と「デジタルで稼げている」は違う
新聞社はニュースサイトやアプリを運営し、Yahoo!ニュースやLINEニュース、SNSなどを通じて情報発信を続けています。
しかし、それは「デジタルで発信している」という話であって、「デジタルで十分に稼げている」という話ではありません。
今回の数字を見る限り、新聞社はデジタル化そのものは進めているものの、広告収入の面ではまだ大きな成果を出せていないと考えるべきでしょう。
Yahoo!ニュースやLINEニュースへの依存は、根本解決ではない
新聞社は自社サイトだけで十分な読者を集めることが難しくなり、Yahoo!ニュースやLINEニュースなどの外部プラットフォームへの依存度を高めています。
これによって多くの読者に記事を届けられる一方で、読者との接点の主導権はプラットフォーム側にあります。
重要なのは、そこで得た読者を自社会員や有料購読者へ転換できるかどうかです。
アクセスを集めるだけでは収益基盤にはなりません。
読者との継続的な関係を築けるかが問われています。
紙の減少をデジタル広告だけで補うのは難しい
今回の数字から見える現実はシンプルです。
- 紙の新聞広告は減っている。
- 新聞デジタル広告も伸びていない。
- ネット広告市場全体は伸びている。
- しかし、その成長を新聞社は十分に取り込めていない。
つまり、「紙からデジタルへ」は進んでいても、デジタル広告はまだ紙の減少を補うほどの収益源にはなっていません。
少なくとも広告収入という面では、デジタル化がそのまま収益成長につながっているとは言い難い状況です。
まとめ:新聞社はデジタルで稼げているのか
この問いに対する答えは、少なくとも広告収入という観点では「まだ十分には稼げていない」です。
背景には、新聞社が強みを持つ「予約型広告」や「タイアップ広告」は一定の需要を維持している一方で、ネット広告市場の主戦場である「運用型広告」で苦戦している構造があります。
今回の数字から見えるのは、少なくともデジタル広告が紙の減少を補う存在にはなっていないという現実です。
新聞社の課題は「デジタル化が遅いこと」ではありません。
本当の課題は、デジタル化した先で、どう収益を生み出すかです。
ニュースサイトやアプリを運営し、Yahoo!ニュースやLINEニュースなどを通じて読者との接点を増やしても、それだけでは収益モデルにはなりません。
読者との関係を自社資産として蓄積し、広告や会員収入につなげられるかが問われています。
紙の衰退とデジタル広告の伸び悩み。この二重の課題に対して、新聞社は広告以外も含めた新しい収益モデルを構築できるのか。
それが今後の最大のテーマと言えるでしょう。
次回予告
では、なぜ新聞社のデジタル広告は伸びないのでしょうか?
実は、新聞社のニュースそのものは、いまも大量に読まれています。
ただし、新聞社のサイトではなく、Yahoo!ニュースの中で。
ニュースサイトを直接開く日本人は、わずか12%。そして、Yahoo!の中で読まれた記事の卸値は、1,000回読まれて平均124円。
次回は、生活者のデータと公正取引委員会の調査から、この構造を検証します。
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