新聞業界はなぜ変われない?20年以上衰退しても経営が動かない理由

新聞業界は、なぜ衰退しながら倒産しないのか|人事がニュースにならない業界の構造分析とは 新聞業界

新聞が厳しい。

これはもう、ニュースですらなくなりつつあります。

発行部数は減り続け、新聞広告も縮小。若い世代になるほど、紙の新聞を読む人は少なくなっています。

ところが、新聞業界を長く見ていると、もっと不思議なことがあります。

これだけ長く衰退しているのに、新聞社の経営の仕組みは驚くほど変わっていないことです。

普通の産業なら、20年以上も市場が縮小すれば、合併、買収、撤退、事業転換、経営陣の刷新など、何か大きな変化が起きます。

新聞では、それがなかなか起きません。

全国紙の顔ぶれも大きくは変わらず、社長が代わっても、そのことで新聞業界全体が動くような空気はほとんどありません。

新聞業界の問題は、単に「紙が売れなくなった」ことだけではないのかもしれません。

変わらなければならないほど環境が変わったのに、経営の仕組みそのものが変わりにくい。

今回は、ここを考えてみます。

新聞は20年以上、静かに縮み続けている

まず、現在地だけ確認しておきます。

日本新聞協会によると、2025年の新聞総発行部数は2,486万8,122部でした。

2000年には7,189万6千部ありました。

四半世紀で、およそ65%減です。

年 新聞発行部数
2000年 約7,190万部
2010年 約6,320万部
2020年 約3,509万部
2025年 約2,487万部

出典:日本新聞協会「新聞の発行部数と世帯数」

新聞広告も厳しい状態が続いています。

電通「2025年 日本の広告費」によると、新聞広告費は3,136億円。前年比91.8%でした。

一方、日本全体の広告費は8兆623億円で過去最高を更新しています。

広告そのものが消えているのではありません。

広告費が新聞以外へ移っている。

この違いは重要です。

つまり新聞社は、景気循環による一時的な不振ではなく、長期的な構造変化の中にいます。

普通なら、とっくに業界の形が変わっていてもおかしくない

ここまで市場が縮小すれば、普通は何かが起きます。

百貨店なら合併や店舗閉鎖が続きました。

家電量販店も再編されました。

銀行も統合を繰り返しました。

携帯電話、航空、流通なども、かつて存在した企業やブランドがなくなり、業界地図そのものが変わっています。

ところが新聞では、読売、朝日、毎日、日経、産経という全国紙の基本的な顔ぶれは長く変わっていません。

もちろん、内部では工場閉鎖、委託印刷、夕刊休止、地方での配送縮小、人員削減など、さまざまな合理化が進んでいます。

しかし、それは今の会社を維持するための縮小であって、業界の形そのものを作り直す動きとは少し違います。

20年以上市場が縮み続けている産業として考えると、むしろこちらの方が不思議です。

なぜ危機なのに、大改革が起きにくかったのか

理由のひとつは、新聞の衰退があまりにもゆっくり進んだことだと思います。

ある日突然、売上が半分になったわけではありません。

毎年少しずつ読者が減る。

広告も少しずつ減る。

販売店も少しずつ減る。

そのたびにコストを削れば、翌年も会社は続きます。

今年を乗り切れば、また来年を考えられる。

これが長く続きました。

急激な危機なら、大胆な決断もしやすくなります。

しかし、ゆっくり進む危機は厄介です。

「まだ大丈夫」が毎年成立してしまうからです。

俗にいう「茹でガエル」に近い状態でしょう。

気がつけば発行部数は四半世紀で約3分の1になっています。

それでも、途中の一年一年だけを見れば、会社が突然なくなるほどの変化ではありませんでした。

この時間の長さが、大改革を先送りできる環境を作ったのではないでしょうか。

象徴的なのが「新聞社の社長交代」です

新聞業界を見ていて、以前から不思議に思っていることがあります。

全国紙ほどの大企業でも、社長交代がほとんど大きなニュースにならないことです。

一般企業では、トップが誰になるかは重要なニュースです。

新しい社長が就任すれば、株価が動くこともあります。

大型投資をするのか。

不採算事業から撤退するのか。

M&Aを進めるのか。

デジタルへ大きく舵を切るのか。

誰が経営するかによって、会社が変わる可能性があるからです。

ところが新聞社の場合、社長が代わっても「これで会社が大きく変わる」と見る人は、それほど多くありません。

もちろん、新社長のインタビューなどは掲載されます。

ただ、「時代の変化に対応する」「新しいことに挑戦する」といった抱負だけでは、外から見れば経営方針が大きく変わったようには見えません。

なぜ社長が代わっても、変化への期待が生まれにくいのでしょうか。

ここに、新聞業界が変わりにくい理由が隠れているように思います。

トップが代わっても、トップを生む仕組みが変わらない

新聞社の経営トップは、多くの場合、長くその会社で働いてきた内部出身者です。

内部昇格そのものが悪いわけではありません。

新聞という特殊な事業を理解していることは、大きな強みにもなります。

問題は別です。

会社そのものを大きく変えなければならない局面でも、従来と同じ仕組みから経営者が選ばれ続けることです。

長年同じ会社で働き、組織の中で評価され、役員になり、その延長線上で社長になる。

その人物に、就任した瞬間から「これまで自分を評価してきた会社の仕組みそのものを壊してください」と求めるのは、かなり難しい話です。

人の能力や意欲とは別の問題です。

どんな会社でも、現在の仕組みの中で選ばれた人ほど、その仕組みを全面否定する判断はしにくくなります。

だから社長が代わっても、経営の基本線まで一気に変わるケースは少なくなります。

そして、その状況が続けば、外部からも人事への期待が薄れていきます。

問題は「誰が社長になるか」より、「どのような仕組みで社長が生まれるのか」なのかもしれません。

新聞社には、外から変わりにくい特殊な構造もある

新聞社が変わりにくい背景には、文化だけではなく制度面もあります。

新聞社には、一般企業とは少し違う資本構造があります。

日刊新聞紙を発行する株式会社については、いわゆる「日刊新聞法」によって株式譲渡を制限できる仕組みがあります。

報道機関が外部資本によって簡単に支配されないようにすることには、当然意味があります。

編集権や報道の独立を守ることは、新聞社にとって非常に重要です。

しかし、その仕組みにはもう一つの側面があります。

外部から経営改革を迫る力も入りにくくなります。

一般の上場企業なら、業績が長期間低迷すれば、株主から経営責任を問われます。

場合によっては経営陣の交代、社外取締役の増員、事業売却などを要求されます。

新聞社では、その圧力が相対的に働きにくい構造があります。

実際、2024年に日本経営倫理学会誌へ掲載された新聞社のガバナンスに関する研究でも、主要新聞社について、内部昇格者が多い取締役会や株主を意識しにくい経営構造が課題として指摘されています。

これは「新聞社の経営者が悪い」という話ではありません。

外から変える力も弱く、中から変える人も同じ仕組みの中で選ばれる。

この組み合わせが、新聞社を非常に変わりにくい組織にしている可能性があります。

必要なのは「外部人材」ではなく、外部の論理が入ること

では、異業種から社長を連れてくれば解決するのでしょうか。

そこまで単純ではないと思います。

新聞は普通の商品ではありません。

報道機関としての公共性、編集権の独立、取材網、地域との関係、販売店網、長年の読者との関係。

外部の経営者が来れば、すべて解決するわけではありません。

逆に新聞の特殊性を理解しない改革は、新聞そのものを壊す可能性もあります。

必要なのは、必ずしも「外部から社長を連れてくること」ではないでしょう。

新聞社の中だけでは生まれにくい考え方を、経営判断に入れる仕組みを作ること。

こちらの方が重要だと思います。

異業種の経営経験者かもしれません。

デジタル事業を伸ばしてきた人かもしれません。

社外取締役かもしれません。

あるいは新聞社の内部にいる人でも、従来の序列や部署の論理から離れて判断できる人ならいい。

重要なのは、「新聞社では昔からこうだから」という言葉だけで経営判断が終わらないことです。

新聞を残すために、新聞社を変える必要がある

新聞業界の話になると、「紙かデジタルか」という議論になりがちです。

しかし、本当の問題はそこではないのかもしれません。

紙を残してもいい。

デジタルを伸ばしてもいい。

地域を絞ってもいい。

専門分野へ集中してもいい。

会社ごとに答えは違うはずです。

問題なのは、答えを選ぶための経営の仕組みまで昔のまま残っていることです。

2000年に約7,190万部あった新聞は、2025年には約2,487万部になりました。

ここまで環境が変われば、本来は「どう新聞を売るか」だけではなく、新聞社そのものをどう作り直すかという議論が必要になります。

それでも同じ仕組みからトップを選び、同じ組織構造を維持し、毎年少しずつ縮小していく。

これを続けることの方が、むしろ大きなリスクになりつつあります。

まとめ|新聞業界が変わらない理由は、人より構造にある

新聞業界は20年以上、衰退を続けています。

それでも、大規模な業界再編や経営構造の変化は限定的です。

その理由を「新聞社に危機感がないから」と片付けるのは簡単です。

しかし、実際にはもっと根が深いように思います。

ゆっくり進んだ衰退。

内部昇格を中心とする人事。

外部から経営に圧力がかかりにくい資本構造。

報道機関だからこそ守ってきた独立性。

これらが長い時間をかけて重なり、新聞社を変わりにくくしてきました。

トップを代えるだけでは変わらない。トップを生み、経営判断を作る仕組みまで変えなければならない。

新聞を残したいのであれば、守るべきものと、変えるべきものを分ける時期に来ています。

守るべきなのは、報道そのものです。

新聞社の昔からの仕組みまで、すべて守る必要はないはずです。

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