耳に届く広告が売上を変える?
近年、視覚・嗅覚に続き、「聴覚」を活用したリテールメディアの可能性が徐々に模索されています。
まだ一般的な認知は高くなく、大規模な導入事例や継続的な成果報告も多くはありません。ただし、BGMや効果音、ナレーションといった音による演出が購買行動に与える影響についての研究や試験導入は始まっており、先進的なブランドや店舗では体験設計の一部として取り入れられる動きが見られます。
本記事では、五感マーケティングの一環として、「音×リテールメディア」の可能性を中心に、試験導入の例や活用アイデア、導入上の課題について解説します。
音による訴求の可能性とは?
音には「感情を動かす力」「記憶に残す力」「注意を引く力」があります。特に以下のような活用が考えられています:
- BGMの選曲による購買促進(例:クラシック音楽で高価格商品の購買率が上がる)
- 商品に関連する効果音やナレーション(例:調理音や商品の特徴を伝える音声)
- 店内アナウンスを用いたキャンペーン訴求
これらを戦略的に組み合わせることで、視覚だけでは得られない没入感や感情的な印象を顧客に与えることができます。
試験的な取り組みの例
以下は、音を活用したマーケティング手法の可能性を示す事例として、研究・実験段階または限られた環境での実施が報告されている例です:
- ファミリーレストランチェーンでは、ランチタイムに明るいポップ音楽を流すことで、滞在時間を短縮し回転率を向上させたとする実験報告があります。
- アパレルブランドでは、ブランドイメージに合ったBGMを導入した結果、購買率が1.3倍に増加したというマーケティングリサーチが存在します。
- ショールームや展示会では、音声ガイドや演出音を活用し、商品の世界観を演出して来場者の記憶定着を図るといった試みが行われています。
これらはまだ限定的な活用や一部のケースにとどまっており、現時点では「実績」と呼べるほどの広範な導入や継続的活用には至っていない段階ですが、今後の可能性を探るうえで参考になる試みといえるでしょう。
他メディアとの連動
「音」は単独での活用だけでなく、視覚・嗅覚との連動でさらなる効果を発揮します。
たとえば:
- サイネージ映像と連動した音声ナレーション
- 香りと組み合わせた調理シーンの再現
- タッチパネル操作と連動するクリック音や効果音
- 店舗内でのプロモーション映像に合わせて設置された音声装置が、商品の特徴やブランドストーリーを説明
- デジタルレジサイネージが自動で音声メッセージを流し、レジ待ち中にキャンペーン情報を伝達
こうした実際の音声連動施策は、主にアパレルや家電量販店、ドラッグストアなどで試験的に導入され始めており、「商品を五感で感じる」体験の中に組み込まれつつあります。
広告主・代理店にとっての価値
- 他社との差別化が可能(特に音に特徴がある商品)
- ブランドの世界観を統一的に伝えられる
- 視覚だけでない新しいタッチポイントの創出
特にナレーションや音楽制作会社との連携を深めることで、広告代理店にとっては「音響戦略」の提案力が問われる時代に入っています。
注意点と課題
- 音量や音質に関するクレームのリスク
- 商業施設では周囲との音干渉の懸念
- 店舗によってはスピーカー設置などのインフラ対応が必要
音の設計には、空間特性や時間帯に応じた細かな配慮が求められます。
まとめ
「音」は、香りに続いて注目されるリテールメディアの新領域になる可能性があります。
視覚・嗅覚・触覚と連動することで、より没入感のある店舗体験を実現し、顧客の購買行動やブランド認知に大きな影響を与える可能性があります。
五感マーケティングを本格的に取り入れたい広告主・店舗運営者・代理店にとって、「音」は取り組むべきテーマの一つです。
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