香りが広告になる時代へ
リテールメディアの進化が加速するなか、視覚や聴覚だけでなく「嗅覚」を活用するマーケティング手法があります。
特に東芝テックとScope社が開発した「香りリテールメディア」は、店舗における体験価値を大きく拡張する可能性を秘めています。
この技術は、AIカメラとPOSデータと連携し、店頭棚に設置した香り拡散装置から、商品に関連した香りをリアルタイムで発信。消費者の購買意欲を刺激する新しい手法として、一部の先進的な売場で試験導入が進んでいます。
実際の導入成果と有効性
香りの販促効果は定性的なものでしたが、近年はデータ連携により定量的な評価も可能となりつつあります。たとえば、ハワイ発の「ライオンコーヒー」では、香りリテールメディアを導入後、売上が前月比で約2倍に増加。単なる演出ではなく、販促効果のある広告手法であることが証明されました。
香水、コーヒー、芳香剤、食品など、「香り体験」が購買判断に直結する商材では、特に有効です。
視覚×嗅覚の連動による体験強化
この香りメディアは、デジタルサイネージや映像コンテンツと組み合わせることで、より深い体験価値を生み出す可能性があります。
- 映像と連動したコーヒーの香り(例えば、焙煎シーンと同時に広がる香ばしい香りで没入感を強化)
- 花のビジュアルに合わせたフレグランスの香り(例えば、桜やラベンダーなど季節に応じた香り演出で商品訴求)
- 新車展示会での「新車の香り」(例えば、映像に合わせて革シートや新素材の香りを拡散し、実際の運転をイメージさせる)
- 焼きたてパンやスイーツ紹介の映像に合わせた甘く香ばしい香り(例えば、ベーカリーコーナーで流すことで空腹感を刺激)
- 森林や海辺の風景映像に合わせた自然の香り(例えば、リラクゼーションや健康関連商品のコーナーで心地よさを演出)(例えば、映像に合わせて革シートや新素材の香りを拡散し、実際の運転をイメージさせる)
視覚と嗅覚が合わさることで、記憶定着率が向上し、ブランド体験の質が劇的に変化します。
広告会社・代理店にとっての価値
香りメディアは、イベントや体験型プロモーションを得意とする広告会社にとって、差別化要素として武器になるかもしれません。
- イベント会場での香り演出
- サンプリングと組み合わせた訴求(例えば、香水のミニボトルを配布しつつ香り演出を行うことで、より深く記憶に残る体験を提供)
- ブランドの世界観を体験として提供(例えば、南国をテーマにしたブースでトロピカルな香りを流すことで、非日常の雰囲気を演出)
さらに、既存のデジタルメディアや空間演出との連携も図りやすく、感情・記憶に訴える広告手法としての進化が期待されます。
課題と展望
もちろん課題も存在します。
- 香りの感じ方には個人差がある(アレルギーや好み)
- 密閉空間では拡散量・継続時間の管理が難しく、場合によっては「気持ち悪くなった」「強すぎる」といったクレームにつながる可能性がある
- 一方で、開放的な空間では香りが届きにくく、十分な体験が得られないという課題もある
- 店舗側の設置・運用コスト

このように、香りの拡散においては「強すぎず、弱すぎず」という絶妙なさじ加減が求められ、設計や設置環境には高度なチューニングが必要です。
しかしながら、ターゲットや設置場所を限定する形であれば、十分に実用化可能であり、特定カテゴリにおいては今後も市場が広がると見られます。
まとめ
香りリテールメディアは、広告・販促手法に新たな感覚を持ち込む可能性のある注目領域です。すでに成果が報告されており、
「香り×データ×体験」という新しい価値設計によって、広告主や代理店にとっても新たな武器となるでしょう。
五感を活用した広告の時代において、「香り」はいよいよメディアとして本格始動するフェーズに入りつつあります。
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