知識ゼロでもスッキリわかる電通「2年で赤字5,200億」は、倒産ではなく“自己手術”による再起動だった。

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前回の記事「電通グループ『3276億円赤字』の衝撃:過去最大の『自己手術』と再起動の全貌」では、今回の赤字がいかに異例であり、かつ戦略的な「膿出し」であったかを検証しました。

しかし、冷静に数字を振り返ると、前年の赤字(約1,921億円)と合わせ、わずか2年間で5,200億円近い巨額の最終損失(親会社の所有者に帰属する当期損失)を計上したことになります。

普通に考えれば「これほどの赤字を出して、会社は保つのか?」「本業もボロボロなのでは?」という疑問が湧くのは当然です。今回は、最新の決算短信(2026年2月13日発表)をさらに深く読み解き、電通が描く「復活へのシナリオ」を解説します。

1. 2年で5,200億円の最終赤字。「本業」は赤字ではないのか?

まず、最も重要な事実を整理します。電通の本業(広告・コンサル事業)は、今も年間1,700億円規模の営業利益を生む、依然として大きな収益基盤です。

では、なぜこれほどの巨額赤字になるのでしょうか? その正体は、会計上の計算式にあります。

赤字の正体:計算のイメージ図

2025年度の決算を例に、IFRSベースの数字を整理すると以下のようになります。(※独自指標を含む概算イメージです)

  1. 本業の稼ぎ(調整後営業利益):+1,725億円(しっかり黒字!)
  2. 買収資産の評価見直し(減損損失):▲4,025億円(※うち「のれん減損」が約3,961億円)
  3. 構造改革費用・税金など:▲976億円
  4. 最終的な結果(当期損失):▲3,276億円

つまり、「1,700億円稼いだのに、4,000億円超の『買収時に織り込んだ成長期待の下方修正』を帳簿に反映させたため、差し引きで3,000億円以上のマイナスになった」というのが実態です。これが2年続くことで、累計5,200億円という衝撃的な数字になっています。

2. 資産が激減。バランスシートはどうなっているのか?

会計の世界は常に天秤(バランス)です。資産が削られると、反対側(純資産)も同額削られます。

  • 資産側(左側):減損処理等により、「のれん(無形資産)」は前年比で約3,770億円規模の減少(6,970億円→3,201億円)が起きています。
  • 純資産側(右側):同額が「利益剰余金(これまでの利益の蓄積)」から差し引かれます。

利益剰余金が減るとは「現金を払う」ことではない

ここでよく誤解されるのが、「利益剰余金が減る=現金の貯金をどこかに支払った」というイメージです。しかし、実際にはこの処理で現金は1円も動いていません。

「利益剰余金」とは、会社がこれまで稼いできた「記録(スコア)」のようなものです。

たとえば、「100億円の価値がある」と信じて投資した海外資産が、実は「20億円の価値」しかなかったと判明した場合、帳簿上の資産を80億円分減らします。それと同時に、会社がこれまで積み上げてきた「稼いだ記録(利益剰余金)」も80億円分取り消します。

つまり、借金が増えたり現金が流出したりしたわけではなく、帳簿上の「会社の価値の裏付け(純資産)」が、資産価値の再評価とともに消滅したことを意味します。

これにより、電通の親会社所有者帰属持分比率(一般に自己資本比率に近い指標)は11.7%まで急低下しました。

倒産リスクはあるのか?

数字だけを見れば、11.7%という比率は財務耐性が薄く、警戒水準です。

しかし一方で、営業活動によるキャッシュ・フローは1,179億円のプラス(前期より増加)を確保しており、年間1,700億円規模の営業利益を生む、依然として大きな収益基盤現金の稼ぎ出す力はむしろ向上しています。

また、今回の決算短信において「継続企業の前提に関する注記」に該当事項はありません。

したがって論点は「倒産」そのものよりも、薄くなった資本をどう補強し、収益力をどう立て直すかという実務的な再建策に移っているのです。

3. 復活への時間軸:いつ、どうやって戻るのか?

電通はこの「5,200億円の傷」をどう埋めていくのでしょうか。資料と市場動向から読み取れる未来予測は以下の通りです。

短期:2026年、なりふり構わぬ「黒字化」へ

  1. 資産の切り売り:電通銀座ビルの譲渡により、2026年度1Qに約296億円の固定資産売却益が発生する見込みです(親会社帰属損益へのプラス影響は約222億円の見込み)。
  2. 資本の補強:毀損した自己資本を補強するため、最大2,000億円規模の「ハイブリッド資本」の導入を計画しています(※2026年2月13日付 適時開示「資金の調達に関するお知らせ」等に基づく)。これは負債の性質を持ちながらも、格付上の「資本性」が評価されやすい資金であり、既存株主の権利(議決権)を薄めずに財務指標を改善するための緊急措置です。

この結果として、11.7%まで落ち込んだ自己資本比率を一気に15〜20%水準まで引き上げることができます。格付け会社からの評価低下(=借金の利息が上がること)を防ぎ、銀行からの信頼を維持するための「防波堤」となります。

中期:配当の再開と信頼の回復

決算短信では2025年度は無配、2026年度予想も無配と、株主にとっては極めて厳しい状況が明記されています。

  • 将来の予測:今回、海外ののれんを大幅に減らしたことで、来期以降に巨大な減損が突発的に発生するリスクは激減しました。2026年度の黒字化が定着し、追加の大規模減損が出ないことが前提であれば、2027年度以降に株主還元の議論が再び現実味を帯びてくると推測されます。

結論:電通が選んだのは「最も苦しい最短ルート」

今回の赤字は「事業が壊れた結果」ではなく、「過去の評価を清算した結果」です。

本当の焦点は、清算後の電通がどれだけ安定して稼ぎ続けられるかにあります。

普通の人から見れば、2年で5,200億円超の赤字は破滅的に見えます。しかし、電通はこれを数年かけて少しずつ出すのではなく、「一気に出し切って、新しい社長のもとで再スタートする」という、最も苦しいが最も早い再生ルートを選んだのだと推測できます。

「これ以上、悪いニュースは出さない」という状態(底打ち)を自ら作ったのです。

今後、2026年の黒字予想を予定通り達成できるか、それとも新体制が「国内の好調さ」を海外へ伝播させられるか。電通の文字通りの経営の転換点に立つ再起動は、これから始まっていくのだと思います。

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