日本の広告費は伸びているのに、なぜ現場は苦しいのか?

広告費・市場データ

📚 広告代理店の倒産・再編・生き残り戦略【全4話ガイド】の第2話です。

◀ 第1話:広告業界の倒産はなぜ止まらないのか

🔗 シリーズ全体:広告代理店の倒産・再編・生き残り戦略【全4話ガイド】

広告業界のニュースを見ると、日本の広告費は伸びています。

2025年の日本の総広告費は8兆623億円。前年比105.1%で、4年連続で過去最高を更新しました。

数字だけを見れば、広告市場は順調です。

しかし、広告代理店や制作会社の現場では、まったく違う声が聞こえてきます。

「市場は伸びているはずなのに、なぜうちは苦しいのか?」

これは、多くの中小広告代理店、制作会社、メディア営業、広告業界で働く人が感じている違和感ではないでしょうか。

結論から言えば、広告費は伸びています。しかし、伸びたお金が従来の広告代理店や制作会社にそのまま流れているわけではありません。お金の流れ、利益の取り方、現場に求められる作業が大きく変わっているのです。

📌 この記事の結論

広告費は伸びていますが、その成長分の多くは、プラットフォーム、運用型広告、データ、動画配信、SNS広告に流れています。従来型の代理店や制作会社が、昔と同じやり方で恩恵を受けられる構造ではなくなりました。だから過去最高でも、現場では「忙しいのに利益が残らない」が起きるのです。

2025年の日本の広告費は過去最高を更新

まず、数字を確認します。

日本の総広告費 前年比 主な動き
2021年 6兆7,998億円 110.4% 回復局面
2022年 7兆1,021億円 104.4% 過去最高を更新
2023年 7兆3,167億円 103.0% インターネット広告が拡大
2024年 7兆6,730億円 104.9% 広告市場がさらに拡大
2025年 8兆623億円 105.1% 4年連続で過去最高を更新

数字だけを見れば、日本の広告市場は縮小していません。むしろ2025年には8兆円を超え、過去最高を更新しています。つまり、「広告市場全体が小さくなったから苦しい」という説明は、少なくともマクロデータ上は正しくありません

では、なぜ現場は苦しいのか

広告費が伸びているのに現場が苦しい理由は、大きく3つあります。

理由 何が起きているか 現場への影響
① 伸びている場所が変わった ネット広告・動画・SNS・運用型広告が中心に 従来型の媒体手数料や制作費にお金が残りにくい
② 利益率が下がった 運用型広告・固定フィー・低手数料化が進行 売上はあっても粗利が残りにくい
③ 工数と責任が増えた レポート・改善・検証・コンプラ対応・炎上対策が増加 忙しいのに利益が出ない状態になりやすい

理由① 伸びているのは「従来型の広告費」ではない

2025年のインターネット広告費は4兆459億円となり、初めて4兆円を超えました。総広告費に占める構成比も50.2%となり、初めて半数を超えています。広告費の成長を引っ張っているのは、もはや従来型のマスメディア広告だけではありません。

媒体区分 2025年広告費 前年比 見方
インターネット広告費 4兆459億円 110.8% 初めて総広告費の半数超え
マスコミ四媒体広告費 2兆2,980億円 98.4% ほぼ横ばいから微減
プロモーションメディア広告費 1兆7,184億円 102.0% 人流・イベント・OOHが支える

伸びているのは、ネット広告、動画、SNS、運用型広告、データ活用、プラットフォーム領域です。広告枠を仕入れて手数料を得るモデルや、大きな制作物を受注して利益を出すモデルに、そのままお金が流れているわけではありません。

理由② 増えた広告費の多くはプラットフォームに流れる

インターネット広告が伸びること自体は、悪いことではありません。問題は、そのお金がどこに残るかです。

運用型広告では、広告費の多くがGoogle、Meta、Amazon、YouTube、TikTokなどのプラットフォームへの媒体費として流れます。代理店や制作会社に残るのは、運用手数料、制作費、改善提案費、レポート費用などです。

広告費は増えている。しかし、現場の取り分が増えているとは限らない。

ここを間違えると、「市場が伸びているのだから、代理店も儲かるはずだ」と誤解してしまいます。実際には、広告費の伸びと代理店の粗利は、以前ほど連動しなくなっています。

理由③ 運用型広告は「忙しいのに儲からない」を生みやすい

2025年のインターネット広告媒体費は3兆3,093億円。そのうち運用型広告は2兆9,352億円となり、インターネット広告媒体費の88.7%を占めています。つまり、ネット広告の中心は、すでに運用型広告です。

しかし、運用型広告は代理店にとって必ずしも高収益とは限りません。

・毎月のレポート作成が必要
・細かな改善提案が求められる
・クリエイティブの差し替え頻度が高い
・CPAやROASなどの成果責任が重い
・運用手数料は下がりやすい
・クライアントからは「AIでできるのでは」と見られやすい

その結果、作業量は増えるのに、利益率は下がる。これが、現場で感じる苦しさの大きな原因です。

制作物が「作品」から「素材」に変わった

広告制作の現場でも、大きな変化が起きています。昔は、1本のテレビCM、1枚の新聞広告、1つのキャンペーンビジュアルに大きな価値がありました。

しかし今は、SNS広告、縦型動画、バナー、LP、ショート動画など、細かいクリエイティブを大量に作り、テストし、差し替える時代です。

以前の広告制作 現在の広告制作
大きな作品を作る 小さな素材を大量に作る
完成度で評価される テスト結果で評価される
制作費を取りやすい 単価が下がりやすい
企画の価値が見えやすい 作業として見られやすい

制作会社やクリエイターが苦しくなるのは、広告制作の価値がなくなったからではありません。制作物が「作品」ではなく「運用のための素材」として扱われる場面が増えたからです。

市場の成長を自社の利益に変えられる会社とは

苦しくなる会社 利益に変えられる会社
売上高だけを見る 粗利・工数・利益率を見る
媒体費の大きさを売上と考える 自社の取り分を正確に把握する
作業量で価値を出す 判断・設計・提案で価値を出す
安い手数料で受ける 提供価値に応じて価格を決める
クライアントの要望に全部対応する やるべきこととやらないことを整理する

これからの広告代理店に必要なのは、市場が伸びているかどうかを眺めることではありません。自社が、その成長のどの部分に関わり、どこで利益を残すのかを決めることです。

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広告費が伸びているのに現場が苦しい理由を理解したら、次は「生き残る広告代理店は何が違うのか」を確認してください。同じ環境でも生き残る会社に共通する条件を掘り下げます。

▶ シリーズ第3話
倒産しやすい会社と生き残る会社の違いは何か。強みの明文化、判断支援への移行、AI活用、価格決定権、固定費設計など、共通条件を整理します。

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