「新聞社は、もはや不動産会社ではないか」と言われることがあります。
発行部数と新聞広告が減り続ける一方で、大手新聞社は東京・大阪・名古屋などの一等地に本社ビル、オフィスビル、支局、印刷工場などを持っています。
そのため、不動産収入や保有資産が新聞社の経営を支えているという見方には、確かな根拠があります。
ただし、全国紙5社を単純な「不動産資産ランキング」にすることはできません。
朝日新聞社のように不動産事業の利益を開示している会社がある一方、読売新聞社や日本経済新聞社などは、同じ基準で比較できる不動産利益や時価を公表していないからです。
そこで本記事では、推測による順位付けではなく、公開資料で確認できる事実を基に、全国紙5社の不動産事業が経営の中でどのような役割を果たしているのかを比較します。
全国紙5社の不動産事業を比較
最初に、公開資料から確認できる不動産事業の特徴を整理します。ここで比較しているのは資産額の順位ではなく、各社で確認できる不動産の役割です。
| 新聞社 | 主な拠点・不動産 | 公開資料で確認できること | 読み取り方 |
|---|---|---|---|
| 読売新聞社 | 読売新聞ビル、読売大阪ビル、支局ビル、テナントビルなど | グループ会社が本社ビルや複数の不動産を管理・運用 | 資産の広がりは確認できるが、利益や時価による順位付けはできない |
| 朝日新聞社 | 中之島フェスティバルタワー、東京本社、ホテルなど | 2025年3月期の不動産事業のセグメント利益は84億6,200万円 | 5社の中で不動産の収益力を最も数字で確認しやすい |
| 日本経済新聞社 | 日経ビル、支局、販売所関連不動産など | グループ会社が売買・賃貸借の仲介や契約管理を担当 | 不動産管理機能はあるが、不動産利益の比較はできない |
| 産経新聞社 | 産経新聞社の拠点と、FMH子会社サンケイビルの不動産は分けて考える必要がある | 産経新聞社はFMHの持分法適用関連会社、サンケイビルはFMHの100%子会社 | サンケイビルの全資産・全利益を産経新聞社のものとはみなせない |
| 毎日新聞社 | パレスサイドビルのほか、大阪本社など複数の管理・利用拠点 | 大阪の毎日新聞ビル・毎日インテシオは2021年に信託を使った資金調達に活用。パレスサイドビルは再開発・売却を含む活用策を検討 | 管理・利用している物件と、現在の所有資産を分けて見る必要がある |
重要:開示範囲が異なるため、「読売1位、朝日2位」のような資産ランキングにはできません。確認できるのは、各社の不動産事業の形と、開示されている範囲までです。
なぜ新聞社は都心に多くの不動産を持っているのか
新聞社が不動産を持つようになったのは、最初から不動産会社を目指したからではありません。
新聞の制作には、編集部門だけでなく、印刷工場、発送設備、資材置き場、配送拠点が必要です。さらに、政治・経済の中心地で取材を行うため、本社や支局も都心に置かれてきました。
長い年月の中で周辺の地価が上がり、社屋の建て替えや再開発を機に、オフィス、商業施設、ホテル、ホールなどを併設するようになりました。その結果、報道のために取得した土地が、安定した賃料を生む経営資産にもなったのです。
現在の新聞社にとって不動産には、主に次の3つの役割があります。
- テナント賃料などの継続収入を生む
- 借入れや資金調達の信用力を補う
- 売却、建て替え、共同開発によって資金を生み出す選択肢になる
読売新聞社|資産の広がりは確認できるが金額比較はできない
読売新聞東京本社は、東京・大手町の読売新聞ビルを本社拠点としています。グループの読売不動産は、読売新聞ビルや読売大阪ビルのほか、支局ビル、工場、新聞販売店、テナントビルなどの管理・運用を行っています。
読売不動産の公式サイトには、親会社である読売新聞東京本社が所有する土地・建物を管理し、テナント対応や賃料交渉を通じて不動産収入を確保する役割が明記されています。つまり、不動産が読売新聞の経営基盤の一つであることは確認できます。
一方で、読売新聞社は朝日新聞社のように、不動産事業のセグメント利益や賃貸等不動産の時価を同じ形式で開示していません。「都心に大型資産があるから含み益も全国紙最大」と断定するのは推測になります。
読売新聞社の見方:不動産の規模と広がりは確認できますが、公開情報だけで資産価値や収益力を他社と順位付けすることはできません。
朝日新聞社|不動産が収益を支えていることを数字で確認できる
全国紙5社の中で、不動産事業の重要性が最も数字に表れているのが朝日新聞社です。
2025年3月期の朝日新聞社の連結営業利益は56億1,900万円でした。一方、有価証券報告書で確認できる不動産事業のセグメント利益は84億6,200万円です。調整額や他事業の損益があるため単純な足し引きはできませんが、連結全体における不動産事業の重要性は明らかです。
中心となるのは、大阪・中之島のフェスティバルシティをはじめとするオフィス、商業施設、ホテルなどです。新聞発行とは異なり、入居テナントから継続的な賃料を得られるため、新聞販売や広告の変動を和らげる役割を果たします。
朝日新聞社については、「不動産が本業の赤字を完全にカバーしている」と大きくまとめるより、不動産事業が連結利益を支える重要な柱になっていると表現するのが正確です。
朝日新聞社の見方:全国紙5社の中で、不動産の収益力を開示数字によって最も明確に確認できます。
日本経済新聞社|不動産は基盤の一つだが依存度は判断できない
日本経済新聞社は、東京・大手町の日経ビルを本社拠点としています。グループ会社の日経プラザ&サービスには不動産部があり、日本経済新聞社とグループ各社の不動産売買・賃貸借の仲介、支局や販売店の管理、賃借しているビルや駐車場の契約管理などを担当しています。
したがって、日経にも不動産を管理・活用する機能があります。ただし、不動産事業の利益や保有不動産の時価は、朝日新聞社と同じ形では公表されていません。
また、日経は電子版、データ・情報サービス、出版、イベントなど新聞以外の事業も持っています。不動産は重要な経営基盤の一つですが、「不動産に依存している」「不動産に依存していない」のどちらも、公開情報だけで断定するのは避けるべきです。
日本経済新聞社の見方:不動産管理の体制は確認できますが、収益構造を比較するには開示情報が不足しています。
産経新聞社|サンケイビルの資産と混同してはいけない
産経新聞社の不動産を考えるとき、最も重要なのが資本関係です。
産経新聞社とサンケイビルは、ともにフジサンケイグループに属しています。しかし、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)の公開資料では、産経新聞社は持分法適用関連会社、サンケイビルはFMHの100%子会社です。
東京サンケイビルやブリーゼタワーなどを展開するサンケイビルは、オフィス、住宅、ホテル、物流施設などを扱う不動産会社です。ただし、サンケイビルが稼いだ利益や保有資産のすべてが、そのまま産経新聞社の利益・資産になるわけではありません。
「産経新聞社はFMHの完全子会社で、サンケイビルの不動産収益に全面的に支えられている」という説明は正確ではありません。同じグループ内で関係性はありますが、新聞社と不動産会社は別法人として分けて見る必要があります。
産経新聞社の見方:「グループに有力な不動産会社がある」ことと、「その不動産が産経新聞社の資産である」ことは別です。
毎日新聞社|パレスサイドビルの活用が大きな経営判断になる
毎日新聞グループの不動産管理会社である毎日ビルディングは、東京・竹橋のパレスサイドビルのほか、毎日新聞ビル大阪、毎日インテシオ、毎日日本橋ビル、毎日西部会館などを管理・運営しています。
ただし、公式サイトに掲載されている物件が、すべて現在も毎日新聞グループの完全所有資産という意味ではありません。
大阪の毎日新聞ビルと毎日インテシオについては、2021年に信託銀行へ移す信託スキームを使い、210億円を借り入れたと報じられています。
一般的な第三者への完全売却とは異なりますが、不動産を資金調達に活用したことは確かです。
そのため、両物件を他の自社保有資産と同列に並べるのではなく、毎日新聞グループが現在も入居・管理する拠点として見る必要があります。
パレスサイドビルは竹橋駅に直結し、100を超えるオフィス・店舗テナントが入居する大型複合ビルです。
毎日新聞社の本社機能だけでなく、賃貸不動産としての役割も持っています。
2025年には、毎日新聞グループホールディングスが複数の不動産会社に再開発案の提案を求め、売却を含む活用策を検討していると報じられました。
報道にある1,500億~2,000億円は再開発事業全体の推定規模であり、パレスサイドビルの売却額、資産価値、含み益を示す数字ではありません。
また、再開発案の募集は、売却や建て替えが決定したことを意味しません。
自社保有を続けるのか、共同開発するのか、売却するのかによって、毎日新聞社が得る資金と将来の賃料負担は大きく変わります。
パレスサイドビルの再開発報道については、毎日新聞パレスサイドビル売却問題|2,000億円規模の意味で詳しく検証しています。
毎日新聞社の見方:不動産は単なる延命資産ではなく、賃料収入、資金調達、再開発という複数の選択肢を持つ経営資産です。ただし、選択を誤れば将来の固定費増加にもつながります。
新聞社の不動産を見るときの4つの注意点
1.新聞社本体とグループ会社を分ける
同じブランド名やグループ名が付いていても、資産の所有者が新聞社本体とは限りません。子会社、関連会社、共同出資会社では、利益が新聞社に帰属する範囲も異なります。産経新聞社とサンケイビルの関係は、その代表例です。
2.帳簿価額と時価は同じではない
古くから保有する土地は、帳簿価額より現在の時価が高い場合があります。その差が含み益です。ただし、鑑定評価や賃貸等不動産の時価が開示されていなければ、外部から正確な金額を出すことはできません。
3.賃料収入と資産売却益を分ける
テナントから毎年得る賃料は継続収入です。一方、不動産を売却したときの利益は原則として一時的です。売却した年度の利益が大きくても、翌年度以降も同じ利益が続くとは限りません。
4.再開発の事業規模と売却額を混同しない
再開発事業の規模には、解体費、建設費、設計費、設備費などが含まれます。事業規模が2,000億円だからといって、土地の所有者が2,000億円を受け取るわけではありません。ニュースの数字が何を示しているのかを確認する必要があります。
結局、新聞社は不動産会社なのか
結論として、全国紙を「新聞社ではなく不動産会社」と言い切るのは正確ではありません。
新聞の取材・編集・発行が中心事業であることに変わりはないからです。
しかし、新聞社の経営を見るときに、発行部数と広告収入だけを見るのも不十分です。
保有不動産が生む賃料、資金調達力、再開発の可能性が、新聞社の経営体力を大きく左右する時代になっています。
とくに朝日新聞社では、不動産事業の利益が収益を支えていることが開示数字から確認できます。
読売新聞社、日経新聞社、毎日新聞社にも不動産を管理・活用する体制がありますが、開示範囲が異なるため、同じ物差しによる順位付けはできません。
今後確認すべきなのは、単に「どれだけ高い土地を持っているか」ではなく、次の3点です。
- 不動産から毎年どれだけ継続利益を得ているか
- 売却後も事業を続けられる収益構造があるか
- 不動産で得た資金を新聞・デジタル事業の再生に使えているか
新聞社の資金繰りと倒産リスクについては、新聞社の資金繰りはいつ限界を迎えるのかと、新聞社は本当に倒産しないのかでも解説しています。

