はじめに:その「良かれと思って」が、会社の存続を揺るがす
2025年11月、ビックリするニュースを目にしました。愛知県蒲郡市が、新聞記事を職員向けイントラネットで無断共有していたとして、新聞社5社から相次いで提訴されたのです。
特筆すべきは、その圧倒的な賠償請求額です。
- 11月6日提訴: 読売新聞(3本社)・毎日新聞(計 約8,300万円)
- 11月20日提訴: 朝日新聞・中日新聞・日本経済新聞(計 約4億3,500万円)
単純合算で約5億1,800万円。「社内で記事を共有していただけ」という行為に対し、これほどの巨額賠償が求められたのです。
情報共有が生命線である広告代理店にとって、これは決して他人事ではありません。
蒲郡市の事例から学ぶ:なぜ「泥沼の法廷闘争」になったのか
この案件で最も注目すべきは、発覚から提訴に至るまでの「こじれ方」です。
- 内部通報で発覚: 当初、市は「著作権の理解が不十分だった」と謝罪し、共有を停止。
- 交渉の決裂: 新聞社側は「利用実態の開示」と「過去分の利用料支払い」を求めましたが、市側が応じず。
- 全面対決へ: 市は「裁判で争う」姿勢を明確化。「著作権法上認められる範囲の利用であり、侵害にはあたらない」との見解を示し、泥沼の法廷闘争へ発展。
一度疑いを持たれると、「過去数年分、誰がどの記事を何回共有したか」という全実態の開示を求められます。「良かれと思って」始めた日常の習慣が、数億円規模の法的紛争とレピュテーション(評判)低下を招く。これが現代の著作権リスクの実態です。
広告代理店が抱える「著作権侵害」の地雷ポイント
広告代理店は、公共団体よりもさらに厳しい「営利目的」の組織とみなされます。
- 「社内限定(Slack/Teams)」は免罪符にならない: クローズドな環境でも、組織的な複製・共有は著作権法上の「私的使用」の範囲外です。
- 「スクショ共有」は明確な違法: 記事をスクリーンショットして即座に共有する行為は、「複製権」および「公衆送信権」の侵害にあたります。
- 「全文コピペ」による共有: 記事の大部分を貼り付ける行為は、裁判で「正当な引用」と認められる可能性は極めて低いです。
リスクをゼロにするための「現実的な解決策」
情報を遮断しては仕事になりません。現場のスピードを落とさず、会社を守るためのルールを整理します。
1. 「法人向けニュースサービス」への一本化(最も推奨)
最も確実な対策は、著作権処理済みの公式サービスを導入し、そこを記事閲覧の拠点にすることです。
- 日経電子版 Pro や ELNET(イーエルネット) などの導入。
- メリット: 契約範囲内での共有が法的に保証されており、数億円の賠償リスクに対する「安価な保険」となります。
2. 「公式URL + 要約」ルールの徹底
法人サービス未導入の場合、共有は以下の形に限定します。
- 推奨: 新聞社や出版社が運営する公式サイトのURL。
- 禁止: 本文の全文コピペ、スクショ、PDFのアップロード。
【Q&A】URL共有なら安全?なぜ媒体社に喜ばれるのか
- なぜURLなら良いのか?: リンク先へユーザーを送る行為は、媒体社のアクセス数(PV)を増やし、広告収入や購読契約に貢献する「共存共栄」の形だからです。
- Yahoo!ニュース等のポータルは?: 法的には問題ありませんが、数日でリンク切れになることが多いため、一次ソース(新聞社サイト)のURL共有を推奨します。
※重要:免責事項 上記の手法は法的リスクを最小限に抑えるための推奨案ですが、100%の安全性を保証するものではありません。 各媒体の利用規約を必ず確認してください。
「OK/NGチェック表」
| 共有方法 | 判定 | 理由・対策 |
|---|---|---|
| 記事URLの共有 | ○ OK | 媒体社のPV増加に繋がり、著作権侵害になりにくい。 |
| 記事のスクショ貼付 | × NG | 無断複製・無断公衆送信にあたる。 |
| 全文のコピペ | × NG | 著作権侵害の典型例。引用の範囲を超える。 |
| 自分の言葉での要約 | ○ OK | 事実の伝達やインサイト付与は著作物にあたらない。 |
| 法人サービスの導入 | ◎ 推奨 | 契約に基づき、組織内での全文閲覧・共有が合法化される。 |
まとめ:情報の「プロ」として、共有の形をアップデートしよう
広告代理店の価値は、情報をそのまま流すことではなく、そこに「独自の視点(インサイト)」を加えることにあります。
- スクショ・PDF・コピペを即座に禁止する
- 公式URL+要約+示唆の徹底
- 法人向けニュースサービスの検討
この3点を徹底し、情報の流れを止めずに会社を最大のリスクから守りましょう。
特に法務や総務などの部署の方は社内に徹底することが大切です。

