はじめに:なぜ今、6年前の炎上広告を振り返るのか?
2019年にピーチジョンが発売したサプリメント「LOVE POTION(ラブポーション)」を巡る広告表現は、大きな批判を呼び、わずか2ヶ月で販売中止に追い込まれました。
6年が経った今でもこの事例に触れる意義があるのは、それが単なる感情的な炎上ではなく、広告倫理と法的リスクを含んだ“本質的な失敗”だったからです。
近年では、AIによる生成広告やインフルエンサーによるステマ、同意のない情報取得を巡る広告問題など、新たなリスクも登場しています。その中で「どこまでが許容され、どこからがアウトなのか?」を再確認するための“原点”として、ピーチジョンの事例は今なお示唆に富んでいます。
2019年の炎上広告を振り返る
SEIBU SOGOの広告:賛否両論型の炎上
2019年、同時期にSEIBU SOGOの広告も炎上しました。こちらは社会的メッセージ性の強い広告で、受け手によって賛否が分かれるタイプの“表現の炎上”でした。いわば、「好き嫌い」による反応の域を出ないものでした。
他社に見る典型的な炎上例
サントリー『頂』とアサヒ『クリアアサヒ』
女性に対する軽視や“下ネタ”に近い描写で炎上。 特に「コックぅ~ん!」というセリフが批判の的となり、わずか1日で削除。
ダイナース×GOETHEのタイアップ広告
「通販カードで支払う男はダメ」「ブラックカードを見せる男は痛い」など、読者をバカにしたようなトーンが炎上。
さらに、ダイナースの謝罪対応は“出版社が勝手にやった”という他責型で、火に油を注ぎました。
資生堂『インテグレート』
「25歳を過ぎたら女の子ではない」「疲れ顔はプロではない」など、性別や年齢に対する固定観念が批判されました。
ピーチジョン『LOVE POTION』は何が違ったのか?
サプリを“こっそり飲ませる”という設定
ピーチジョンが2018年11月に発売した「LOVE POTION」は、“恋を盛り上げるサプリ”というコンセプト。
広告では以下のような「レッスン」が提示されていました:
- Lesson1:こっそり料理に混ぜて、気づく・気づかないを楽しむ
- Lesson2:飲むことで気分が高まる“ブラセボ効果”を活用
ここには明確な問題がありました。
問題点の本質
- 同意なしに摂取させることを推奨している
- 媚薬効果を期待させる内容であり、行為の性質上きわめてセンシティブ
- アレルギーや健康被害のリスク(例:含有するココア成分)
これは、表現の自由ではなく、ほぼ犯罪に近い倫理違反です。
なぜ誰も止められなかったのか?
- ワンマン体質だったのか?
- 広告代理店が機能していなかったのか?
- 法務・薬事チェックが通ってしまったのか?
広告制作の現場では通常、クリエイティブ、法務、薬事、マーケティングが複数でチェックします。 にもかかわらず、誰も“赤信号”を出さなかった背景には、組織の風通しや経験不足といった構造的な問題があったと推察されます。
謝罪対応も不誠実で、公式サイトの下部に1行だけ告知があるのみ。企業としての危機管理が極めて弱かったことが伺えます。
広告倫理の視点で再検証する
表現の自由 vs 公共の安全
広告には表現の自由がありますが、特に医薬・サプリ分野では「誰かの身体に作用する」以上、その自由には限界があります。
この件では“同意のない摂取”という、広告の域を超えた危険性がありました。
同意(consent)の重要性
現代広告で欠かせないキーワードが“同意”。 プライバシー、情報提供、そして身体への影響すべてにおいて、相手の同意を前提としない広告表現は許容されません。
まとめ:2025年の広告がこの過ちを繰り返さないために
ピーチジョンの「LOVE POTION」事件は、炎上広告の中でも突出して“倫理の線を超えた”ケースでした。
それは過去の話ではなく、今も企業が新商品を開発し、メディアに出す際に必ず直面するリスクです。
- 誰のための広告なのか?
- 表現が誰かを傷つけていないか?
- 社会的・法的責任を十分に考慮しているか?
これらを問うための“警鐘”として、この事例を振り返る価値は十分にあります。
広告は、企業の「顔」です。顔が笑っていても、その目が欺瞞を含んでいれば、すぐに見抜かれます。
ピーチジョンの失敗から、広告が本来持つべき『誠実さ』と『責任感』のb必要性を、あらためて認識すべきかもしれません。