本日は久々に新聞の発行部数についてです。
以前より、お伝えしている通り、新聞業界は急速なデジタル化と消費者の情報収集方法の変化に伴い大きな変動を迎えています。
本日は、2023年12月の最新データを元に、新聞の発行部数の現状とその推移を詳しく見ていきましょう。
1. 2023年12月のデータの紹介
2023年12月の主要全国紙の発行部数は以下の通りです。
- 読売新聞: 6,270,000部
- 朝日新聞: 3,680,000部
- 毎日新聞: 1,610,000部
- 日本経済新聞: 1,409,147部
- 産経新聞: 1,160,000部
上記は、日本ABC協会が発表した部数であり、『押し紙』は考慮していません。
続いて、1年前の2022年12月度のデータと比較してみましょう。
2022年12月のデータと比較
前年の2022年12月の発行部数と比較すると、1年間で以下のような推移が見られます。
新聞社 | 2022年12月 | 2023年12月 | 減少部数 | 減少率 |
---|---|---|---|---|
読売新聞 | 6,420,000部 | 6,270,000部 | 150,000部 | 約2.34% |
朝日新聞 | 3,850,000部 | 3,680,000部 | 170,000部 | 約4.42% |
毎日新聞 | 1,700,000部 | 1,610,000部 | 90,000部 | 約5.29% |
日本経済新聞 | 1,649,927部 | 1,409,147部 | 240,780部 | 約14.59% |
産経新聞 | 1,200,000部 | 1,160,000部 | 40,000部 | 約3.33% |
500万部を超えていた、朝日新聞の300万部割れも現実となってきました。
産経新聞の100万部割れも目前です。
日本経済新聞の減少率が高くなっています。
日本経済新聞はデジタルでの読者が順調に増加していますので、読者がデジタルに推移している可能性があります。
2023年度の部数減のトピック
2022年~2023年度の1年間で全国紙5紙での減少部数は約70万部です。
70万部というのは、地方紙数社分に相当しますので、それなりの数値です。
それでは、2022年12月~2023年12月の推移を見ながら、
部数減の要因を整理してみましょう!
部数減少の主な理由(2023年版)
毎年、新聞の発行部数減少の理由は大きく変わりませんが、
2023年度は下記の要因が大きく影響を与えていると想定できます。
1. デジタルメディアの台頭
スマートフォンやタブレットの普及による「ニュースの閲覧」は年々定着してきています。
YahooやGoogleなどのプラットフォームでオンラインニュースを見るのは普通ですが、近年では、LINEニュースなどSNSが発信するニュースも定着してきています。
最近は、SNSを通じてニュースの情報を得る若者が急増しています。
多くの若者は、ニュースすらもSNSでリアルタイムに取得し、友人やインフルエンサーの意見を参考にしています。
上記のように、従来の紙媒体やテレビニュースに代わり、SNSが主要な情報源として定着しつつあり、特に信頼性を持つメディアとしても認識されています。
若者にとって、ニュースの信憑性や判断材料は、テレビキャスターや新聞記者よりも、SNS上のコメントやシェアされた意見に重きを置く傾向が強まっているのです。
若者とSNSの関係
SNSが若者にとって主な情報源となっている背景には、以下の理由があります。
リアルタイム性:
SNSは常に手元にあり、移動中や食事中でも簡単にアクセスできます。
若者は、すぐにニュースや最新情報を把握できる手段としてSNSを信頼しています。
例えば、急な天候の変化などの際には、X(旧Twitter)を中心に広まる情報が非常に有用になっています。
また、必要な情報を探す際も、ハッシュタグやキーワードを入力するだけで、瞬時に求める情報にたどり着けるSNSへの信頼度は非常に高いと言えるでしょう。
同世代やインフルエンサーの影響:
若者は、友人や信頼しているインフルエンサーがシェアする情報を特に重要視していると言えます。
彼らの意見や投稿が信頼の基準となっていて、それがニュースやトレンドの選別に大きな影響を与えているのです。
今後は、選挙などの社会的な行動にもSNSが中心的な役割を果たすことになるでしょう。
投票行動に影響するメディアとしてSNSは無視できなくなるはずです。
多様な視点:
マスメディアは、どうしても一方向からの情報提供になりがちです。
しかし、SNSでは、ユーザーが自ら情報を選び取ることができます。
若者は、自分の興味や価値観に合った情報をSNSから積極的に取得し、参考にしているのです。
しかし、この自由な情報選択には一つのリスクもあります。
それは「パーソナライズドコンテンツ」の影響です。
パーソナライズドコンテンツとは、YouTubeやInstagramなどのSNSが、ユーザーの過去の行動や興味に基づいて関連性の高いコンテンツを自動的に表示する仕組みです。
これにより、ユーザーは自分の関心に合った情報に素早くアクセスできるという利点がありますが、同時に自分の価値観や興味に偏った情報だけに触れてしまうリスクもあります。
その結果、異なる視点や広範な情報に接する機会が減り、視野が狭まる可能性があるのです。
このような偏った情報にのみ接するような状況を避ける為の仕組みも必要になってくるかもしれません。
2. 経済状況の悪化
食料品や燃料費の値上がりが続く中、実質賃金は減少傾向にあり、多くの家庭にとって有料の新聞購読は家計に負担をかけるものとなっています。
そのため、新聞購読を中止する家庭が増加しているのが現状でしょう。
さらに、インターネットやSNSを通じて無料でニュースを入手できる今、新聞購読を続ける必要性はますます薄れてきています。
この流れは特に若者世代で顕著で、彼らはデジタルメディアを中心とした情報収集にシフトしているため、有料で紙の新聞を購読する動機がほとんどありません。
こうした経済的な要因とデジタルメディアの普及が相まって、新聞購読離れは今後も続くと予想されます。
3. 新聞社の値上げ
2023年には、紙や印刷にかかるコスト増加を受け、新聞各社が相次いで購読料を引き上げました。これにより短期的な収益増を図る一方で、結果として購読者数の減少を招く結果となっていると言えます。
次に値上げの詳細を見てみましょう!
新聞社の購読料値上げの詳細
新聞各社は、紙の原材料費や配達コストの増加に伴い、相次いで購読料の値上げを実施しました。
以下は、主要な新聞社による値上げの詳細です。
新聞社 | 値上げ開始日 | 旧価格(月額) | 新価格(月額) |
---|---|---|---|
朝日新聞 | 2023年5月1日 | 4,400円 | 4,900円 |
毎日新聞 | 2023年6月1日 | 4,400円 | 4,900円 |
日本経済新聞 | 2023年7月1日 | 4,500円 | 4,900円 |
産経新聞 | 2023年8月1日 | 4,000円 | 4,500円 |
軽減税率の限界と購読者減少
さらに、新聞には軽減税率が適用されているものの、この恩恵が購読者減少を食い止めるほどの効果をもたらしていない点も問題です。
むしろ、一部の消費者は、新聞という伝統的メディアが軽減税率の対象となること自体に疑問を抱いており、この措置が購読者を取り戻すには至っていません。
新聞業界を取り巻く複合的な課題
このように、新聞の部数減少は、オンラインの環境の変化だけでなく、経済的な負担増や購読料の値上げといった複数の要因によって加速しているのです。
特に若者世代では、新聞を購読する動機が薄れ、スマートフォンで簡単にアクセスできる無料のニュースアプリやSNSに頼る傾向が顕著です。
このような変化は、今後も新聞業界の存続に大きな影響を与え続けることになります。
では、いつも通り、「押し紙」を加味した部数も計算してみましょう。
押し紙を考慮した部数の発表
新聞の発行部数には「押し紙」と呼ばれる、実際には配達されない新聞が含まれています。
これを考慮した『実売部数』です。
ここでは、『押し紙率』を毎日新聞は50%、他の新聞は30%と仮定しています。
それに基づく実際の発行部数は以下の通りです
。
新聞社 | 押し紙率 | 実際の発行部数 |
---|---|---|
読売新聞 | 30% | 4,389,000部 |
朝日新聞 | 30% | 2,576,000部 |
毎日新聞 | 50% | 805,000部 |
日本経済新聞 | 30% | 986,402部 |
産経新聞 | 30% | 812,000部 |
「押し紙率」を考慮した実売部数では、読売新聞は約400万部、朝日新聞は約250万部、日本経済新聞は約100万部、毎日新聞と産経新聞は約80万部となります。
特に、毎日新聞と産経新聞が50万部を切るのは、そう遠くない状況にあると言えるでしょう。
このような厳しい状況下で、新聞社はどのように企業を存続させるか、という課題に直面しています。
2024年度以降の展望
新聞の発行部数の減少は、これまでの流れを見ても今後も止まることはありません。
デジタルメディアの台頭と情報収集手段の多様化に伴い、新聞各社が取り組むべき課題は明確です。
今後の展開としては、単なる部数減少への対策だけでなく、新聞社の垣根を越えた業界全体のビジネスモデルそのものの根本的な変革を迫られる時代に入るでしょう。
では、どのようなアプローチが求められるのか?考えてみましょう。
1. 収益モデルの大転換が必要
従来の紙媒体中心の収益構造に依存している限り、新聞社が持続可能なビジネスを維持することは困難です。
デジタル版の有料購読への移行が求められているのは当然ですが、ここでポイントとなるのは、ただ単に紙をデジタルに置き換えるだけでは不十分だということです。
今後は、AIによるパーソナライズドニュース配信や、メタバース空間でのニュース体験といった、未来の消費者行動に合わせた新しい収益モデルの模索が必要になって来るでしょう。
2. デジタル時代における双方向コミュニケーション
デジタルへの移行だけでなく、いかに消費者と対話できるかもポイントです。
今時の生活者は、双方向でのコミュニケーションを求めています。
SNSでの拡散力や、ユーザーからのフィードバックを基にしたコンテンツの改善、さらにはインフルエンサーとの連携を活用した影響力の拡大が、今後の新聞社に求められる戦略だと想像できます。
3. 紙媒体の価値を再定義する
デジタルが主流になる一方で、紙媒体が存続している間は、「紙にしかない価値」も同時に考えるべきでしょう。
例えば、「紙だからこそ可能な深い分析や特集記事」は、デジタルが持つスピード感とは異なる魅力を提供できるはずです。
また、地方新聞は、地域密着型のニュース提供を深く取材し特化することで、ローカルコミュニティの中心的存在としての役割を強化し続けるべきです。
4. 購読者の離反を食い止めるために
購読料の値上げが購読者離れを加速させている現実も見逃してはいけません。
これは、『新聞の価値』と『その価格』が『消費者の期待』に見合っていないことを意味します。
つまり、生活者に対して「なぜ新聞を購読する価値があるのか?」を再認識させる取り組みが必要です。
コスト削減や柔軟な価格設定、あるいは特典や付加価値を提供することで、購読者との信頼関係を取り戻すことも急務です。
新たな未来へ向けた変革の必要性
新聞業界はここ10年以上、変化を迫られてきましたが、今後はさらに一歩進んだ抜本的な変革が必要でしょう。
デジタル化と紙媒体の共存は今や当たり前ですが、そのバランスをどのように取りながら購読者との関係を維持し、強化するかがポイントです。
新聞各社がこの変革にどう応じていくか、また新しい収益モデルをどのように確立していくか、これからも業界の動向を注視し、新し動きがあれば記事にしていく予定です。
・2024年度の最新!新聞発行部数はこちらです。
新聞発行部数2024年度最新データ:新たな視点で検証!
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新聞社のジレンマ:なぜYahooやGoogleに記事を提供したのか?
・報道に関しては下記も参照ください。
新聞の発行部数の減少も大きな理由の1つです。
報道の自由度70位、日本メディアは大丈夫なのか?