かつて広告代理店において、「新聞局」や「新聞部」はメディアバイイングの中枢であり、組織内でも最強の権限を持つ「エリート部門」でした。
しかし2026年現在、多くの広告代理店で新聞部門は単独での維持が困難となり、デジタル部門や、メディア統合型のソリューション部門へと吸収・縮小されています。
これは単なる予算シフトの問題ではなく、広告業界における「出世の王道」が大きく切り替わったことを意味しています。
今回は、かつて新聞部門出身者が社長の座を独占していた理由と、その蜜月関係がなぜ終わりを迎えようとしているのか?を考えていきます。
1. かつての「王道」:なぜ新聞部出身者は社長になれたのか?
昭和から平成初期にかけて、大手・準大手代理店のトップに就くのは「新聞部(局)」出身者が定番でした。
当時は「新聞を制する者が代理店を制する」と言っても過言ではありませんでした。その理由は、非常にシンプルな力学に基づいていたのです。
新聞社への影響力こそが「武器」だった
当時、メディアの頂点に君臨していた新聞社に対して強い影響力を持つこと自体が、広告代理店にとって最大の付加価値でした。新聞社との「太いパイプ」があるからこそ、クライアント企業もその代理店を頼らざるを得ず、結果として新聞担当が社内で最も重宝され、出世の階段を駆け上がる「最強のエリートコース」だったのです。
強大な「政治力」
新聞社はメディアであると同時に、政治や経済に深く食い込んだ巨大な言論機関です。その窓口である新聞部(局)の人間は、メディア各社の幹部との人脈を通じて、政財界の動向をいち早く察知する「ロビー活動」の主役でもあったのです。政治の事に精通していたのです。
「調整」という高度なビジネススキル
限られた紙面の枠を奪い合い、時に新聞社からの要望(押し紙問題に関連する広告協力など、表では語られない業界慣行)をクライアントと調整し、着地させる。この高度な「政治的調整力」を磨いた人間こそが、組織を束ねるリーダーとして相応しいと評価されていたのです。
2. エリートコースからの転落:新聞担当の現在地
かつては「社長への登竜門」だった新聞担当ですが、今では状況は一変しています。
「独立した権限」と組織規模の消失
以前は数十人規模の「局」として独立した権限を持っていましたが、現在はわずか2〜3名の担当者が他のメディアと兼任する、あるいは「オフラインメディア担当」や、「プランニング部門」の一担当へと縮小・統合される状況も珍しくありません。組織図から「新聞」の文字が消えることも珍しい景色ではありません。
「調整力」よりも「運用力」の時代
今のクライアントが求めるのは、新聞社との「あうんの呼吸」による調整ではなく、デジタルに関する「運用」などに移行しています。かつての最強の武器だった「人脈」や「貸し借り」は、データドリブンな世界では価値を失いつつあるのです。
若手のキャリア志向の変化
今、代理店の若手エリートたちが目指すのは、新聞社との接待や枠の確保ではありません。デジタルを起点としたクライアントへのコンサルティング業務や、AI・ビッグデータを活用したマーケティングの構築といった世界です。組織内での「花形」は、完全にデジタル・テクノロジー部門へと移っているのです。
3. リテールメディアが奪った「最後の聖域」
これまで新聞広告(特に地方紙)の最後の砦は、地域密着の「流通・小売」でした。
しかし、この聖域を奪ったのはWEB広告だけではありません。
近年台頭してきた「リテールメディア」です。
チラシの代替はアプリへ
スーパーやドラッグストアが自社アプリを持ち、購買データに基づいたクーポンを配信するようになったことで、新聞広告の「地域への強制リーチ力」という価値が完全に無力化されました。
代理店の関心もシフト
代理店側も、新聞社にマージンを払うより、小売業者の購買データを使ったマーケティング支援にリソースを割くほうが利益率が高く将来性があると判断しています(判断するのが普通です)
ストック型ビジネスへの転換
新聞広告は「枠の販売」で終わるが、リテールメディアは、設計・運用・分析までを代理店が握れる“継続収益モデル”なのです。
4. 結論:新聞は「マスメディア」から「特殊メディア」へ
広告代理店側が新聞を「マスメディア」の中心として扱うことを減らし始めている今、これからの新聞広告は、特定の用途に特化していくしかなくなります。「ニッチメディア」へと変わっていくのです。
官公庁・業界団体・B2Bへの信頼担保
公共事業や大規模なB2B取引において、新聞社による厳しい掲載審査をクリアしているという事実(社会的証明)を獲得し、信頼を得るためのツール。
高齢層および富裕層への確実な接点
新聞購読が「日常生活の一部(生活習慣)」として定着している地方の高齢層や、ネット情報を疑う傾向にある「保守的な資産保有層」への確実なリーチ手段。
公式発表の「証拠」
ネットで炎上した際や、重要事項を「活字」として残すことで、後から改ざんできない公的な記録(エビデンス)とするための手段。
5. 今後の予想:組織としての「新聞」の消滅と、機能の統合
数十人いた部門が数名に縮小し、他メディアとの兼任が常態化している現状は、一時的な不況ではなく、代理店における「構造的な役割の終わり」を示しています。2026年以降、代理店組織内での新聞の扱いは以下のように変化していくと予想されます。
「新聞部」の名称消失
独立した「部」としての存続はさらに難しくなり、「オフライン・メディア・ソリューション」や「トータルプランニング」といった、チャネルを問わない大きな組織の中に、一つの「機能」として完全に溶け込んでいくでしょう。
「媒体交渉」から「データ活用」へ
新聞社との関係性を維持すること自体に価値があった時代は終わり、これからは「新聞購読層という質の高いデータ」を、いかにデジタル施策の補完として組み合わせるかという、全体を最適化する一部として扱われるようになるでしょう。
かつて代理店の中心にいた「新聞」は、今や一つの選択肢に過ぎません。
組織の縮小は、新聞というメディアが特別視される時代が終わり、数ある伝達手段の一つとして冷静に評価されるフェーズに入ったことを象徴しています。

