はじめにーなぜ今、広告代理店を語り直すのか?
新聞業界やテレビ業界の縮小は、誰の目にも分かりやすい変化です。一方で、広告代理店はどうでしょうか。
表面上は、広告市場は成長を続け、デジタル広告も拡大しています。にもかかわらず、広告代理店・制作会社の倒産は止まらず、「将来が見えない業界」という空気が、静かに広がっています。
問題は、広告が売れなくなったことではありません。
広告代理店という存在の意味そのものが、今あらためて問い直されているのです。
本章では、2026年以降を踏まえて、広告代理店に何が起きているのかを俯瞰し、倒産・再編・AIの進展という現実を踏まえながら、これからの生き残り方を整理します。
広告代理店に起きている3つの大きな変化
※本章の背景データとして、東京商工リサーチおよび帝国データバンクの倒産調査を参照しています。広告代理店・広告制作会社の倒産は、統計的にも「一時的現象」ではない段階に入っています。
① 倒産が「珍しくない業界」になった
まず押さえておくべきは、広告関連業の倒産件数が2022年を底に明確な増加局面へ転じているという事実です。
広告関連業の倒産件数推移(年次)
- 2020年:137件
- 2021年:100件(前年比▲27.1%)
- 2022年:56件(過去最少水準)
- 2023年:82件(前年比+46.4%)
- 2024年度:69件(年度ベース)
- 2024年1–4月期:40件(前年同期比+37.9%)
2020〜2022年にかけて倒産件数が大きく減少しているのは、広告需要が安定していたからではありません。政府によるコロナ関連支援(実質無利子・無担保融資、返済猶予)が、倒産を人為的に抑え込んでいた期間だったと見るのが妥当です。
2023年以降に起きている増加は「反動」ではありますが、それ以上に、本来淘汰されるはずだった構造的弱点が、時間差で一気に表出してきた結果だと言えるでしょう。
かつて広告代理店の倒産は、経営失敗や景気悪化と結びつけて語られることが多くありました。しかし現在では、真面目に事業を続けてきた中小代理店や制作会社であっても、突然市場から姿を消すケースが増えています。
これは一時的な不況ではなく、ビジネスモデルの限界が表面化している結果です。
② 仕事は減っていないが、価値が下がっている
広告制作や運用の仕事そのものが消えたわけではありません。しかし、1件あたりの単価や利益率は、確実に下がっています。
背景にあるのは、
- 制作物のコモディティ化
- 人月型・納品型モデルの限界
- AIによる作業効率の急上昇
といった構造変化です。「人が動いた時間=価値」という前提は、すでに成り立たなくなりつつあります。
③ 広告代理店の立ち位置が二極化している
現在の広告代理店は、大きく二つに分かれ始めています。
- 上流工程に入り、戦略・設計・意思決定に関与する代理店
- 下請け・作業代行として価格競争に巻き込まれる代理店
その中間にあった「何でも屋」のポジションは、急速に居場所を失いつつあります。
なぜ広告代理店は苦しくなっているのか(構造編)
広告代理店が苦境に立たされている理由は、外部環境だけでは説明できません。むしろ、業界内部の構造に原因があります。
- 人件費比率が高く、固定費が下げにくい
- マージンモデルに依存し、価格決定権を持てない
- 「作業代行」から抜け出せない業務構造
これらは長年、業界の前提として受け入れられてきました。しかしAIの進化と市場の成熟により、その前提が崩れ始めています。
それでも生き残る広告代理店の共通点
厳しい環境の中でも、着実に成果を出し続けている広告代理店が存在します。そこには、いくつかの共通点があります。
- 自社の専門領域が明確で、「何屋か」が即答できる
- AIをコスト削減ではなく、付加価値創出に使っている
- クライアントと「施策」ではなく「構造」で会話している
- 価格を自ら決める力を持っている
生き残るかどうかは、規模や歴史ではなく、役割を再定義できるかどうかで決まります。
広告代理店は終わるのか?|2026年時点の結論
結論から言えば、広告代理店という業種そのものが消えることはありません。
しかし、
- 作業を請け負うだけの代理店
- 差別化できない代理店
- 価格競争から抜け出せない代理店
が、この先も生き残れる保証はありません。広告代理店の未来は、明るいか暗いかではなく、変われるか、変われないかで決まります。
ここではまず全体像の理解に焦点を当て、各テーマの詳細はページ下部にまとめたシリーズ記事から参照できるようにしています。広告代理店の倒産・再編・AI時代の現実については、以下の記事で個別に深掘りしています。
本シリーズの全体像|広告代理店はどこへ向かうのか(2026年)
本ページは、広告代理店という業種が直面している、倒産・淘汰・二極化・進化という現実を、構造と実務の両面から整理する連載シリーズのハブ(起点)です。
個別記事はそれぞれ独立して読めますが、上から順に読むことで、「なぜ苦しいのか → 何が分かれ目なのか → ではどうするのか」が立体的に理解できる構成になっています。
① 構造を理解する|まず起きている事実を押さえる
👉【2026年最新版】広告業界の倒産はなぜ止まらないのか?
倒産件数の推移から見えるのは、不況ではなく広告ビジネスモデルそのものの限界です。
数字と構造から、業界の現在地を整理します。
② 現場の共通点を知る|なぜ「真面目な会社」ほど消えるのか
👉倒産する広告代理店の共通点―なぜ「真面目な会社」ほど先に消えていくのか
努力や誠実さとは無関係に、消えていく会社には共通する構造があります。
現場レベルの実態から、その理由を掘り下げます。
③ 二極化の正体を知る|生き残る会社は何が違うのか
👉生き残る広告代理店は何が違うのか―倒産しない会社に共通する条件
上流に進む会社と、下請けに沈む会社。
その分岐点は「能力」ではなく、立ち位置と役割の選択にあります。
④ 進化の方向を知る|では、これから何を目指すのか
👉広告代理店はどこへ向かうのか―進化・役割・未来の選択
広告代理店は不要になるのか、それとも形を変えて残るのか。
人材不足の中小代理店でも取り得る、現実的な進化の道筋を整理します。
⑤ 視点を広げる|未来を問い直す
👉広告代理店の未来は明るい!変化に挑む者にこそ開かれる!
悲観論でも楽観論でもない、
2026年時点での現実的な結論を整理します。
おわりに|広告代理店の未来は「選択」で決まる
広告代理店という業種が消えるかどうかではなく、どの役割を選ぶのか?
2026年以降の広告業界は、規模や歴史ではなく、構造を理解し、自らの立ち位置を選び直せるかどうかが問われる時代に入っています。
このシリーズが、広告代理店で働く人、これから業界に関わろうとする人にとって、自分の現在地と次の一手を考える材料になれば幸いです。