全国紙・都道府県別発行部数データ分析【第3回】 普及率1%未満で新聞事業は成立するのか?

新聞発行部数

本記事は全4回の第3回です。普及率1%未満の地域で新聞事業は成立するのか。合配、地域版、配送網の実態を調査し、紙の新聞が抱える構造的な赤字、そして、すでに崩れ始めているビジネスモデルの限界を考えていきます。

私たちは毎朝新聞を受け取れるのが当たり前の生活を長く送ってきました。しかし、普及率1%を切るような地域で、数百部の新聞を届けるには一体いくらかかるのでしょうか?そのビジネスモデルの限界を検証してみます。

1. ライバルに頭を下げる「合配(あいばい)」の限界

合配とは、普及率が低いエリアで、ライバルの販売店に委託して配ってもらうことです。地方の新聞販売店の店頭の看板に各社の看板が並んでいるのを見たことがある人も多いでしょう。

この合配という仕組み、導入された当時は非常に合理的なビジネスモデルでした。一軒あたりの配達密度を高めることで、販売店の収益を底上げし、配送コストを分散させる「Win-Win」の戦略だったのです。しかし現在、その前提は完全に崩壊しています。

予想を上回る「部数減」の衝撃

以前であれば、合配によって「10軒に1軒の読者」が「10軒に2軒」になることで収益が安定していました。しかし現在は、合配をしても「20軒に1軒」というレベルまで読者が激減しています。ビジネスモデルの想定を遥かに上回るスピードで部数が減ったことで、1部あたりの委託手数料ではもはや固定費を賄えなくなっているのことが推測されます。

受託側の負担増

配る側(読売店など)も深刻な人手不足に悩まされています。数キロ離れたポツンと一軒家の読者のために、自社の新聞でもない他社の1部を届ける。この手間に対する委託手数料は、人件費の高騰を考慮すると、もはや「義理」でしか成立しないボランティアに近いものになっているでしょう。

「最後の1軒」の配送コスト

1軒の配達にかかるガソリン代、バイクの維持費、そして何より「配達員の時間」を考えると、1部数百円の利益どころか、1回配達するだけで数千円のコスト割れが発生している県も少なくないことが計算上推測されます。

2. 地域版(地方版)という「コストの塊」

新聞の価値の一つは、その県独自のニュースが載る「地域面」です。しかし、部数が数百部しかない県で、この紙面を維持するコスト負担は小さくありません。

記者の維持費

最低限の取材網を維持するだけでも、支局の維持費、記者の給与、移動費がかかります。月間の総購読料収入が100万円単位であるのに対し、このコストを引けば毎月数百万円単位の赤字が出るのは火を見るより明らかです。

内容の空洞化

予算が削られた地域面は、隣接県と統合され、やがて内容は「通信社ニュース」ばかりになります。地元の声が載らない新聞を、多くの地元の人は読みません。この悪循環が撤退を加速させています。

3. 究極の「速報性放棄」:郵送という名の延命策

戸別配送を止めた毎日新聞(富山)が選択したのは「デジタル化の推進」と「郵送」です。

しかしこれは、新聞というビジネスモデルの崩壊を意味します。朝食と一緒に読むはずの新聞が、翌日以降に届くのです。速報性が命のメディアにとって、これは「資料」としての配布への格下げです。

それでも紙を欲しがる熱心な読者だけを相手にする、極めてニッチな商売へと追い込まれているのです。

ここで疑問になるのは、毎日の郵便コストです。新聞の購読料を考えると、確実に赤字です。しかし、印刷所から配送コストを掛けて届けるシステムよりは大幅に赤字が縮小される。という判断が働いたのでしょう。

しかし、郵便で赤字を出してまでも新聞を届けるという姿勢は、ビジネスとしては失敗ですが、報道機関としては褒められるべきかもしれません。

 

【第3回まとめ】

物理的な配送コスト、人的なリソース、コンテンツの維持。あらゆる面で「紙の新聞を届ける土台」が厳しくなっています。この崩壊の波は、次にどの地域を襲うのでしょうか。次回は、最終回として、全国のデータから「次の撤退候補」を予測してみます。

[次回の記事:全国紙・都道府県別発行部数データ分析【第4回】 全国紙はどの県から消えていくのか?データが示す次の撤退候補はこちら]