Wall Street Journal(WSJ)の記事に、最近書いているブログのテーマと重なる興味深い論点がありました。単なる海外ニュースではなく、広告業界の構造そのものを突く内容だったので、自分なりに整理して検証してみます。
提示されている課題は非常にシンプルです。
視聴者はすでにYouTubeに移動している。しかしブランド広告費は、依然としてテレビに残っている。
ユーチューブ、集まる広告費は従来のTVより少なく – WSJ
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海外では「YouTube is the new TV(YouTubeは新しいテレビ)」という議論が現実のものになっています。にもかかわらず、大手ブランドの予算配分は、この視聴行動の変化に比例して増えていません。WSJが指摘しているのは、単なるメディア選好の問題ではなく、構造的なズレです。
この記事が突いているのは、広告業界の“制度”が技術の進化に追いついていないという事実です。今回はこの論点を、日本の広告市場環境に照らして考えてみます。
視聴行動はすでに逆転している
まず前提として確認しておきたいのは、YouTubeはもはや“デジタル動画”ではないということです。
テレビ画面で視聴されるYouTubeの時間は急増しています。リビングの大画面で長尺コンテンツを受動的に見る行為は、体験としてはテレビとほぼ同じです。
若年層にとっては特に、
- テレビ番組よりYouTube
- 放送より配信
- 編成よりアルゴリズム
という視聴環境が当たり前になっています。つまりこれは単純な「テレビ離れ」ではありません。
👉 テレビ体験がYouTubeへ移動した
と考えた方が正確です。視聴の主戦場は、すでに変化しています。
それでも広告費はテレビに残る理由
ここがこの記事の核心です。視聴時間が変わっているにもかかわらず、なぜブランド予算はテレビからYouTubeへ動かないのか?これは技術の問題ではありません。 構造の問題です。
広告業界の制度そのものが、技術の進化に追いついていないのです。
1. KPIがテレビ基準の「言語」で止まっている
ブランド広告の評価指標は長年、GRP(延べ視聴率)や到達率を中心に設計されてきました。これらはすべてテレビの言語です。
YouTubeはリーチも視聴時間も取れますが、多くの企業では依然として「デジタル予算」という別枠に分類されています。
視聴環境は変わった。 しかし予算の分類は20年前のまま。
ここに大きなズレがあります。
2. 意思決定者はテレビ世代
もう一つ無視できないのが、意思決定の世代構造です。多くのCMOやマーケティング責任者は、テレビ広告で成功体験を積み上げてきた世代です。広告予算には、成功体験が強く影響します。
テレビは“実績のあるメディア”。 YouTubeは“まだ新しい領域”。
この認識差が、予算移動のブレーキになります。広告予算は統計だけでなく、記憶でも動くのです。
3. テレビはブランドにとって“安全資産”
テレビ広告には長年のブランド資産があります。
- 炎上しにくい
- 品位がある
- 社内説明が容易
- 経営層が理解しやすい
これは単なるメディア価値ではなく、制度的な信頼に近いものです。YouTubeは視聴量では勝っていても、この制度的安心感をまだ完全には置き換えていません。
これはメディアの戦いではない
この議論を「テレビ vs YouTube」に単純化すると本質を見誤ると思います。問題はメディアではなく、ブランド広告の設計思想です。
予算設計、評価指標、代理店構造・・・すべてはテレビ中心に作られてきました。だから視聴行動が変わっても、制度はすぐには変わりません。これは技術革新ではなく、制度の遅延です。
日本はさらにタイムラグが大きい
この構図を日本に当てはめると、タイムラグはさらに拡大するでしょう。
なぜなら、日本は先進国の中でもテレビ広告依存度が高く、代理店構造もテレビ中心で発展してきたからです。その結果、視聴視聴状況が変わっても予算構造は簡単には変わらないのです。
これから何が起きるか
ここから先は予測です。
重要なのは、YouTubeがテレビを奪うのではなくテレビの定義が変わるだろう。という事です。
放送と配信の境界は消えていきます。 「どこで見たか」ではなく、 「どのスクリーンで接触したか」が重要になります。
GRPという概念もこのまま維持されるかは微妙です。
最終的には、スクリーン単位の広告設計へ移行せざるを得ないかもしれません。
テレビかYouTubeかではなく、 “家庭内スクリーンへの到達戦略”が重要になるのです。

