はじめに:「押し紙」問題の入口
「押し紙」とは、新聞社が販売店に対して、実際の購読者数を超える新聞を仕入れさせる慣行を指します。表面上は部数を増やすことで“発行部数が多い=広告価値が高い”と見せかけられますが、その実態は廃棄される新聞の山と、販売店の経営圧迫を生んでいます。
本シリーズは、過去に繰り返された「押し紙」裁判を手がかりに、この構造的な問題を読み解く全5話+番外編(全6話)の特集です。
本記事(第1話)では、裁判の理解に必須となる 「押し紙」と「積み紙」の違い、法的な位置づけ、経済的背景 を整理します。
第2話以降を理解するのに役立ちます。
「押し紙」と「積み紙」:言葉の綾に潜む争点
- 押し紙:新聞社が販売店に強制的に過剰部数を仕入れさせる行為(違法性あり)
- 積み紙:販売店が自主的に多めに注文した余剰部数(違法性なし)
新聞社は「積み紙だ」と主張し、販売店は「事実上の強制だった」と反論。この対立が裁判の中心にあります。司法は、この境界線をどう認定するかで判断を分けてきました。
法的な位置づけ:「新聞特殊指定」と独禁法
押し紙問題は、独占禁止法の 「優越的地位の濫用」 に当たります。特に注目すべきは、公正取引委員会が設けた 「新聞特殊指定」 です。
新聞特殊指定:新聞社が販売店の注文を超える部数を供給すること、または一方的に部数を決めることを禁止
特殊指定が存在すること自体が、この問題が「業界特有の構造的リスク」として国から認識されている証拠です。それでも十分な摘発や監視が行われず、長年問題が温存されてきました。
経済的背景:なぜ「押し紙」は続くのか?
新聞社にとって、発行部数は広告収入に直結します。
- 発行部数が大きいほど広告料金を高く設定できる
- 第三者機関であるABC協会に報告される“公称部数”には「押し紙」も加算され、見かけ上の発行部数が増える
一方、販売店にも一時的なメリットがありました。
- 折込広告収入が増える
- 一見すると「Win-Win」構造
しかし広告主から見れば、“実際に届いていない新聞”にも広告料を払っていることになります。
ここでは一見「真の被害者は広告主」と見えますが、次回以降で触れるように広告主自身が構造に加担してきた側面も存在します。
そのため本当の意味での被害者といえるのは、税金を使って広告を掲載する政府広報であり、血税が“廃棄される新聞に費やされる”点は重大な問題です。
長期的には読者・社会全体の新聞への信頼を損ねる構造でもあります。
社会的影響:見えない損害のまとめ
- 広告主:実際に読まれない紙面に高額広告費を負担(ただし一部は構造に加担してきた側面もあり、“純粋な被害者”とは言い切れない)
- 政府広報:税金を使って掲載されるため、廃棄紙面への出稿は直接的に国民負担となる重大問題
- 読者:不正を黙認する新聞社に対する不信感を増幅
- 販売店:折込収入が減ると経営破綻のリスク直撃
- 新聞社:会計上は一時的に延命できても、将来的な訴訟や信頼失墜という「負債」を抱え込む
まとめ:次回への布石
第1話では、「押し紙」の定義と裁判の基本構図、そして経済的背景を整理しました。この基礎を理解することで、以降の裁判例が一層明確に見えてきます。
➡️ 次回(第2話):佐賀新聞事件・読売新聞訴訟をもとに、司法がどのような判断を下してきたのかを徹底解説します。
▶第2話:司法はどう判断したか?佐賀新聞から読売高裁までの裁判の経緯!

