IP時代、出版社は「紙の広告媒体」から新たなビジネスパートナーへ
広告代理店にとって、出版社は必ずしも主要なビジネスパートナーとは限りません。
実際、出版社向けのビジネスは、 短期的な広告売上につながりにくく、 調整や確認に時間がかかるケースも多いため、 あえて距離を取っている代理店も少なくないでしょう。
しかし近年、出版社の立ち位置は大きく変わりつつあります。
かつて出版社は、「紙の広告枠を持つメディア」として認識されてきました。 ところが2025年現在、出版社はIP(知的財産)を起点とした価値の集積地へと姿を変えています。
この変化により、出版社は 広告代理店にとって“新しいビジネスチャンスを広げ得る相手” になりつつあります。
本記事では、
- 出版社と組むべきかどうかを判断するための前提整理
- もしビジネスとして向き合うなら、どう考えるべきか
この2点を、広告業界の視点から整理します。
そもそも「IP(Intellectual Property:知的財産)時代」とは何か?
ここで言う「IP時代」とは、商品そのものではなく、“物語・キャラクター・世界観など”が価値の中心になる時代を指します。「一度生まれると、何度でも価値を生み続ける資産」のことです。かつての出版や広告は、本を何冊売るか?雑誌に何ページ広告を載せるか?といった単発の取引が中心でした。
しかし現在は、【原作 → アニメ → 映画 → グッズ → ゲーム → 海外展開】というように、一つのIPを起点に、複数のビジネスが連鎖的に広がる構造が主流になっています。
そして重要なのは、出版社はこのIP時代において、最初から“原石”を握っている存在だという点です。この前提を理解しないままでは、広告代理店の提案は、出版社にとって「ズレた話」になってしまいます。
なぜ今、出版社の見方を変える必要があるのか
出版社を「紙の広告媒体」としてしか見ていない場合、 広告代理店は重要な変化を見落としてしまいます。
出版社は現在、
- IPホルダー
- コンテンツメーカー
- メディア運営者
- 場合によっては広告主
という、複数の顔を同時に持つ存在になっています。
つまり出版社は、 広告枠を売る相手ではなく、価値を共に拡張できる相手へと変化しているのです。
これは、 「すべての代理店が出版社と組むべきだ」という話ではありません。
ただし、出版社を旧来の認識のまま捉えていると、 本来見えるはずの新規ビジネスの可能性を見逃すことになります。
広告代理店がやりがちな“従来型アプローチ”の限界
出版社に対して、次のような提案をしていないでしょうか。
- 純広告前提の企画
- 枠・秒・インプレッション中心の説明
- 短期KPI(CTR・CPA)だけを重視
- IPを単なる「素材」として扱う発想
これらは、かつては通用していた方法です。
しかしIP時代の出版社から見ると、 こうした提案は次のように映ります。
「それは、うちでやる意味がありますか?」
出版社が見ているのは、 短期の広告成果ではなく、IPやブランドへの長期的な影響だからです。
もし出版社とビジネスを構築するなら、何が重要か
出版社と向き合う場合、 広告代理店に求められる視点は大きく変わります。
① IPを「使う」のではなく「育てる」という発想
- 単発施策ではなく、連続性のある企画
- 世界観を壊さず、むしろ広げる設計
- ファンや読者の体験価値を高める視点
広告は露出ではなく、 物語を拡張するための手段として設計される必要があります。
② 広告を「体験」として組み立てる
- OOH × IP
- SNS動画 × 編集部
- イベント × ファン参加
接触回数を増やすことよりも、 どんな記憶を残すかが重要になります。
③ 出版社ごとの性格を理解する
出版社と一口に言っても、性格は大きく異なります。
- 大手出版社:
- ブランド管理を重視
- 長期視点・安全設計が前提
- 中小出版社:
- 意思決定が早い
- 実験的な企画に前向き
同じ企画書を出すのではなく、 相手に合わせた向き合い方が必要です。
出版社と組むことは「選択肢のひとつ」である
改めて強調しておきたいのは、 出版社とのビジネスはあくまで選択肢のひとつだという点です。すべての広告代理店にとって、 出版社が最適なパートナーとは限りません。
しかし、 出版社を「紙の広告枠のメディア」として切り捨ててしまうのは、 もはや現実に即していない判断になりつつあります。
出版社は今、 IPという“宝の山”を内包した存在へと変化しています。
まとめ|出版社を見る視点が、代理店の可能性を左右する
出版社と仕事をするかどうかは、 各広告代理店の戦略によって異なります。
ただし、
- 出版社は何者なのか
- 何を価値としているのか
- どこに可能性があるのか
これを理解した上で「やらない」と判断するのと、 知らないまま距離を置くのとでは、大きな差があります。
出版社を 「紙の広告媒体」と見るか、 「IPを起点に新たなビジネスを生み得る相手」と見るか。
その視点の違いが、 これからの広告代理店の可能性を静かに分けていくはずです。
広告代理店の価値は、 どこと組むかだけでなく、 なぜ組むのかを説明できるかで決まる時代に入っています。

