第1話から第4話まで、「財務」「不動産」「組織」「海外事例」という4つの視点から、パレスサイドビル売却の意味を掘り下げてきました。
- 財務:手残りキャッシュは約1,000〜1,400億円。
- 不動産:自社ビル消滅後は家賃負担が毎年のしかかり、体力は長くて10年。
- 組織:リストラで優秀な人材から流出する「逆選択」が起きる。
- 戦略:NYタイムズは巨額ではなく「デジタル人材」への投資で復活した。
そして最後に残る最大の問題は!
理屈では分かっていても、なぜ日本の組織は変われないのか?
本稿では、この問題の本質を解くべく「意思決定と権力構造」の問題に踏み込んでいきます。
1. 「700億円」の意味──再生の原資か、延命の麻薬か
第1話の試算では、売却益から諸経費を差し引いた「手残り」は最大1,400億円。
しかし、ここから既存借入金の返済と、最初の大規模リストラの割増退職金を確保すれば、実際に未来投資へ使える“自由なお金”は約700億円が現実的なラインです。
この700億円は、毎日新聞にとって“諸刃の剣”です。
●再生の原資:
- デジタル基盤刷新
- エンジニア採用
- 小規模メディア/データ企業のM&A
●改革を遅らせる麻薬:
- 「あと数年は持つ」という誤った安心感
- “延命”のための赤字補填に消えるリスク
豊富すぎる資源が逆に組織を弱くする・・・これが「資源の呪い(Resource Curse)」です。
パレスサイドビルという巨大資産を手放して得た現金も、同じ罠に落ちる可能性があります。
2. 任期2年の罠:「誰も未来の責任を取らない」構造
では、この700億円の使い道を誰が決めるのか? それは、任期2年の「サラリーマン役員」です。
毎日新聞の経営陣はオーナーではなく、社内政治を勝ち抜いた“管理職の延長線上”にある存在です。この構造が、意思決定を根本から歪ませるのです。
●心理①「自分の任期で波風を立てたくない」
- 紙の廃止、デジタルへの巨額投資は、短期的には大赤字要因
- 役員個人の評価が下がるため、誰も踏み出さない
●心理②「先送りすれば自分の任期は無事」
- 700億円を赤字の穴埋めに回せば、2年間は会社が“平穏”に見える
- 10年後の崩壊は「自分とは関係ない未来」として無視される
この構造では、企業の“10年後の生存”より、“役員個人の2年後の保身”が優先されます。
3. 派閥政治の現実:700億円はどこへ消えるのか
歴史の長い新聞社は、派閥闘争の激しさでも知られます。編集局vs経営、主流派vs反主流派といった社内派閥の力学・・・700億円という巨額を前に、社内闘争はむしろ激化します。
そして、“社内の対立(派閥政治)”が起きると改革は遅れます。「延命」「既得権益維持」「バラマキ」に流れるるのです。
その理由は明確で、派閥闘争が起きる組織では、意思決定が「会社のため」ではなく「派閥を守るため」に行われるからです。
派閥は「自分の勢力が不利になる改革」を絶対に望みません。その結果、資金の使い道は次の3つに収束します。
●起きること①:既存システムの延命に使われる
本質的なデジタル投資ではなく、「延命のための補修」に消える
●起きること②:高給の“働かないおじさん”を養う資金に消える
若手採用やDXではなく、「既得権益の維持」に資金が吸われる
●起きること③:戦略なきバラマキで700億円が霧散
数年後には、資金も建物も人材も失った“空洞化企業”だけが残る
これが、強力なオーナーシップを持たない組織がたどる最も典型的な未来図です。
4. シリーズ総括:「歴史の審判」を受けるのはこれから
パレスサイドビルは、戦後の毎日新聞の栄光を象徴する“城”です。その城を自ら手放した後に、問われるのは、建物ではなく「中身」です。
NYタイムズが復活できた理由は、デジタル人材への投資を断行した「強いオーナー」がいたからです。
対して毎日新聞の意思決定者は、任期2年のサラリーマン役員たちです。彼らに「10年先の未来」を見据える覚悟はあるでしょうか?
なければ、退任後の安泰だけを優先して、700億円を食いつぶすだけです。
毎日新聞のように、
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出世が年功順で
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外部登用がほぼ存在せず
-
2年任期のサラリーマン役員が意思決定し
-
派閥対立が根強く
-
“変わることで損をする人”が多数派を占める
という構造では、改革の突破力を持つ外部リーダーが入る余地はほとんどありません。
そのため—このシリーズの結論は次の一文に尽きます。
“突出したリーダー”が現れない限り、700億円は数年で溶け、毎日新聞は静かにその歴史を閉じるだろう。
これは感情論ではなく、数字(財務)と構造(組織)と行動原理(インセンティブ)から導き出される、極めて合理的な予測なのです。
🔗 関連深掘り記事:毎日新聞と創価学会の“蜜月構造”——印刷ビジネスが崩れると何が起きるか?
今回のシリーズでは、財務・家賃負担・組織崩壊・意思決定という“全体構造”を分析しましたが、
実は 毎日新聞の命運を左右するもう一つの重大要素 があります。
それが 創価学会(聖教新聞)との印刷取引 です。
もし今後、印刷受注が縮小・消滅すれば—
-
印刷工場は一気に赤字化
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グループ内の資金繰りが悪化
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追加のキャッシュ投入(売却益の再流出)が必要になる
という“第6のリスク”が顕在化します。これは、今回のシリーズと密接につながる 毎日新聞GHDの構造問題の核心 です。
👉 【深掘り記事はこちら】毎日新聞と創価学会・聖教新聞の蜜月関係を検証する
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