新聞社の存続とニュース供給網の未来(第1話)|ポータルサイトが「自前の取材網」を持たない理由

新聞社ビジネスモデル

スマートフォンのポータルサイトでニュースを読むことが日常化する中、情報の「供給網(サプライチェーン)」がかつてない危機に瀕しています。

新聞社が多額のコストを投じて制作した一次情報を、プラットフォームが効率よく集客に利用する。この長年の共生関係が、いまや「共倒れ」の懸念へと変わりつつあります。

この危惧は、単なる予測ではありません。国内でも公正取引委員会が、ニュースポータルと新聞社・通信社の取引における不公正な対価設定の懸念を公的に指摘するなど、既に「健全な言論空間を揺るがす構造的欠陥」として表面化しています。

ここで一つの素朴な疑問が浮かびます。なぜ、これほど巨大な影響力と資本力を持つポータルサイトは、自前の取材網をほとんど持たないのでしょうか?

ポータルサイトの本業は「報道」ではなく「流通業」

まず整理すべきは、ポータルサイトの本業はジャーナリズムではなく「情報の流通と最適化」であるという点です。

彼らのビジネスモデルにおける主役は、記事そのものではなく「ユーザーの滞在時間」と「広告在庫」の最大化にあります。

ニュースは「無料で湧いてくる情報」ではなく、取材・編集・検証という工程を経て初めて成立する極めてコストの高い産業です。

プラットフォーム側にとって、自社で記者を抱えることは、経営の根幹である「身軽さ(低コスト・高利益)」を損なうリスクを孕んでいます。

  • 重い固定費:記者を正社員として抱え、国内外に拠点を維持するコストは、IT企業の論理では「非効率な固定資産」と映ります。
  • 不確実なリターン:数ヶ月を要する調査報道が、数分で書けるSNSの話題よりPVを稼げないことは珍しくありません。
  • 法的・社会的リスク:権力監視に伴う訴訟リスクや、政治的圧力、炎上への直接的な責任を負うことは、効率を重視するプラットフォームには重荷となります。

「持たない」のではなく「持てない」構造

よく「ポータルは新聞社の努力にタダ乗りしている」という批判を耳にします。

しかし実際には、持たないのではなく「持てない」構造が出来上がっています。IT企業が重視するのは「スケール(拡張性)」です。

プログラム一つで百万人に届ける技術には投資しますが、泥臭い「靴底を減らす取材」はスケールできないため、投資対象になりにくいのです。

その結果、新聞社という「外部の工場」から完成品を安く仕入れ、自社の棚に並べるだけの「百貨店モデル」が定着しました。

しかし、このモデルは供給元である新聞社の体力が削られることを前提としておらず、いま「仕入れリスク」という形でのっぴきならない限界に達しています。

問題は「誰が悪いか」ではない

ここまで見てきた通り、この問題は「ポータルが搾取している」あるいは「新聞社が時代遅れだ」といった単純な善悪二元論で語れるものではありません。

問われるべきは、より構造的な問題です。

誰が、どの立場で、「取材という高コストで公共的な機能」を持続可能な形で支えていくのか。

次回は、この問題に対して海外ではどのような答えが試されてきたのかを調査・検証していきます。

成功、失敗、そして報道からの撤退――。すべてがすでに現実として起きています。日本はまだ、選択できる段階にあります。

 

【シリーズ導線】

  • 次話: 第2話:海外で見える「プラットフォーム×報道」の分岐点
  • この連載で扱っている問い: 取材という高コストで公共的な機能を、誰が持続可能な形で支えていくのか。

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