本記事は全4回の最終回です。富山県に続く「次の撤退候補」はどこなのか。都道府県別発行部数データを基に、全国紙が維持できなくなる地域の共通点を考え、そして、新聞業界が赤字でも撤退できない構造的理由を明らかにします。
本連載では、これまで3回にわたり、日本ABC協会の最新データを基に「全国紙」のリアルな勢力図や配送網の危機を分析してきました。第1回での地域ごとのシェア偏向、第2回での毎日新聞による富山県からの事実上の撤退、そして第3回では配送現場を支える「合配」システムの限界。
これらの議論を整理すると、富山県の衝撃は決して一過性の出来事ではなく、新聞業界全体が直面している「崩壊」の始まりに過ぎないことがわかります。
連載の締めくくりとなる今回は、データが警告する具体的な「危険水域」の県と、それでも撤退に踏み切れない新聞業界特有の事情に迫ります。
次なる撤退候補:毎日新聞と産経新聞の「崖っぷち」エリア
今回のデータを詳細に読み込むと、富山と同じ「物流の限界」と「シェアの消滅」という二重苦に喘ぐエリアが浮かび上がってきます。
毎日新聞の危険水準
高知県(919部 / 0.26%)、沖縄県(189部 / 0.03%)。特に高知県は四国山地を越える過酷な配送ルートが必要で、1,000部を割り込んだ今、維持は極めて困難です。沖縄は言わずもがな、輸送コストが最大級にかかります。
産経新聞の限界点
東北3県(青森・秋田・岩手)は合計してもわずか5,000部強。さらに富山(122部)、石川(267部)など、産経は毎日新聞よりもさらに深刻な数値を示しています。物流の合理化を考えれば、これらの地域からの撤退は時間の問題と言えるでしょう。
なぜ普通のビジネスのように「即撤退」できないのか?
これほどの大赤字でありながら、新聞社が撤退に二の足を踏むのにはなぜでしょうか?それを考えていくと3つの大きな理由が浮かび上がってきます。
「全国紙」という看板とプライド
1つでも県単位の空白地帯ができれば、名実ともに「全国紙」ではなくなります。これはブランド価値の致命的な低下を意味し、首相官邸や中央官庁の記者クラブでの発言力、広告主への訴求力に直結します。一度看板を下ろせば、二度と戻ることはできません。
社会インフラとしての使命感
新聞は「公器」であり、言論の多様性を支えるインフラです。ある新聞が撤退することは、その地域の多様な視点を一つ奪うことになります。報道機関としての「プライド」がブレーキをかけているのです。
また、長年購読してきた高齢の読者に対し、新聞社側から「もう配りません」とは言い出しにくいという、マスコミとしての使命感と現場レベルの苦悩も想像できます。
複雑に絡み合った販売網の契約
新聞の配送網は他社との協力で成り立つ「積み木」のような状態です。1つの県を止めれば、配送ルートやコスト計算が連鎖的に崩れてしまいます。すると、隣接する他地域の維持も危うくなる恐れがあるのです。積み木が一個崩れれば全体が崩れるという仕組みが撤退を遅らせているのです。
結び:全国紙が「地方紙」になる日
今回のデータ分析から見える未来は、「全国紙という概念の消滅」です。 富山県の事例は、プライドや使命感だけでは「物理的な物流コスト」を支えきれない現実が表面化しました。
今後、各紙はそれぞれの「聖地」を設定し、それ以外の地域はデジタルや郵送、あるいは静かな撤退を選択することになるでしょう。
データが示す現実は、新聞社が「全国紙」としての看板を下ろし始めていくだろうことを物語っています。
私たちが当たり前だと思っている「毎朝届く新聞」というインフラは、今まさに大きな岐路に立っています。
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