電通グループは、国内では高い利益率を維持する一方で、海外事業の赤字が経営全体を圧迫しています。2026年1月に報じられた海外事業売却の破談危機は、単なる交渉失敗ではなく、長年続けてきた海外M&A戦略そのものの限界を浮き彫りにしました。
本記事では、なぜ電通の海外事業が「売れない資産」になったのか、その原因を検証してみます。
電通グループが揺れています。
2025年8月の衝撃的な赤字転落(2025年8月に発表された通期業績予想の大幅な下方修正)からわずか半年足らず。2026年1月14日、英フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた「海外事業の売却交渉、破談の危機」というニュースは、再建を信じていた市場と社員に冷や水を浴びせました。
株価は再び11%を超える急落。日本国内では「安泰」の象徴とされる電通に、一体何が起きているのでしょうか?
1. わずか半年間で二度の激震
この半年間、電通を襲ったニュースは「一時的な不調」の域を超えているように見えます。
- 2025年8月14日:通期業績予想を黒字から一転、754億円の赤字へ修正。海外従業員 3,400人の削減と配当の無配・未定を発表。
- 2026年1月14日:再建の切り札であった「海外事業の売却」が、買い手候補の相次ぐ撤退により破談の危機にあると報道。
半年前のリストラは、いわば「止血」のための外科手術でした。そして今回の売却交渉は、不採算部門を切り離して本体を救う「切り札」だったはずです。しかし、その切り札が封じられている状態です。
なぜ「売却」という選択肢を選び、そして失敗したのか?
電通が海外事業(主に旧イージスを中心としたネットワーク)を売りに出したのは、投資家への「負の遺産」の清算をアピールするためだったはずです。
- 国内の利益を食いつぶす「海外事業」:日本国内事業は相対的に高い利益率を維持し、2025年度も高い成長率と利益率を維持しています。しかし、海外事業で発生する数千億円規模の減損損失や赤字が、その利益をすべて飲み込んでしまう構造になっています。
- 「身軽」になれないジレンマ:海外を切り離せば、電通の稼ぎ頭である国内事業に集中できます。結果としてグループ再編の原資が得られるはずです。しかし、発表されたニュースを見ると、買い手候補は、電通の海外資産が抱える「リスク」が価格に見合わないと判断し、次々と交渉のテーブルから立ち去ったのです。
2. 「国内のガリバー」と「世界の弱者」という歪な構造
日本国内で広告の仕事をしていると、電通の力は絶対的に見えます。不祥事があっても仕事が集まり、様々な企業が電通に対して忖度を働かせています。「電通=安泰」というイメージを持っている人が圧倒的に多いでしょう。国内のシェアは圧倒的です。
しかし、一歩外に出れば、その「力」は全く通用していないように見えます。
| 比較項目 | 国内事業(日本) | 海外事業(dentsu international) |
|---|---|---|
| 市場シェア | 圧倒的ガリバー。メディア枠の独占的確保、官公庁案件など揺るぎない地位。 | 世界上位グループではあるものの、欧米の巨大代理店(WPP、オムニコム等)に対して相対的に劣後するポジション。 |
| 収益構造 | 伝統的な手数料に加え、デジタル・コンサルも高利益率。 | 激しい価格競争。利益率が低く、DX支援でも他社に一歩出遅れ。 |
| 強みの源泉 | 長年築いた政財界とのコネ、マスコミへの影響力。 | 買収で寄せ集めた組織。バラバラな企業文化の統合に失敗。 |
つまり、「日本流のやり方」が世界では通用しなかった。のです。過去10年で多額の資金を投じて進めてきた海外M&A戦略が、今や本体を沈没させかねない「巨大な重石」へと変わってしまったのです。
3. 電通の未来:牙城の綻びは「内部」から始まる
「倒産」の危機はまだ先の話かもしれません。しかし、今回の破談危機が示唆するのは、より深刻な「構造的な問題」です。
① 「自力再建」という名の泥沼
売却に失敗した以上、電通は今後も海外の赤字を抱え続け、自力で立て直さなければなりません。これは、国内事業で稼いだ利益が、今後も延々と海外の穴埋めに消えていくことを意味します。
② 優秀な人材の流出
「安泰な電通」を信じて入社した優秀な若手層にとって、海外事業の失敗による配当停止やリストラのニュースは、ブランドへの信頼を根底から揺るがすものです。国内の事業を支えている「人」という資産が、離れていく可能性があります。
③ 投資家の失望
「いつか海外が立ち上がる」という期待で支えられていた株価は、今回の破談報道で「出口戦略」を失ったように思います。投資家にとって、電通はもはや「成長株」ではなくなっているのかもしれません。
最後に
半年間に二度起きた株価急落は、単なる業績の問題ではなく、「国内利益で海外の失敗を補填するモデル」の限界を市場が指摘したものです。日本の広告界の頂点に君臨し続けてきた電通は、海外事業から崩れ始めています。海外事業をどのように清算するのか?ここを間違えると国内の事業にも大きな影響が出ることになるでしょう。
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