花王との商品開発に学ぶ、広告代理店の生存戦略
2024年3月、花王の「サクセス」ブランドから発売された新商品。
その裏側で、Amazon Adsが商品企画そのものに深く関わっていたことをご存知でしょうか?
これは単なる「広告枠の提供」ではありません。
Amazonが持つ膨大な購買・検索データを武器に、生活者のインサイトを掘り起こし、商品開発の上流工程から伴走する、まったく新しい協業モデルと言えます。
本日は、この事例を深掘りしてみます。そして、広告代理店は「脅威」に直面するのか?もしくは、その先に「進化の可能性」はあるのか?考えます。

つまり!AmazonAdsとメーカーの直接のやり取りにより、広告代理店は「中抜き」されるのか?を検証してみる試みです!
【基礎知識】そもそもAmazon Adsとは何か?
Amazon Adsは、単なる広告出稿ツールではありません。「購買に最も近い場所」で顧客と繋がるための統合ソリューションです。
主な広告メニュー:
- スポンサープロダクト広告: 検索結果や商品ページに表示される、最も基本的な広告。(クリック課金型)
- スポンサーブランド広告: 検索結果上部にブランドロゴや複数商品を表示し、ブランド認知を高める。
- Amazon DSP: Amazonのサイトやアプリを離れた後も、提携ウェブサイトやアプリで顧客を追跡し広告を表示する。
- 最大の強み:「いつ、誰が、何に興味を持ち、何を買ったか」という購買行動データに直接基づいている点です。これにより、広告効果を売上という最終成果(ROAS: 広告費用対効果)で極めて正確に測定することができます。
ケーススタディ|花王 × Amazon Ads(推測)
通常、メーカーの商品開発は【市場調査 → コンセプト立案 → 試作品開発 → テスト販売 → 本発売】という流れをたどり、広告は発売後に強化されるのが一般的です。
多くの場合、このプロセスは自社内で完結するか、あるいは広告代理店など外部パートナーと協業する形で進められます。
しかし、今回の取り組みでは、花王はAmazon Adsの専門チームと密接に協働し、企画の初期段階から膨大な購買・検索データを基盤にインサイトを抽出しました。
ここでいう『インサイト』とは、検索ワードや購買履歴、レビューなどから浮かび上がる“生活者の本音”を指します。例えば『白髪は気になるが急に真っ黒にしたくない』『自然なボリューム感も欲しい』といった声です。こうした行動データに裏打ちされた具体的な気持ちを掘り起こすことが、単なるアンケート調査では得にくいAmazonならではの強みなのです。
その結果、従来の調査では見えにくかった生活者の潜在欲求を可視化し、商品コンセプト策定からパッケージデザイン、広告メッセージまで一貫してAmazon主導で設計する体制を構築。これは単なる広告出稿支援にとどまらず、商品開発プロセスそのものを変革する取り組みだったのです。
さらに、役割分担も明確だったと推測されます。
Amazonは検索・購買データを基に生活者インサイトを抽出し、ターゲットのセグメントや訴求ポイントを考案。一方で花王は自社の専門知識を活かし、Amazonからの提案に基づき、実際の製品化や品質検証を担ったのです。
両者が互いの知見を持ち寄ることで、従来型の「広告後追い」ではなく、発売前からヒットの確度を高める体制が実現したのです。
「サクセスブラック」開発プロセス
- インサイト発見
Amazon内の検索データから「白髪」関連の検索数が顕著に増加しているトレンドを把握。 - ニーズの具体化
検索ワードの組み合わせやレビュー分析から、「急に真っ黒にしたくない(徐々に染めたい)」「髪のボリューム感も欲しい」という潜在ニーズを特定。 - コンセプト共創
花王が持つ毛髪科学の知見と、Amazonのデータに基づくインサイトを融合。商品の訴求ポイント、パッケージデザイン、キャッチコピーを精密に設計。 - 発売後の最適化
Amazon DSPやスポンサー広告を駆使し、ターゲット顧客に的確にリーチ。A/Bテストを繰り返しながら、広告クリエイティブをリアルタイムで改善。
結果:発売直後から売上目標を大幅に超え、Amazonの特定カテゴリでベストセラーを獲得
【構造変化】広告代理店 vs Amazon Ads 価値提供の違い
この事例は、マーケティングにおける両者の役割の違いを浮き彫りにしています。整理すると下記の様になります。
| 項目 | 広告代理店 | Amazon Ads (プラットフォーマー) |
|---|---|---|
| データソース | 調査、アンケート、グループインタビュー (サンプリング・定性) | 購買データ・検索データ (実測・定量) |
| 強み | ブランドの世界観構築、テレビCMやイベントなどオフラインも含む統合戦略 | 売上への貢献度を可視化、データに基づく高速なPDCAサイクル |
| 関与領域 | 広告・コミュニケーション戦略が中心 (企画に関与する場合もある) | 商品企画・開発 → 広告 → 販売 →効果測定まで一気通貫 |
| 提供価値 | 多様なメディアを組み合わせた「認知・興味」の最大化 | 購買ファネルの最終段階における「売上」の最大化 |
【脅威】広告代理店の価値が揺らぐ3つのポイント
この動きは、広告代理店のビジネスモデルの根幹を揺るがす可能性があります。
リサーチ機能の代替:
これまで広告代理店が高額な費用をかけて行ってきた「消費者インサイト発掘」を、Amazonがより早く、より正確なデータで提供してしまう。
企画(上流工程)への進出:
代理店の付加価値の源泉であった「戦略・企画立案」の領域に、プラットフォーマーが直接入り込んでくる。
メディアバイイングの中抜き:
Amazon DSPなどを広告主が直接、あるいはより少ない手数料で運用できるようになり、代理店の存在意義が薄れる。
それでも広告代理店が必要な理由(反論)
上記の様に、このような取り組みが成功し、ビジネスモデルとして構築すると、広告代理店にとっては脅威です。取り組みが実施された段階で広告代理店の仕事が減少するのは事実です。
今回のようなAmazonケースでは広告予算の多くをAmazonに投入するはずです。広告費以外にも商品開発に関する費用が発生している可能性があり、代理店経由で動く予算は通常時より減少すると考えられます。
しかし、一方で、Amazon Adsが広告代理店の仕事をすべて奪うわけではありません。広告代理店には、プラットフォーマーにはない独自の価値が存在しています。
全方位のブランド戦略:
消費者のブランド体験はAmazonだけで完結しません。テレビCM、SNS、雑誌、リアル店舗など、あらゆる顧客接点を横断した統合的なコミュニケーション設計は、代理店の専門領域です。
複数プラットフォームの最適化:
「Amazonではこう売るが、楽天市場ではこう見せる」「実店舗の売上を伸ばすために、どのデジタル広告を使うか」といった、プラットフォームを横断した最適な予算配分を提案できます。
中立性と客観性:
Amazonは当然「Amazon内での売上最大化」をゴールとします。代理店は第三者の視点から、広告主の事業全体の成長にとって最適な戦略は何かを客観的に判断できます。
未来予測|大手は「併用」、中小は「Amazon完結」へ
今後は、企業の規模や事業モデルによって、マーケティング手法の二極化が進むかもしれません。
- 大手ナショナルクライアント:ブランド全体の価値向上のため、広告代理店(統合戦略)とAmazon Ads(販売特化)を目的別に使い分ける「ハイブリッド型」が主流に。
- 中堅・中小企業 / D2Cブランド:限られた予算で最大の効果を出すため、商品企画から販売、広告までをAmazonプラットフォームに集中させる「ワンストップ完結型」を選ぶ企業が増加。
この二極化は、自動的に進むわけではありません。この未来が現実になるには、少なくとも2つの重要な「触媒」が必要となります。
前提条件1:成功事例の認知拡大と「勝ちパターン」化
今回の花王の事例が、単発の「特殊な成功例」で終わるか、それとも他の企業も追随できる「勝ちパターン」として認知されるかが、最初の分岐点です。
- 横展開への期待:多くの大手メーカーがこの事例を知り、「我々もAmazonのデータを活用して商品開発ができないか?」と考え始めた時、初めて大きな潮流となります。
- 再現性の証明:Amazon側も、この成功を他のクライアントでも再現できることを証明し、積極的にアピールしていく必要があります。ビジネスメディアでの露出やカンファレンスでの登壇などを通じて、この協業モデルの有効性が広く知れ渡ることが不可欠です。
前提条件2:Amazon側の体制構築と「コンサル人材」の確保
この協業モデルは、Amazonの広告プラットフォームをただ提供するだけでは成立しません。クライアントのビジネスを深く理解し、膨大なデータを実用的なインサイトに変換できる、高度な人材が不可欠です。
- 求められる人材:必要なのは、単なる広告営業担当者ではありません。外資系コンサルティングファームや広告代理店の戦略プランナーのような、データ分析能力とビジネス課題解決能力を兼ね備えた「戦略コンサルタント」です。
- スケーラビリティの課題:Amazonがこの分野を本気で拡大するならば、こうした専門人材を積極的に採用し、専門チームを拡充する必要があります。花王クラスのトップクライアント数社に対応するだけなら現状の体制で可能かもしれませんが、数十社、数百社へと広げるには、相応の投資と組織作りが求められます。
この2つの前提条件が満たされた時、二極化の流れは一気に加速するでしょう。成功事例が新たな需要を生み、その需要に応えるためにAmazonが体制を強化する。この好循環が回り始めた時、広告代理店は否応なく、自らの存在価値を問い直されることになります。
【提言】広告代理店に求められる3つの変革
この大きな変化の波に乗り遅れないために、広告代理店は自らの役割を再定義する必要があります。
「媒体の代理人」から「事業の伴走者」へ:
単に広告枠を売るのではなく、クライアントの事業課題を深く理解し、商品開発やサプライチェーンの領域まで踏み込んだ提案を行う。
「データ分析力」の強化:
Amazonや楽天、Googleといった複数のプラットフォームデータを統合的に分析し、代理店独自のインサイトを導き出す能力を磨く。
「クリエイティビティ」の再定義:
データだけでは生み出せない、人の心を動かすブランドストーリーや、社会を巻き込むようなキャンペーンを企画・実行する力を強みとする。
【まとめ】「御用聞き」から「共創パートナー」へ
花王とAmazon Adsの事例は、広告業界の構造変化を象徴しています。もはやプラットフォーマーは単なる「媒体」ではなく、商品開発から販売までを担うビジネスパートナーです。
この現実を「脅威」と捉え、旧来のビジネスモデルにしがみつく広告代理店は売上が減少する可能性があります。一方で、この変化を「好機」と捉え、Amazonとの協業体制を構築するなどの取り組みを実施し、データ活用能力とクリエイティビティを武器にすれば、「共創パートナー」へと進化できた広告代理店は売上を伸ばすかもしれません。

