日本の広告費2020年度を検証します。
日本の広告費2020年度版が電通より発表されました。
昨年度(2019年度)は、インターネット広告費がテレビ広告費を抜きシェアで1位となったことが、
広告業界にとって大きなトピックとなりました。
この流れが加速し『マスメディア全体の売上をも凌駕するのは時間の問題か?』と注目していた
2020年度でしたが、スタート早々に【新型コロナ】が広告業界にも直撃しました。
新しい生活様式の中で、広告メディアが生活者にどのように受け入れられるのか?
注目点の多かった2020年度を振り返ってみましょう。
例年通り、2005年度から2020年度までを比較した最新の表も作成しました。
是非、ダウンロードをして表をじっくり眺めてください。
前年比(2019度比)だけでなく、2005年度からの長期間の動きを比較をすることで様々なことが見えてきます。
日本の広告費2020年度のポイント(前年比較)
- 2020年度の日本の広告費は、新型コロナの影響が広告業界を直撃。
総広告費は6億1,594億円。6兆円台はキープしましたが、前年費88.8%のマイナス成長です。
この下げ幅は、広告統計が始まって以来、リーマンショックに続く2番目の下げ幅です。
現場を見ている立場としては、リーマンショックを大幅に上回る戦後最大の下げ幅になるかと予想していましたが、
数字で見る限り『予想より健闘している』というのが正直な実感です。
巣ごもりでも影響の少ないインターネット広告が2020年度も牽引したなのでしょう。
インターネット広告に携わっていない方の体感はマイナス50%以上の方が大多数だと思います。
- マスメディアの4媒体は、衛星関連も含めた合計で、2兆2,536億円(前年比86.4%)
昨年同様に全てのメディアがマイナス成長となりました。
(地上波テレビ広告88.7%、衛星メディア関連92.6%、新聞広告81.1%、雑誌広告73.0%、ラジオ広告84.6%)
昨年度は90%台のマイナス幅が中心でしたので、2020年度は新型コロナがマスメディア業界を直撃したことが良く分かります。 - インターネット広告費は、2兆2,290億円(105.9%)
2桁成長は維持できませんでしたが、コロナ渦においてもプラス成長を継続しています。
昨年度と同様に、運用型広告・動画広告が好調と言えます。 - プラス成長を続けていたプロモーションメディアは、新型コロナの影響が最も直撃したメディアです。
サイネージの普及が急速に進んでいることで、成長が見込まれた『屋外広告』及び『交通広告』が大きく売上を落としています。
政府が『在宅』『テレワーク』『ステイホーム』を連呼していますので屋外広告にとっては最悪の1年となりました。
日々、外出の人口減ををニュースで放映していますので当然の結果と言えます。
インターネットだけでは訴求出来ない層へのアプローチとして好調だったDM関連もマイナスとなりました。
好調を維持したのは、昨年度に続き『タクシー広告』です。
昨年度までの勢いは無くなり空き枠が見られる状況でしたが、BtoBを中心に活況だった。と言ってもいいでしょう。
広告媒体別の推移
それでは、広告費の推移について、〖テレビ広告〗〖新聞広告〗〖雑誌広告〗〖ラジオ広告〗〖インターネット広告〗〖プロモーションメディア〗
に分けて検証してみましょう。
テレビ広告
テレビ広告費は、地上波が1兆5,386億円。
前年比で88.7%(昨年度は97.2%)-2,000億円という大きなマイナスとなっています。
当初は、コロナ渦による在宅の増加によりテレビ視聴人口が増加。
『テレビ広告は好調になる』と言われていましたが、昨年度を上回る大きなマイナスとなりました。
スポット関連では、マスクの着用により口紅や化粧品の出稿が大きく減少していること。
その他多くの企業が業績のマイナス合わせて出稿を減らしたことで大きく減少しています。
イベント関連の減少も大きく影響していると言えます。
幅広いクライアントを持つテレビ広告では、
各企業のコストカットが積み重なることで、結果として大きなマイナスとなっているのでしょう。
また、期待されていたオリンピック・パラリンピックの延長、プロ野球の延期や試合数の減少、その他スポーツイベントの減少などにより
タイム枠が不調になったことも大きな要因になっています。
衛星メディア関連も1,173億円で前年比92.6%となりました。
2017年度に、成長の鈍化が始まり、2018年度からマイナス成長となっています。
在宅によりテレビの視聴環境が整ったにも関わらず、テレビ広告を利用するクライアントが減少している要因は、
インターネット動画の成長です。
視聴メディアがテレビからYoutubeを中心としたWeb系に流れているのは確実です。
若い世代ではテレビより、見たいものだけを見れるSNSの方が魅力のあるメディアなのです。
在宅の増加に関わらず、NETFLIXなどの配信サービスの加入者が大きく増加していることからも
『地上波の魅力』が年々減少しているのが現実です。
5Gが浸透していく2021年度以降も厳しい状況が続くことは間違いありません。
新聞広告
新聞広告は、3,688億で前年比81.1%となりました。
2020年度に4,500億円を割り込み、2023年度までに4,000億円を割り込むと予想していましたが、
1年間で1,000億円近いマイナスとなり、1年で一気に3,000億円台まで大きく割り込みました。
新型コロナに関する政府広報やウェビナー・リモートワーク関連、EC関連ではプラス(107.9%)を達成していますが、
新聞広告のメインスポンサーと言える『交通・レジャー関連』が大きなマイナス(51.1%)となったことが響いています。
イベント系の見送りによる影響も少なくありません。
地上波同様に在宅の増加が新聞広告にプラスに働くのではないか。と言われていましたが
『在宅=新聞の購読』とはなりませんでした。
「在宅が増えたから新聞を読もう」となる人はいなかった。ということです。
雑誌広告
雑誌広告は、1,223億年となり(前年比73.0%)非常に厳し状況が続いたと言えます。
マスクの着用により、メインクライアントである化粧品広告が減少していると思われます。
アパレル業界の不況も大きな要因です。
但し、在宅や巣ごもりの影響により電子出版関連は好調です(128.0%)
この分野に対する注力が今後非常に大事になってきます。
また、2020年度は雑誌社による動画制作が増加した年度でもあります。
雑誌社によるレベルの高い動画制作は2021年度以降も増えることになるでしょう。
今後は、この動画制作を『制作だけで終わらせない』展開がポイントとなります。
様々な生活導線上で出版社による動画が見られるようになれば、今後の大きな成長分野になることは
間違いありません。
『DOOHや位置情報との連動』などのアイデアは相当数あります。
ラジオ広告
2020度は1,066億円(前年比84.6%)となりました。
ラジオが大きく力を発揮する『レジャー』『交通』『イベント』『オフラインとの連動』などが、
大きく減少したことがマイナス要因です。
しかし、コロナ渦によりラジコは好調です。ラジコ内での運用型広告も成長しています。
ラジコと『SNSやDOOH』との連動など、魅力的な施策も可能性があります。
2021年度は新たな施策を実行する絶好のタイミングでもあると言えます。
インターネット広告
インターネット広告は2兆2,290億円となり前年比105.9%を達成。
昨年度テレビ広告を抜きましたが、今年度はマス4メディアと同額の規模にまで成長しました。
日本の広告費に占める割合も36%を占めるようになりました
数年以内に50%を占めることになるでしょう。
インターネット広告を牽引しているのは、運用型広告と動画広告です。
運用型広告に関しては、1兆4,558億円まで成長し全体の70%近くを占めています。
今後5Gが普及すると動画広告も急速に増加します。
ECやSNS、動画配信サービスも増えることはあっても減ることはありません。
2021年度も唯一の成長メディアとなるでしょう。
インターネット広告以外のメディアは、『いかにWebと連動させるか?』が
今後売上を上げる施策の中心となります。
マスメディア由来のインターネット広告費
マスメディア関連では、インターネットに関係する広告費は好調です。
比率という点では少額ですが、この分野をいかに成長させるか?がマスメディアのポイントです。
プロモーションメディア関連
新型コロナの影響を最も受けたのが『プロモーションメディア』です。
2020年度の『オリンピック・パラリンピック』に向けて、
銀座などの都内主要駅では、駅の改築によるサイネージメディアの設置や新しいメディアの建設が進みましたが、
全て空振りとなりました。
顕著だったのは、屋外広告及び交通広告のマイナスです。
在宅の増加による外出自粛により、ストレートに影響を受けました。
『ターゲットがのいる場所で広告をする』というのは原則ですので、やむ負えないと言えるでしょう。
近年強気だった交通広告も、緊急事態宣言後は【50%OFFから70%OFF】の安売り企画を繰り返し発表しています。
しかし、倍以上の数量を販売しても売上は前年通り。という施策ですのでマイナス成長となるのは当然です。
また、インバウンドが見込めなくったこと。及び、国内旅行の減少により、
空港関係のメディアは国内線・国際線共に最大級のダメージを受けています。
コロナ前はオリンピックに向けて満枠状態だった国際線は観光客が皆無になりましたので、1日のリーチ数が空港関係者のみ。
という状況も多く見受けられました。
空港に関係する広告は2021年度も厳しい状況が継続するでしょう。
出稿クライアントの申し込み状況では、中長期メディアへの申込を躊躇するクライアントが非常に多かったのと言えます。
緊急事態宣言が、いつ発動されるのか?いつ終了するのか?分からない状況が続きましたので、
リスクのある申込を躊躇するクライアントが多数存在した状況です。
一方で、オリンピックに関係する集客が見込めるエリアでの長期契約メディアはキャンセルも比較的少なく安定していた。と言えます。
オリンピック・パラリンピックに向けて2020年は継続したクライアントも多かったのでしょう。
長期の新メディアとしては、渋谷ハチ公口のQフロントの屋上部分のサイネージにコカ・コーラが
掲出を開始し話題となりました。
しかし、このメディアは目線が高いこと。輝度が低く画像が粗いこと。を考えると完全に失敗作だと言えます。
関係者はわざわざ見ますが、一般の来街者は目線の高いメディアを首を上げてまで見ません。
首を90度上げないと見えない屋外メディアは一般の方は見ないのです。
『屋外広告の特徴は強制視認性です』自然と視界に入る場所。という原理原則を忘れてはいけません。
駅から見える。という環境もありますが、ホームに立ち止まってジックリ屋上看板を見る人もいません。
屋外は『目線の高さ』に設置するべき。という考え方の大切さが改めて実感できるメディアです。
また、2019年度最も注目された【タクシー広告】に関しては2020年度も好調だったと言えます。
外出自粛によりタクシーの乗客も大きく減少しましたが、タクシー広告の特徴である『インプレッション』を活かし
『インプレッション課金』を取り入れたことがクライアント離れを防いだ要因です。
屋外広告でもインプレッションという考え方が増えてきましたが、タクシーという小さな空間でのインプレッション
はクライアントに伝わりやすかった。と言えます。
2021年度もスタートは好調となっています。
日本の広告費2020年度のポイント
日本の広告費2020年のポイントは、新型コロナに尽きます。
新型コロナという新しい生活様式の中で、広告メディアはどうなるのか?どのメディアが支持されるのか?
2021年度に向けてどのような施策を構築していくのか?
今後を占う上でポイントとなる年度でした。
結果として、新しい生活様式の中でも支持されているるのは『インターネット広告』であることが証明されました。
『インターネット広告』以外のメディアは、いかにインターネットを活用するのか?どう連動させるのか?
どのような施策がクライアントから支持されるのか?
試行錯誤を繰り返し、チャレンジすることが成功への唯一の施策となります。
これはチャンスでもあるのです。
多くの方が新しいことにチャレンジしないのが世の中ですので、
インターネットを活用した新しい仕組みつくりを1日も早く完成させることができれば、
2021年度は大きな成長を達成する年になります。
日々の試行錯誤が成功への近道です。
失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返す勇気のある企業にとってはチャンスなのかもしれません。
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