減収以上に深刻な新聞社の「構造問題」
新聞社の経営が厳しい—。
その言葉は、もはやニュースですらなくなりました。しかし本当に問うべきなのは、「苦しいかどうか」ではありません。
この構造のままで、あと何年“持つのか”です。
新聞社の“足かせ”固定費という構造的な問題
今、新聞社を本当に苦しめているのは、“固定費”です。
印刷機は止められない、人件費は簡単に削れない、流通網は全国規模で維持しなければならない・・・そんな中で、売上だけがじわじわと減っていく・・・まさに「構造的に縮小に耐えられない」モデルになってしまっているのです。
では、このままの状態で、新聞社はあと何年持つのでしょうか?
本記事では、過去10年の売上推移と新聞社の固定費構造をもとに、将来の財務シミュレーションを行い、新聞社の「限界タイミング」と、乗り越えるために必要な視点を考えます。
1.売上推移から見る「縮小の現実」
以下は、2014年から2023年までの新聞社全体の総売上高(日本新聞協会加盟社ベース)です。
- 2014年:1兆9,000億円
- 2023年:1兆3,265億円
10年間で、実に約30%の減収。年平均成長率(CAGR)にすると–3.6%という数字です。
このまま同じペースで10年後も売上が減少すると仮定した場合の予測がこちらです↓
| 年度 | 売上高(億円) |
|---|---|
| 2014年 | 19,000 |
| 2015年 | 18,261 |
| 2016年 | 17,906 |
| 2017年 | 17,678 |
| 2018年 | 17,119 |
| 2019年 | 16,625 |
| 2020年 | 16,524 |
| 2021年 | 14,827 |
| 2022年 | 14,695 |
| 2023年 | 13,265 |
| 2024年 | 12,785 |
| 2025年 | 12,325 |
| 2026年 | 11,886 |
| 2027年 | 11,466 |
| 2028年 | 11,065 |
| 2029年 | 10,681 |
| 2030年 | 10,314 |
| 2031年 | 9,963 |
| 2032年 | 9,628 |
| 2033年 | 9,308 |
※本シミュレーションは、日本新聞協会加盟社の平均値をもとにした業界モデルであり、各社の規模・不動産収益・人員構成によって実際の数値には差があります。
※2030年頃には「1兆円ライン」を割り込み、2033年には9,000億円を割る可能性も。
つまり、あと10年足らずで新聞業界全体の売上は半減に近づく可能性があるというインパクトのある未来が待っているのです(※現状のペースが維持されるという前提ですが、実際には減少スピードが加速すると考えるのが自然です。そうなればさらに深刻な縮小が進むリスクも否定できません)。
2. 固定費83%の構造──なぜ縮小に耐えられないのか?
新聞社のコスト構造は非常に特殊です。大きなポイントは「固定費」の高さです。
内訳は以下のとおりです(2023年平均):
| 費用項目 | 割合(2023年平均) |
|---|---|
| 人件費 | 約27% |
| 印刷・流通など経費 | 約57% |
| 用紙・資材等の変動費 | 約14% |
| その他 | 約2% |
なんと全体の83%以上が固定費に該当します。

売上が下がっても、印刷機を止めるわけにもいかず、配達ルートも変えられない・・・つまり「コストが変動しにくい」ため、売上が減るとそのまま利益が減ってしまうという構造なのです。
3. 財務シミュレーション:いつ赤字転落するか?
では、仮にこの売上減少が今後も続くとした場合、いつ赤字になるのでしょうか?
以下のような前提でシミュレーションを行いました:
- 売上:年-3.6%ずつ減少
- 固定費:現状維持(圧縮なし)
- 利益率:2023年時点で5%の黒字を仮定
| 年度 | 売上高(億円) | 固定費 | 変動費 | 営業利益 | 利益率(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年 | 13,265 | 11,009.9 | 2,255.1 | 663.0 | 5.0% |
| 2024年 | 12,785 | 11,009.9 | 2,173.5 | -398.4 | -3.1% |
| 2025年 | 12,325 | 11,009.9 | 2,095.3 | -780.2 | -6.3% |
| 2026年 | 11,886 | 11,009.9 | 2,020.6 | -1,144.6 | -9.6% |
| 2027年 | 11,466 | 11,009.9 | 1,949.2 | -1,493.2 | -13.0% |
| 2028年 | 11,065 | 11,009.9 | 1,880.8 | -1,825.7 | -16.5% |
| 2029年 | 10,681 | 11,009.9 | 1,815.1 | -2,143.9 | -20.1% |
| 2030年 | 10,314 | 11,009.9 | 1,751.9 | -2,447.8 | -23.7% |
| 2031年 | 9,963 | 11,009.9 | 1,691.1 | -2,737.9 | -27.5% |
| 2032年 | 9,628 | 11,009.9 | 1,632.4 | -3,014.3 | -31.3% |
| 2033年 | 9,308 | 11,009.9 | 1,575.8 | -3,277.7 | -35.2% |
見てのとおり、2024年には赤字に転落するシナリオとなっており(※2024年は執筆時点で通期決算未確定のため、あくまで過去データに基づく平均的な試算です)2027年〜2028年には損失が1000億円を超える水準にまで拡大する計算です。
実際には、すでに新聞事業単体では赤字となっている企業も多く、現状は不動産業やイベント事業、投資収益などの別事業によって全体の黒字を支えているという構造です。
上記、シミュレーションが示すのは、未来の可能性ではなく、すでに始まっている構造的な終わりの過程だと言えます。新聞の売上が下がり続けることは確実です。つまり「いつ赤字になるか」ではなく、「本業をどこで見切るか」そして、「固定費の圧縮をいつ始めるか」が問われる時代に入っってきたといえるかもしれません。

そして、大幅な人件費の削減は避けては通れないことも容易に判断できます。
4. なぜ変われないのか?──構造的しがらみ
これだけの悲観的な数字が並んでいるにも関わらず、なぜ新聞社から大胆な構造改革や事業モデル転換の声があまり聞こえてこないのでしょうか?
その理由は、新聞社がすぐに身軽になれない「構造的なしがらみ」の存在にあります。
- 労働組合の影響で人件費カットが難しい
- 印刷所の統廃合には時間と政治的調整が必要
- 配達網は地域社会とのつながりが強く、容易に手放せない
- デジタル化は進んでいるが、収益モデルの確立には至らない
このように「変わらなければ」と分かっていながら、動けない・・・それが今の新聞社の現実です。
5. では、あと何年で変えるべきか?
財務的な“持続可能性”を考えるなら、2028年頃までには構造転換を完了している必要があるでしょう。
残された時間は、おそらくあと3年程度です(※2028年までに構造改革が完了していることが理想とされるため、2025年時点から逆算しています)
2028年には新たなモデルが“機能している状態”が求められると想定すると、そのためには、少なくとも2026年中には本格的な改革に着手していなければならないという計算になります。
準備と移行には時間がかかるからこそ、残された時間は本当に限られているのです。その間に、以下のような取り組みを進めなければなりません:
- 紙の発行部数の圧縮と配達エリアの見直し
- 有料デジタル会員の獲得と単価アップ
- 行政・教育・企業向け情報活用の新サービス展開
- 「収入源の多層化」──紙・デジタル・BtoBの三本柱モデルの確立
- 新聞販売店の新規ビジネスモデルの構築
これらを実現できなければ、撤退や再編の波は避けられないでしょう。
「新聞社の終わり」ではなく「新聞的価値の再構築」へ
大切なのは、「新聞社が終わる」かどうかではありません。
新聞というメディアには、今でも“社会の知的インフラ”としての価値があります。ただし、それを紙で、かつ高コスト構造のままで届けようとするのは、もう限界にきているということです。
これから求められるのは、「新聞的価値」を、どう再定義するか?です。新聞社は、“紙を刷る会社”から、一刻も早く構造改革をしなければいけません。
そのためには残された時間は、もう多くはないことは明白です。
ここまで見てきたように、固定費を削らなければ2030年の新聞社は極めて厳しい状況に陥ります。では逆に、固定費を本気で削った場合でも、新聞社は生き残れるのでしょうか?
次の記事では、固定費削減を前提とした3つのシナリオで、その現実を数字で検証します。
👉続編:新聞社は2030年を越えられるのか? 固定費削減シナリオが示す“延命の限界”
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