前回(第1話)では、ニュースポータルサイトが自前の取材網を持たず、新聞社という「外部の工場」に構造的に依存せざるを得ない経営論理と、その供給網が崩壊しかけている現状を検証しました。今回は、この危機に対して世界がどう動いているのか、海外の先行事例を調査・検証した結果を検証します。
世界で同時進行する三つの極端なシナリオ
- 「支える」:法による強制的な利益還元:欧州やオーストラリアでは法整備が進み、プラットフォーム側に記事利用の対価支払いを義務付ける動きが定着しています。例えばオーストラリアでは2021年に「ニュースメディア交渉コード」を施行し、対価交渉の義務化と決裂時の強制仲裁を導入しました。欧州(EU)でも著作権指令により報道機関の「隣接権」を認め、記事の抜粋表示に対しても報酬を求める権利を確立しています。これにより、実際に数億ドル規模の資金が報道機関へ還元される実例が生まれています。
- 「距離を置く」:報道からの戦略的撤退:一方で、メタ(旧フェイスブック)のように「ニュースはコストの割にユーザー満足度に寄与しない」と判断し、ニュース機能を縮小させるプラットフォームも現れました。「信じられる情報よりも、楽しい情報」を選ぶ、ある種の冷徹な市場判断です。
- 「資本統合」:IT長者やファンドによる救済:米国では、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏によるワシントン・ポストの買収のように、IT資本が直接新聞社を保有するケースが増えています。「経営はITのスピードで、編集はジャーナリズムの誇りで」という明確な役割分担の成否が、存続のカギを握っています。
日本に与えられた「最後の猶予期間」
海外の事例が示すのは、「放置すれば、選択肢は極端な二択に絞られる」という冷酷な現実です。日本においては、大手紙にはまだ一定の基盤がありますが、独自の視点を持つ準大手紙や地域紙から先に体力が奪われている現状は、情報の多様性を確実に削いでいます。
記者クラブ制度に依存しがちな大手報道だけが残り、地域や専門分野の「草の根の監視」が消えること。それはポータルサイトにとって、コンテンツの魅力と信頼性を失う致命的な衰退への道です。
私たちは今、海外の動向を鏡として、「日本型の共生モデル」を設計できる最後の猶予期間に立っているのです。
問われているのは「覚悟の所在」
海外事例を俯瞰すると、浮かび上がる課題はシンプルです。
プラットフォームは報道を「守る価値のある基盤」と考えるのか、それとも「割に合わないコンテンツ」と切り捨てるのか。
そして新聞社側もまた、完全な独立に固執するのか、それとも形を変えてでも取材機能を残すのか、という選択を迫られています。
日本はまだ、先行する諸国の成功と失敗を材料にして、自律的な共存の形を模索できる段階にあります。次回の完結編では、日本ならではのメディア環境に即した具体的な「設計図」を提案します。
【シリーズ導線】
- 前話: 第1話:ポータルサイトが「自前の取材網」を持たない理由
- 次話: 第3話:新聞社が「買われる側」になる未来と、共存の“道”
- この連載で扱っている問い: プラットフォームは報道を「守る価値のある基盤」と考えるのか、それとも切り捨てるのか。
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