ラジオは「オワコン」じゃなかった!東京ドーム5万人熱狂の裏で起きていた“音声メディアの逆襲”

マスメディア研究・分析

「ラジオって、もうオワコンでしょ?」

少し前まで、そんな声が聞こえてくるのが当たり前でした。テレビや新聞と同じように、インターネットの波に飲まれていく古いメディア。多くの人がそう思っていたはずです。

しかし、2024年2月。あるラジオ番組のイベントが、5万3000席の東京ドームを超満員にしました。これは単なる一発のヒットではありません。これは、ラジオを中心とする“音声メディアの逆襲”が可視化された瞬間でした。

本日は、このイベントから見える「ラジオの新しい現実」を、詳細なレポートを基に考えていきます。

これは、単なる一時的な出来事ではなく、音声メディアの未来を占う大きな出来事なのです。

 

ラジオを起点に:東京ドームを満員にした夜!

まず、この歴史的なイベントが何だったのかを紹介します。

主役は、ニッポン放送で毎週土曜深夜に放送されている『オードリーのオールナイトニッポン』お笑いコンビのオードリーがパーソナリティを務め、15年以上にわたって放送されている長寿番組です。この番組は、パーソナリティとリスナーの間に強い絆があることで有名です。

その集大成として開催されたのが『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』と言われています。

  • 会場動員数: 5万3,000人(チケットは即日完売)
  • 総動員数: なんと16万(全国の映画館でのライブビューイングとオンライン配信を含む)
  • ギネス世界記録™認定: 「ハイブリッドビューイングで行われたコメディショーのチケット販売数の最多記録」として、世界にも認められる快挙を成し遂げました。

この成功は偶然ではありません。

「リスナーが主役」というコンセプトのもと、準備段階からYouTubeでドキュメンタリーを配信するなど、リスナーを「観客」から「イベントを共に創り上げる当事者」へと変える緻密な戦略があったと思われます。

ではなぜ、一つのラジオ番組がこれほどの熱狂を生み出せたのでしょうか?その答えは、ラジオ市場そのものに起きていた大きな変化に隠されています。

 

1. ラジオの「復活」は、実は“2つの市場”への分裂だった

「ラジオの人気がV字回復!」と聞くと、昔のように誰もがカーラジオで音楽を聴く光景を想像するかもしれません。しかし、現実はもっと複雑です。

今のラジオ市場は、大きく2つに“分岐”しています。

 

① 鉄壁のロイヤリティを誇る「レガシー市場」

リスナーの数は緩やかに減少していますが、その中心は40代以上のビーリスナーたちです。彼らの一日の平均聴取時間は、週平均から換算すると、1日あたり約1時間36分にも及びます。

これは、何かをしながら聴く「ながら聴き」が中心の音声メディアならではの深いエンゲージメントを示しています。彼らは、ラジオを単なる情報源ではなく、生活の一部として愛する強力な支持層です。

② 若者が殺到する「デジタルフロンティア市場」

そして、もう一方では全く新しい市場が急速にしています。

その主役が、スマホアプリの「radiko(ラジコ)」「ポッドキャスト」

特に10代〜20代の若者たちは、旧来のラジオ

受信機ではなく、スマホで「好きな時に、好きな番組を聴く」スタイルに夢中になっています。10代のラジオ離れが深刻と言われたのは過去の話。今や、15歳〜19歳の34%がポッドキャストを聴く時代なのです。

つまり、今のラジオは「高齢層に支えられる盤石な放送」と「若者が牽引するデジタルオーディオ」という、二つの顔を持つハイブリッドなメディアに進化したのです。

 

2. なぜ若者は音声メディアに戻ってきたのか? 鍵は「テクノロジー」と「推し」

この地殻変動を引き起こした原動力は何だったのでしょうか。答えは2つ考えられます。

それは、「テクノロジーの進化」と「コミュニティの熱狂」です。

 

テクノロジーが解放した「聴き方」の自由

かつてラジオ最大の弱点は、「放送時間に聴かなければいけない」という時間的制約でした。

しかし、radikoの「タイムフリー機能」がこの状況から解放させます。

「聴き逃し配信」が当たり前になったことで、リスナーは自分の生活スタイルに合わせて、通勤中や家事をしながら、好きな番組を好きな時に楽しめるようになりました。

さらに、ポッドキャストの台頭が決定打となります。

これはまさに「音声版のNetflix」なのです。

いつでもどこでも、膨大なコンテンツから自分の好みを選んで聴ける「プル型」の体験は、タイムパフォーマンスを重視するZ世代のニーズに完璧に合致したのです。

 

パーソナリティは、もはや「推し」である

テクノロジーが「聴き方」を変えた一方で、コンテンツの核心にある魅力は、より人間的な部分にありました。それは、パーソナリティとリスナーとの間に生まれる親密さです。

テレビの中のタレントがどこか遠い存在に感じるのとは対照的に、ラジオのパーソナリティは、リスナーと同じ目線で語りかけ、本音をさらけ出します。その結果、リスナーはパーソナリティを「自分と同じ地続きの存在」と感じ、強い共感を抱くようになります。

この関係性は、やがて番組を中心に強いコミュニティを形成します。彼らは単なる聴取者ではなく、番組を共に創り上げる当事者になるのです。

あるプロデューサーが「毎晩全国ネットでオフ会をしている感覚」と語ったように、ラジオは孤独な個人を繋ぐ巨大な共同体を生み出す装置となりました。

 

3. 東京ドーム満員は必然だった。「コミュニティ」を収益化する新戦略

そして、この熱狂的なコミュニティの力が、再び東京ドームの話に繋がります。

『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』は、単なる番組イベントではありませんでした。それは、目に見えないコミュニティの熱量を、チケット売上という具体的で莫大な収益に転換するという、ラジオの新たなビジネスモデルを証明した一大プロジェクトだったのです。

ラジオ番組という一つの知的財産(IP)が、広告収入だけに頼らず、ファンからの直接課金(D2C)で巨大な収益を生み出せることを示しました。

 

このビジネスモデルは、今後の大きな収入の柱になっていきます。協賛企業を広げたり様々な展開が考えられるでしょう!

 

まとめ:ラジオは、マスメディア「最後の希望」かもしれない

新聞の発行部数が20年で半減し、テレビがグローバルな動画サービスとの競争に喘ぐ中、ラジオの状況は健全と言えます。

  • 伝統的な広告費は安定
  • デジタル広告費は前年比121%と急成長
  • イベントやグッズ販売という新たな収益の柱を確立

数十年前まで、ラジオはマスメディアの中で最も注目されていなかったメディアでした。

しかし、ラジオの現在の状況は、一つの重要な事実を教えてくれます。

それは、メディアの未来が、テクノロジーを駆使してオーディエンスとの深い関係性を築き、その強い関係性を多様な形で収益に変える「コミュニティ中心モデル」にかかっているということです。

今後もラジオは要注目メディアです!