デジタル広告費削減は進むのか?P&G事例から考える広告費最適化の現在地

マスメディア・広告媒体

デジタル広告費は、これから削減されていくのでしょうか。

数年前、P&Gやユニリーバといった世界的な大手広告主が、デジタル広告費の見直しを進めたことが広告業界で話題になりました。

当時は、「大手広告主がネット広告から離れ始めた」「テレビやオフライン広告に予算が戻るのではないか」といった見方もありました。

しかし、2026年の現在から振り返ると、この問題は単純な「デジタル広告費削減」の話ではありません。むしろ、広告費をどこに、どのように、どれだけ透明性を持って使うべきかという、広告費最適化の問題だったと考えるべきです。

この記事の結論

デジタル広告費は「削減すればよい」ものではありません。

重要なのは、無駄な配信、不透明な取引、アドフラウド、低品質な掲載面、ブランドを傷つける広告環境を減らし、本当に成果につながる広告費へ組み替えることです。

これからの広告主と広告代理店に必要なのは、広告費削減ではなく、広告費の質を高める視点です。

デジタル広告費は本当に削減されているのか

まず、現在の広告市場を確認しておく必要があります。

日本の広告市場では、インターネット広告費は現在も成長を続けています。

2025年の日本のインターネット広告費は4兆459億円となり、総広告費に占める構成比は50.2%に達しました。

つまり、広告市場全体で見ると、デジタル広告費が大きく削減されているわけではありません。

むしろ、広告市場の中心は明確にインターネット広告へ移っています。

項目 2025年の状況 読み解き方
総広告費 8兆623億円 日本の広告市場全体は拡大基調
インターネット広告費 4兆459億円 初めて4兆円を突破
インターネット広告の構成比 50.2% 総広告費の過半数を占める
主な成長領域 動画広告、SNS広告、コネクテッドTV、EC関連広告 デジタル広告は依然として成長領域

したがって、この記事で考えるべきテーマは「デジタル広告費が減るかどうか」ではありません。

重要なのは、増え続けるデジタル広告費の中に、どれだけ無駄や不透明な部分があるのかという点です。

P&Gのデジタル広告費削減は何を意味していたのか

かつてP&Gは、デジタル広告の透明性や広告効果に強い問題意識を示し、広告費の見直しを行いました。

このニュースは、当時の広告業界に大きなインパクトを与えました。

世界最大級の広告主が、デジタル広告費を見直したからです。

ただし、ここで注意すべきなのは、P&Gが「デジタル広告は不要」と判断したわけではないということです。

P&G事例の本質

P&Gが問題視したのは、デジタル広告そのものではなく、広告が本当に見られているのか、適切な場所に表示されているのか、無駄な中間コストが多すぎないか、広告主に十分な透明性があるのかという点でした。

つまり、P&Gの事例は「ネット広告離れ」というより、デジタル広告の品質管理を広告主が本気で求め始めた象徴的な出来事だったと考えるべきです。

この問題意識は、現在もまったく古くなっていません。

むしろ、アドフラウド、ブランドセーフティ、MFAサイト、詐欺広告、AIによる自動配信のブラックボックス化などに形を変えて、より複雑になっています。

広告費削減と広告費最適化は違う

広告費を削減することと、広告費を最適化することは違います。

広告費削減とは、単純に広告予算を減らすことです。もちろん、業績悪化や緊急時には必要な判断になることもあります。

しかし、広告費を削るだけでは、将来の売上、認知、ブランド、指名検索、見込み客獲得まで弱くしてしまう可能性があります。

考え方 内容 注意点
広告費削減 広告予算そのものを減らす 短期的なコスト削減にはなるが、将来の売上機会を失う可能性がある
広告費最適化 無駄な配信や低品質な施策を減らし、成果につながる施策へ再配分する 媒体ごとの役割と効果を整理する必要がある
広告品質改善 掲載面、表現、ターゲティング、ブランドセーフティを見直す 単なるCPA改善だけでは不十分

これから重要になるのは、広告費を減らすことではなく、広告費の中身を見直すことです。

デジタル広告で無駄が生まれやすい理由

デジタル広告は、非常に便利な広告手法です。

少額から始められ、配信も早く、クリック数やコンバージョン数も確認できます。

広告主にとって、これほど扱いやすい広告手法はありません。

しかし、便利である一方で、無駄が見えにくいという問題もあります。

デジタル広告で無駄が生まれやすいポイント

  • 表示されたが、実際には見られていない広告
  • 人間ではないアクセスや不正クリック
  • ブランドに合わない低品質な掲載面
  • 広告収益だけを目的に作られた低品質サイトへの配信
  • 短期CVだけを追い、ブランド価値を下げる配信
  • 過度なリターゲティングによる生活者の不快感
  • 似たようなターゲットに何度も重複して配信される広告
  • 広告代理店やプラットフォーム側の説明が不十分な運用

デジタル広告の問題は、広告費が使われていること自体ではなく、その広告費が本当に有効な接触に使われているかどうかが分かりにくい点にあります。

アドフラウドと無効トラフィックの問題

デジタル広告費の無駄を考えるうえで、アドフラウドと無効トラフィックは避けて通れません。

アドフラウドとは、広告表示やクリック、コンバージョンなどを不正に発生させ、広告費をだまし取る行為です。無効トラフィックとは、広告主にとって有効な接触とはいえないアクセスや表示のことです。

デジタル広告では、数値が細かく見えるため、広告主は安心しがちです。しかし、その数値の中身が本当に有効なのかを確認しなければ、広告費を無駄にしている可能性があります。

広告主が確認すべき視点

  • 表示回数は本当に人間に対する表示なのか
  • クリックは意図あるクリックなのか
  • コンバージョンの質は高いのか
  • 不自然に安い成果が出ていないか
  • 配信先のサイトやアプリは信頼できるのか

広告費を削減する前に、まずは広告費がどこで、どのように使われているのかを可視化する必要があります。

ブランドセーフティは広告費最適化の中心テーマになる

ブランドセーフティとは、広告主のブランド価値を傷つけるような場所に広告が表示されないようにする考え方です。

どれだけCPAが安くても、広告が詐欺的なサイト、過激なコンテンツ、誹謗中傷の多いページ、低品質なまとめサイトなどに表示されていれば、広告主のブランドは傷つきます。

この点は、広告費削減の議論では見落とされがちです。

安い広告が、必ずしも良い広告とは限らない

広告費を下げることだけを目的にすると、低品質な配信面に広告が流れたり、短期的に反応しやすいがブランドに合わない層に配信されたりすることがあります。広告費の最適化では、安さではなく、広告が出る環境の質を見る必要があります。

広告主にとって重要なのは、単に広告費を下げることではありません。

広告がどのような文脈で見られ、ブランドにどのような印象を与えるのかまで確認することです。

インターネット広告への信頼低下も見逃せない

近年、インターネット広告に対する生活者の目は厳しくなっています。

詐欺広告、有名人のなりすまし広告、過度な煽り広告、しつこいリターゲティング広告、不快な動画広告などが増えると、生活者は広告全体に不信感を持つようになります。

これは、広告主にとって深刻な問題です。

生活者側の不満 広告主への影響 対策
広告がしつこい ブランドへの不快感 フリークエンシー管理、配信設計の見直し
広告が怪しい 広告主への信頼低下 誠実な表現、明確な広告表示、審査強化
広告が邪魔 広告回避、ブロック、離脱 ユーザー体験を損なわない配信面の選定
広告内容が信用できない 購入・問い合わせの減少 根拠のある訴求、誇大表現の回避

広告費を最適化するには、媒体効率だけでなく、生活者からどう見られているかを考える必要があります。

広告費を見直すときに削ってはいけないもの

広告費を見直すとき、単純に成果が見えにくい施策から削りたくなることがあります。

しかし、それは危険です。

広告には、短期で成果が見えるものと、長期で効いてくるものがあります。

安易に削ると危険な広告費

  • ブランド認知を作る広告
  • 指名検索を増やす広告
  • 比較検討層を育てるコンテンツ
  • 既存顧客との関係維持施策
  • 店頭や営業活動を支える広告
  • 採用や企業信頼に関わる広告

逆に、見直すべきなのは、数字は出ているように見えても事業成果につながっていない広告です。

見直すべき広告費はどこか

広告費を最適化する場合、まず見直すべきなのは次のような領域です。

  1. 配信先が不透明な広告
    どこに広告が出ているか説明できない運用は、ブランドリスクを抱えています。
  2. 成果の質が低い広告
    CPAは安くても、継続率や購入単価が低い場合は、本当の成果とは言えません。
  3. 重複配信が多い広告
    同じユーザーに過度に広告が出ている場合、広告費の無駄だけでなく不快感も生まれます。
  4. 広告表現が強すぎる広告
    短期的にクリックを取れても、ブランドへの信頼を損なう可能性があります。
  5. 媒体ごとの役割が曖昧な広告
    検索、SNS、動画、OOH、店頭施策の役割が整理されていないと、予算配分が不適切になります。

広告費の見直しは、媒体費の削減表を作ることではありません。広告主の事業成果に貢献している広告と、そうでない広告を見極める作業です。

デジタル広告からオフライン広告へ予算は戻るのか

P&Gのような事例が出ると、「デジタル広告からテレビや屋外広告、交通広告へ予算が戻るのではないか」と考えたくなります。

実際、近年はOOH、交通広告、イベント、店頭販促、リテールメディアなど、リアル接点の価値が再評価されています。

ただし、単純に「デジタルからオフラインへ戻る」と考えるのは違います。

これからの広告予算配分

これから重要になるのは、デジタルかオフラインかではありません。認知を作る媒体、理解を深める媒体、比較検討を支える媒体、購買を後押しする媒体、継続接触する媒体を、目的別に組み合わせることです。

つまり、デジタル広告費を削ってオフライン広告へ戻すのではなく、デジタルとオフラインの役割を再設計する必要があります。

広告代理店に求められる役割

広告費最適化の時代に、広告代理店の役割も変わります。

以前であれば、広告代理店は媒体を提案し、広告枠を手配し、運用し、レポートを提出することが主な役割でした。

しかし、現在はそれだけでは足りません。

これからの広告代理店に必要な機能

  • 広告費の使い道を可視化する
  • 配信面の品質を確認する
  • アドフラウドや無効トラフィックのリスクを説明する
  • ブランドセーフティを担保する
  • 短期CPAだけでなく、認知・信頼・LTVまで整理する
  • デジタルとオフラインを組み合わせた予算配分を提案する
  • 広告主にとって削るべき広告費と、守るべき広告費を分ける

広告代理店は、単なる出稿代行ではなく、広告主の広告費を守るパートナーになる必要があります。

広告主が確認すべきチェックリスト

広告費を見直すときは、単に媒体別の金額を見るだけでは不十分です。

次のような項目を確認することで、広告費削減ではなく広告費最適化に近づきます。

  • 広告の目的は明確か
  • 媒体ごとの役割は整理されているか
  • 配信先の品質は確認できているか
  • アドフラウド対策はできているか
  • ブランドセーフティは担保されているか
  • 広告表現は誠実か
  • 短期CPAだけで評価していないか
  • 指名検索や認知への影響も見ているか
  • 広告接触後の受け皿は整っているか
  • 広告代理店から十分な説明を受けているか

このチェックを行うだけでも、単なる広告費削減ではなく、事業成果に近い広告費の見直しがしやすくなります。

中小企業こそ広告費の見直しが重要になる

広告費最適化は、大企業だけの話ではありません。

むしろ、広告予算が限られている中小企業ほど、広告費の使い方を丁寧に見直す必要があります。

限られた予算で、検索広告、SNS広告、動画広告、チラシ、OOH、イベント、店頭販促などをすべて実施することはできません。

中小企業が考えるべきこと

  1. まず売上につながる導線を整える
  2. 検索される受け皿を作る
  3. 地域や顧客層に合った媒体を選ぶ
  4. 短期獲得と信頼形成を分けて考える
  5. 広告代理店に任せきりにせず、目的と成果を確認する

中小企業の場合、広告費を増やすことよりも、まずは広告費の漏れを減らし、効果が見えやすい導線を作ることが重要です。

今後の広告費はどう変わるのか

今後もデジタル広告費は、広告市場の中心であり続ける可能性が高いです。

動画広告、SNS広告、コネクテッドTV、リテールメディア、EC広告、AI広告などは、引き続き成長領域です。

ただし、単にデジタル広告費が増える時代から、広告費の質が問われる時代へ移っていきます。

これまで これから 理由
広告費を増やす 広告費を選別する 無駄な配信や低品質な接触を減らす必要がある
CPAで判断する CPA、LTV、ブランド価値で判断する 短期獲得だけでは事業成長を説明できない
配信量を重視する 掲載環境を重視する ブランドセーフティの重要性が高まる
媒体ごとに考える 顧客導線全体で考える 生活者はオンラインとオフラインを分けて行動しない

広告費削減の議論は、今後ますます増えるはずです。

ただし、本当に必要なのは予算を切ることではなく、広告費の配分を見直すことです。

まとめ:デジタル広告費削減ではなく、広告費の質を見直す時代へ

P&Gのデジタル広告費削減事例は、今振り返っても重要な出来事です。

ただし、その意味を「デジタル広告がダメだから削減した」と捉えるのは、少し単純すぎます。

本質は、広告主がデジタル広告の透明性、配信面の品質、広告費の無駄、アドフラウド、ブランドセーフティに本気で向き合い始めたということです。

現在の広告市場では、インターネット広告費は大きく成長しています。

だからこそ、広告費の中身を見直す必要があります。

これからの正しい見方

デジタル広告費削減は、単なるコストカットではなく、広告費の質を見直すきっかけとして考えるべきです。削るべきなのは広告費そのものではなく、無駄な配信、不透明な取引、ブランドを傷つける広告環境です。

広告主も広告代理店も、これからは「いくら使ったか」ではなく、「どのような接点で、どのような成果と信頼を作れたか」を問われる時代に入っています。

広田 誠一