テレビ広告の知識

テレビCM制作の流れ

テレビCMが放映されるまで

広告代理店にとって“花形の仕事”といえば『テレビCM』です。

そして、その多くは「大手広告代理店」によって制作されています。
90%以上のテレビCMは、電通、博報堂、アサツー・ディ・ケイの3社を中心に上位の数社で制作されていると思って間違いありません。

 

ということで、中小広告代理店に勤務の方はその制作過程を知りません。
今日は、『テレビCM』はどのような流れで制作されていくのか、一般的な流れを説明いたします。

 

『テレビCM』制作の全体像

最初に全体の基本的な流れをお伝えします。
テレビCMは広告主から発注があって制作が開始されます(当たり前です)

まずは、広告主から新商品などのキャンペーンについて、
広告代理店に対してオリエンテーション(キャンペーンについての説明)があります。

このオリエンテーションの内容に基づいて広告代理店はプレゼンテーションを実施します。

普通は数社の競合プレゼンになります。
プレゼンテーションに通った広告代理店が『テレビCM』制作の権利を取得することになります。

権利を取得したら、プレゼンの内容の実現に向けて作業を開始します。
最初のプレゼン時はプレゼンが通るか未定ですので、仮定の内容が含まれています。

提案したタレント案も「候補」です。
出演の契約をしている訳でもありません。撮影場所も「候補」です。
いくつかの「候補」の中から、最終決定版を決める作業からはじまります。

 

  1. プレゼン内容に基づき最終コンセプトの決定
  2. 最終コンセプトを説明
  3. 予算、タレント、撮影場所などの了解を得る
  4. 撮影準備(タレントとの契約、撮影場所の許可関係、関係スタッフ集め)
  5. 撮影開始
  6. 仮のCMを制作(オフライン編集)
  7. 仮のCMにてプレゼン
  8. 了解を得る
  9. 完成版を編集
  10. 完成版を最終確認(これで放映しますね。という確認レベル)
  11. 『テレビCM』放映

というのが基本的な流れです。
撮影準備から撮影、そして完成まで膨大な作業量が必要なのが『テレビCM』の制作です。

 

では、より具体的に説明してみましょう。

 

①作業開始!

プレゼンに勝てばいよいよ制作開始です。
プレゼンした内容に基づき制作に入ります。
プレゼン時にはタレント案、撮影場所を複数提案している方が多いでしょう。
それを1本に絞り実現していくことになります。

北川景子、石原さとみ、菜々緒を提案していたのであれば、
誰にしたいのか?広告主と話し合いながら決定していくのです。

タレントが確定すればスタイリスト、ヘアメイクが確定します。
撮影場所が決まれば現地スタッフの手配も必要です。

タレントとの契約も締結しなければいけません(テレビCMはどこで放映するのか?その期間はいつまでなのか?競合他社排除など)

このような作業だけでも、多くの日数が必要になります。

広告主が提供番組を持っているのであれば、その兼ね合いも考えながら進めなければいけません。

 

②企画コンテ制作

タレンとの契約が進み撮影場所が決定したら、テレビCMの最終決定版はどのような内容になるのか?
広告主に再度説明しなければいけません。
決定した内容を実現すると、どのようになるのか?プレゼン時のイメージ説明と違い、
より具体的な説明が求められます。

聞いたことがあると思いますがプレゼン時は『絵コンテ』にて説明しています
(4コマ漫画のような感じです。今は、パソコンで簡単に映像が作れますので、映像で説明する機会も増えています)

決定したタレントや撮影場所を入れて『絵コンテ』をより具体的な内容にしていくのです。

 

 

③プレゼンテーション

制作を開始する為には、広告主に説明をして了解を得なければいけません。
今度は競合プレゼンではなく完成版に関するプレゼンを実施します。

 

営業が中心となり、CMプランナー、コピーライター、音楽プロデューサーなどと協力しながら説明します。
非常に大切な場ですので、広告主も決定権のある人が出席するのが普通です。

撮影場所はどこで、タレントは誰で、撮影日程はいつで、最終予算はいくらで。と確定版をプレゼンするのです。

プレゼン時と大きく内容が異なってはいけません。
「実現できない内容をプレゼンしたのですか!」となっては大変ですね。
まだまだ気が抜けない段階です。

 

 

④制作開始

無事にプレゼンが通って了解を得られればいよいよ制作に入ります。
ミスの無い様内容に粛々と作業しなければいけません。

 

この段階で、初めて全てが確定しますので、
タレント側とも最終契約を締結することになるでしょう。

②の確認作業の段階で、しっかりと裏を取っておかないと、この段階でタレントNGなんてこともあったりします。

「まだ契約前だったので競合他社と契約しちゃいましたよ」なんてなったら大変です(想像しただけでゾッとしますね)

このあたりは、ノウハウと経験が重要です。
大手広告代理店や経験豊富な制作会社でないと仕切れません。タレント事務所との強い関係も必要です。

多くのテレビCMが大手広告代理店によって製作されている理由もこのあたりにあります。

豊富な経験とノウハウと経験を持つ制作会社を知っているのも大手広告代理店の重要な財産です。

大手広告代理店による『テレビCM』の制作は高額です。
しかし、そこには多くのノウハウ代が含まれていると解釈すれば決して高額ではないのです。

『テレビCM』の完成までは、制作会社、ディレクター、撮影スタッフ、スタイリスト、ヘアメイク、美術関係など、関係者とのミーティングは相当回数必要になります。
また、広告主に対する確認作業も同時に進行しなければいけません。

電通の“ブラック”問題が話題になっていますが、納品期限までに完成させる為には“残業なし”などと言っている場合ではありません。

大きなプレゼンが通ると仕事量が増えるのは広告代理店の宿命です。

 

⑤プレゼン(最終確認)

 

④の内容に基づき最終的なプレゼンを実施します。
「またプレゼン?」とちょっとややこしいですが、プレゼンは1回だけでなく数回実施しながら進行します。
広告主の担当者と打ち合わせをしながら大きな説明の機会が必要な時はプレゼンを実施するのです。

④のタイミングで決定した内容を報告します。
タレントとの契約内容、撮影日程の詳細など報告をします。
『テレビCM』の放映希望日程から逆算した日程になっています。

この内容に基づき、広告主側も“撮影の立ち合い”など社内の調整をしなければいけません。

「これで本当に制作しちゃいますうよ。いいですね!」という段階です。
このタイミングで広告主側とも最終契約をすることになるでしょう。

 

⑥テレビCM制作

 

プレゼンで最終確認が取れたら撮影に入ります。
撮影場所の撮影許可、タレントに対する撮影日程の確保なども完璧に整っています。

海外で撮影であれば、悪天気を想定した予備日の設定、宿泊場所の確保、飛行機などの交通機関の確保、警備員の確保、現地スタッフの確保なども全て準備しなければいけません。
ちょっとしたミスも許されません。

プロデューサー、ディレクター、スタイリスト、ヘアメイク、美術、カメラマン、照明、音声、警備員などで何人必要なのか。
そして広告主側は何人同行するのか?そのチケットと宿泊施設の確保など作業は膨大です。
これだけでも数百万の費用が必要になります。事前に海外でも現地視察もしているでしょう。
事前の現地視察だけでも100万では足りません。

ノウハウのない中小の広告代理店では到底対処できる内容ではありませんね。

多くの準備をして、ようやく撮影が実施できるのです。

 

⑦オフライン編集

 

撮影が終了したら、『オフライン編集』という段階になります。
『オフライン』というのは広告業界では良く聞く言葉です。
最終的な本編集(完成版の編集)前の段階の事です。

 

いわゆる予備の編集です。
音楽やナレーションなど数パターン編集して、どのCMを確定版とするか広告主に了解を取る為の作業です。

 

 

⑧決定版のプレゼン

オフライン編集した放映素材を広告主に見てもらいます。
プロジェクターを使用しながら、数パターンをチェックしてもらいます。
広告主側も決定権のある役員含めて多数のの方が参加します。

宣伝部だけではなく、事業部、営業など多くの関係者が参加するでしょう。

宣伝部にとっても、自分達の作品を見てもらうのと同じです。
社内向けのプレゼン機会として緊張する場面です。
広告代理店と宣伝部が協力しあいながら準備することになるでしょう。

宣伝部は単純に発注しているだけでは無いのです。
高額な会社のお金を投入する訳けですので、このような場面に向けて大変な社内調整をしていることを理解しなければいけません。

ここで、広告主側の了解を取ったら最終版のCMの仕上げの段階に入ります。

 

 

⑨仕上げ編集

 

無事に広告主の了解を取ったら、最終版として仕上げの段階に入ります。

 

⑧の段階で広告主側から出た最後の希望を入れて完成させます。

 

 

⑩完成試写

 

CMが完成したら『完成試写』を実施します。
広告主に対して「これで放映しますね!」という本当に最後の段階です。

事前に確認をしていますので、「はい。分かりました!お疲れ様でした!」となるでしょう。

 

 

⑩テレビCM放映

これでようやく放映です。
ターゲットに合わせて放映するテレビ局、時間帯などを確定していきます。

テレビ局によるクライアント審査、放映内容の審査も同時に実施します。
大手広告代理店では、どのような素材はNGなのか。
分っていますので、余程の事がない限りNGにはなりません。

というか、この段階で審査がNGになったら、出禁で済む問題ではありません。
裁判問題です。

番組提供なのか?スポット放映なのか?
最初に設定した放映ボリューム(3000GRPなど)を効果的に消化していきます。

 

まとめ

 

『テレビCM』で制作した素材はテレビだけで放映する訳ではありません。
シネアド(映画館での放映)、駅のデジタルサイネージ、大型ビジョン、インターネットの動画広告などでも放映されることは珍しくありません。

タレントとは放映すると想定できるメディア全てで契約しておくことも必要です。
テレビCMだけで契約していると、あとで広告主が交通広告を実施したいとしても使用できないみたいな面倒なことになります。

広告代理店は様々なことを想定した「用意周到」さが重要です。
「それは契約してませんでした」では信頼を一気に失うことになります。

また、余談ですがテレビCMに出演しているタレントの洋服は全てスタイリストが選択しています。
注意して見てください。その多くは結構地味な洋服です。

「なぜ、この色なんだろう?」「なぜ、このデザインなんだろう?」「なんで、こんな地味な洋服なんだろう?」
という視点で見るとテレビCMも興味深く見ることができます。

スタイリストが選んだ理由が分ってきます。

「企業カラーと一致しているんだな」
「最も商品を引き立たせる色なのかな」
「衣装が目立っても意味がないしな」
「タレントを引き立たせる色なのかな」などなど色々と気が付きます。

撮影場所も同様です。
「これどこで撮影したのだろう?」
「天気いいな。この天気になるのに数日掛かったかもな」と様々な観点から見てください。
天候の為の予備日も数日必要だと分かります。


広告業界の関係者は漠然とテレビCMを見てはいけません。その裏側を見る習慣をつけましょう!

 

テレビCMの基本的な流れを説明させていただきました。テレビCMの制作には膨大な作業が必要です。
制作過程での予定外の出費も相当額になります。

請求書に具体的に記載できない雑費のような経費がどうしても必要になるのです。
広告代理店側も数百万以上のマージンがないとやってられません。

『テレビCM』の制作に数千万の費用が必要になるのも当然なのです。

テレビCMは、15秒から30秒という短い時間で終わってしまいますので、
多くの手間が掛かっていないように思いがちですが、

実際は、短い15秒の中に、莫大な人数と費用を掛けて完成されているのです。

 

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