「テレビはもう終わった」
広告業界でも、日常会話でも、このような言葉を聞く機会が増えました。
確かに、若年層のリアルタイム視聴は減り、インターネット広告費はテレビ広告費を大きく上回っています。スマートフォン、YouTube、Netflix、TVer、SNS、ショート動画が生活者の時間を奪っているのも事実です。
しかし、だからといってテレビが完全に終わったと考えるのは早計です。むしろ現在起きているのは、テレビの消滅ではなく、テレビの定義そのものが変わっているということです。
この記事の結論
テレビは終わったのではありません。ただし、「地上波をリアルタイムで見るもの」としてのテレビは確実に弱くなっています。一方で、TVer、コネクテッドTV、見逃し配信、スポーツライブ、SNS連動によって、テレビは「放送+配信+大画面動画+同時体験」のメディアへ再定義されています。
テレビを取り巻く現在地:広告費と視聴行動で見る変化
まず、テレビを感覚論ではなく数字で見てみます。
2025年の日本の総広告費は8兆623億円となり、4年連続で過去最高を更新しました。その中でインターネット広告費は4兆459億円となり、総広告費に占める構成比は50.2%と初めて過半数に達しています。
一方、テレビメディア広告費は1兆7,556億円で、前年比99.7%とほぼ横ばいでした。つまりテレビ広告は急激に崩壊しているわけではありませんが、広告市場全体の成長を牽引しているのは、もはやテレビではなくインターネット広告です。
| 項目 | 最新状況 | 広告業界への意味 |
|---|---|---|
| テレビメディア広告費 | 2025年は1兆7,556億円、前年比99.7% | 大きく伸びてはいないが、依然として巨大な広告市場 |
| インターネット広告費 | 2025年は4兆459億円、総広告費の50.2% | 広告市場の中心は完全にデジタルへ移行 |
| テレビメディア関連動画広告 | 2025年は805億円、前年比123.3% | 放送局コンテンツのデジタル広告価値は成長中 |
| TVer | 2026年1月に月間4,470万MUB、月間動画再生数6.3億再生 | テレビ番組は放送後も配信で接触される時代へ |
| CTV視聴 | TVerのCTV再生は2026年1月に2.1億再生 | テレビ画面がデジタル動画広告の重要な接点に変化 |
この数字を見ると、テレビは「終わった」というより、広告市場の中で立ち位置が変わっていると考える方が正確です。
「テレビ離れ」は本当か?
テレビ離れは、確かに起きています。
特に若年層では、決まった時間にテレビの前に座って地上波を見る習慣が弱くなっています。情報収集はスマートフォン、娯楽はYouTubeやTikTok、ドラマや映画はNetflixやAmazon Prime Video、地上波番組はTVerで後から見るという人も増えています。
博報堂メディア環境研究所の「メディア定点調査2025」でも、スマートフォンの接触時間は1日165.1分で過去最高となっています。一方で、テレビの接触時間は122.1分で、かつてのように圧倒的な存在ではなくなっています。
重要な見方
テレビ離れとは、「映像コンテンツ離れ」ではありません。生活者はむしろ、以前より多くの映像を見ています。変わったのは、地上波をリアルタイムで見る割合、視聴デバイス、視聴タイミングです。
テレビ離れで弱くなったもの
- 若年層の地上波リアルタイム視聴
- 家族全員で同じ番組を見る習慣
- 世帯視聴率だけで広告価値を説明する考え方
- 番組表に合わせて生活者が行動する視聴スタイル
一方で残っているテレビの価値
- スポーツ、災害、ニュース速報などのリアルタイム性
- 大画面で視聴される動画広告としてのインパクト
- 高齢層・ファミリー層への安定したリーチ
- TVerやCTVを通じた放送後の接触
- SNSで話題化する番組コンテンツの拡散力
TVerとCTVがテレビの意味を変えた
現在のテレビを考えるうえで、TVerとコネクテッドTVは外せません。
TVerは、もはや単なる「見逃し配信サービス」ではありません。民放各局の番組を横断的に届ける、放送局発のデジタル動画プラットフォームです。
さらに重要なのは、TVerがスマートフォンだけでなく、テレビ画面でも見られていることです。コネクテッドTVの普及によって、生活者はテレビ受像機で地上波だけでなく、TVer、YouTube、Netflix、ABEMAなどを自由に選んで視聴するようになりました。
つまり、テレビ画面はこう変わっています
- 昔:地上波・BSを見るための画面
- 現在:地上波、TVer、YouTube、Netflix、ABEMAなどを選ぶ大画面デバイス
- 広告視点:テレビ画面は、放送広告とデジタル動画広告が交差する接点
広告主にとっては、「地上波CMか、ネット動画広告か」という二択ではなくなっています。大画面でブランドを見せたいのか、若年層に配信で届けたいのか、放送とTVerを組み合わせて接触回数を増やしたいのか。その設計が重要になっています。
広告主は、もう視聴率だけを見ていない
かつてテレビ広告の評価は、番組視聴率やGRPを中心に語られていました。
もちろん、今でも視聴率や到達率は重要です。しかし現在の広告主は、それだけでは納得しにくくなっています。
なぜなら、テレビCMを見た後に検索する、SNSで話題になる、TVerで再接触する、店頭やECで購買するというように、広告接触後の行動が複雑になっているからです。
これから重視される評価軸
- 世帯視聴率ではなく、個人視聴率・コア視聴率
- リアルタイム視聴だけでなく、タイムシフト・総合視聴
- TVerの再生数、完走率、視聴デバイス
- SNSでの話題化、検索数、指名検索の増加
- テレビCM接触後のサイト流入、来店、購買への影響
広告代理店が押さえるべきポイント
今後のテレビ提案では、「視聴率が取れる番組です」だけでは弱くなります。どのターゲットに届くのか、TVerやCTVでどう補完するのか、SNSや検索にどうつなげるのかまで設計して、初めて広告主に説明できる時代です。
テレビ広告の強みは何か
テレビ広告の最大の強みは、今でも「一気に認知を作れること」です。
ネット広告は細かくターゲティングできますが、逆に言えば、配信対象が細かく分かれすぎることがあります。生活者全体に対して、同じタイミングで同じメッセージを届ける力は、テレビの方がまだ強い場面があります。
テレビ広告が今でも向いているケース
- 新商品や新サービスの認知を一気に広げたい場合
- 信頼感や安心感を重視する商材
- 高齢層やファミリー層に広く届けたい商材
- スポーツ、ニュース、年末年始などの大型コンテンツと連動したい場合
- Web広告やSNS広告の前に、ブランド認知の土台を作りたい場合
ただし、テレビ広告を単独で考える時代ではありません。テレビで認知を作り、検索で受け止め、SNSで話題化し、TVerやYouTubeで再接触し、店頭やECで購買につなげる。この流れを設計する必要があります。
テレビ局にとっての課題
テレビ局にとって最大の課題は、放送収入だけに依存したビジネスモデルの限界です。
視聴者の接触時間が分散し、若年層がリアルタイム視聴から離れ、広告主がデジタル指標を重視する中で、従来の「番組を作り、広告枠を売る」だけのモデルは厳しくなっています。
一方で、テレビ局には強い資産もあります。制作力、報道機能、出演者、番組IP、地域ネットワーク、社会的信頼、スポーツや大型イベントの中継力です。
テレビ局が今後強化すべき方向性
- 放送とTVerを一体で販売する広告商品設計
- 番組IPを活用したイベント、EC、SNS展開
- 地域局ならではのローカル情報・地域企業支援
- ニュース・報道の信頼性を広告価値に変える設計
- テレビ画面だけでなく、スマホ・SNS・音声・リアルイベントへの展開
テレビ局は、放送局であり続けるだけでは厳しくなります。これからは、映像コンテンツを軸にした総合メディア企業として再設計できるかが問われます。
広告代理店はテレビをどう提案すべきか
広告代理店にとって、テレビは今でも重要な提案メニューです。
しかし、昔のように「テレビCMを出しましょう」「この番組が取れます」「このGRPです」だけでは、広告主の納得を得にくくなっています。
特に若い広告担当者やデジタルに強い企業ほど、テレビ広告に対して次のような疑問を持ちます。
- 本当にターゲットに届くのか
- テレビCMを見た人が行動したか分かるのか
- YouTubeやTVerの方が効率的ではないのか
- SNSで話題にならなければ意味が薄いのではないか
- テレビCMに大きな制作費をかける意味はあるのか
これからのテレビ提案に必要な視点
- テレビ単体ではなく、デジタル連動で設計する
テレビCM、TVer、YouTube、SNS、検索広告、LP、店頭施策を一体で考える必要があります。 - 視聴率だけでなく、ターゲット到達で説明する
世帯視聴率ではなく、個人視聴率、コア視聴率、ターゲット含有率を意識することが重要です。 - 放送後の行動を設計する
テレビCMを見た後に検索される言葉、誘導先、SNS投稿、キャンペーン導線まで準備する必要があります。 - ブランド価値と短期成果を分けて説明する
テレビは短期CPAだけで評価すると弱く見える場合があります。認知、信頼、指名検索、店頭想起などを含めて評価すべきです。 - CTV広告やTVer広告を組み合わせる
地上波で広く認知を作り、TVerやCTVで補完接触することで、テレビの弱点を補いやすくなります。
今後の予測:テレビはどう変わるのか
今後のテレビは、次のように変わっていくと考えられます。
- 地上波リアルタイム視聴はさらに選別される
何となくテレビをつける時間は減り、ニュース、スポーツ、大型特番、話題番組など「今見る理由」がある番組に視聴が集まりやすくなります。 - TVerとCTVの重要性がさらに高まる
放送後にスマホで見る人、大画面テレビで配信を見る人が増え、広告商品も放送と配信のセット設計が進みます。 - テレビCMの評価はデジタル指標と接続される
検索数、サイト流入、SNS反応、来店、購買データなどと組み合わせて、テレビの効果を説明する流れが強まります。 - 地方局は地域メディアとしての再定義が必要になる
全国ネット番組だけでなく、地域企業、自治体、イベント、観光、災害情報と結びついた価値が重要になります。 - テレビ局は番組会社からコンテンツ企業へ変わる
番組を放送するだけでなく、配信、SNS、イベント、EC、ファンコミュニティへ展開する力が問われます。
まとめ:テレビは終わったのではなく、単独メディアではなくなった
テレビは終わったのでしょうか。
答えは、半分はイエスで、半分はノーです。
「家族が同じ時間にリビングで地上波を見る」「世帯視聴率だけで広告価値を語る」「テレビCMを流せば広く認知が取れる」という時代は、確実に終わりに近づいています。
しかし、テレビ番組、テレビ画面、放送局コンテンツ、ライブ性、大画面動画広告の価値はまだ残っています。むしろTVerやコネクテッドTVの成長によって、テレビはデジタル広告市場の中に組み込まれつつあります。
これからの正しい見方
テレビは「終わったメディア」ではありません。テレビ単独で完結する時代が終わったのです。これからは、テレビを放送、配信、SNS、検索、OOH、店頭、ECとつなげて考える広告設計が求められます。
広告主も広告代理店も、「テレビを使うか、使わないか」ではなく、「テレビをどの接点と組み合わせれば、最も効果的に機能するのか」を考える必要があります。
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