インターネット広告がテレビを超えて主役の座に就いてから数年、広告の世界は“自動化”と“データ活用”をキーワードに進化を遂げています。
その波は屋外広告にも活用されるようになり、今や「プログラマティックDOOH(デジタルアウトオブホーム)」という言葉が登場するほどになりました。
しかし、ここで改めて考えなければいけないのは、「屋外広告とは本来、何を重視すべきメディアなのか?」ということです。
プログラマティックDOOHとは何か?
「DOOH(デジタル屋外広告)」をオンライン接続し、広告の取引や配信を自動化するのがプログラマティックDOOHです。
従来、広告主は個別の媒体社に申し込み、入稿、スケジュール調整をしてきましたが、今では一つのプラットフォームで複数の媒体を一元管理できる時代になりました。
Liveboard(※下記にてリンクあり)や、その他の国内外プラットフォームが代表例で、位置情報データを活用した属性推定や通行量データなどをもとに広告配信が最適化されます。
プログラマティックDOOHのメリット
プログラマティックDOOHには、広告主にとって以下の4つのメリットがあると考えられます。
- 広告取引の自動化:入稿から配信、入札まで一括管理。人的コスト削減。
- ターゲティング配信の柔軟性:時間帯・地域・属性に応じて広告を出し分けられる。
- データによる可視化:位置情報と統計処理により、広告が届いた可能性のある“層”を定量把握できる。
- 新たな在庫供給:ネット広告の飽和に対し、DOOHが新たな接点を提供。
しかし、現場感覚から見た“落とし穴”
プログラマティックDOOHには利便性の一方で、実際の運用現場においていくつかの重要なデメリットが存在します。以下に主な4つの課題を挙げます。
- 掲出場所を自分で選べない:視認性が低い場所や目立たないスクリーンに自動配信されるケースも。
- ターゲティング偏重によるOOHの本質喪失:街中での“イメージ訴求”“ブランディング”が後回しになりがち。
- リアルタイム性に限界:キャリアデータは数週間〜数か月遅れ。天候やイベントなど当日の人流変化は加味されない。
- 配信事業者主導:時間帯や場所の選定が事業者の都合に寄ることがあり、広告主の意図と乖離する恐れも。
広告主の“意図”とメディアの“現実”の乖離
屋外広告の強みは「この場所で見せたい」という明確な意志に基づいたメディア設計にあります。
しかし、プログラマティックDOOHでは、画面サイズやロケーション、視認環境を自由に選べないことも多く、結果として“見えにくい”場所での配信になってしまうことが発生します。
たとえば、データを重視するあまり、ビルの高所のような物理的に視認性が悪いロケーションでもターゲット属性に合致すれば自動配信されてしまう。

これは「ネット広告的発想」がOOHに過剰に持ち込まれた結果であり、ブランド広告主にとっては致命的なミスマッチを招くことになります。
今後の展望:融合か、分離か
5GやAI、ARなどの技術進化によって、プログラマティックDOOHの可能性は広がると見られています。
- AIによる条件付き広告切り替え(天候や人流のトレンドデータに応じて広告内容を事前ルールで変更。完全なリアルタイム対応には現状限界がある)
- ARを活用したインタラクティブOOH(通行人がスマホをかざすことでコンテンツと連動)
- 個人の行動履歴や属性に応じて内容を変えるパーソナライズOOH(プライバシーへの配慮も求められる)
こうした未来像は魅力的ですが、忘れてはいけないのは「OOHは街に存在するメディア」であるということ。見える場所に、見せたい内容を、見せたい相手に届ける。──この本質を外さない限り、技術との融合もきっと意味ある進化になります。
結論:プログラマティックDOOHは“手段”であって“戦略”ではない
効率化や可視化は広告主にとって魅力ですが、広告の成果を決めるのはあくまで「どこに、何を、どう見せるか」です。
インパクト、イメージ、空気感・・・これらを軽視した配信は、いくらデータで整えても人の心には届きません。
2025年現在、プログラマティックDOOHは進化の途中にあります。だからこそ、広告主自身が「自社にとってこの手法は適しているのか?」を見極め、手段と目的を履き違えないことが、よりよい選択につながるのです。