広告代理店の未来は明るいのでしょうか。
この仕事をしている人ほど、簡単には「明るい」と言えないかもしれません。
広告主は以前より多くの情報を持ち、媒体社へ直接相談することもできます。
Web広告は自社で運用できます。
広告コピーや企画書、画像、動画までAIで作れる範囲が急速に広がっています。
「それなら、広告代理店はいらなくなるのではないか」
そう考える人がいても不思議ではありません。
ただ、広告市場そのものを見れば、話は少し違います。
2025年の日本の総広告費は8兆623億円。過去最高を更新しました。
インターネット広告費だけでも4兆459億円あります。
広告がなくなっているわけではありません。
広告代理店に求められる仕事が変わっている。
こちらの方が、今起きていることに近いと思います。
広告市場は縮小していない。むしろ過去最大になっている
まず、広告業界の現在地を確認しておきます。
電通「2025年 日本の広告費」によると、日本の総広告費は8兆623億円。
前年比105.1%で、4年連続の過去最高となりました。
| 広告分野 | 2025年 | 前年比 |
|---|---|---|
| インターネット広告費 | 4兆459億円 | 110.8% |
| マスコミ四媒体広告費 | 2兆2,980億円 | 98.4% |
| プロモーションメディア広告費 | 1兆7,184億円 | 102.0% |
| 総広告費 | 8兆623億円 | 105.1% |
特に大きいのがインターネットです。
2025年には初めて4兆円を超え、総広告費に占める割合も50.2%となりました。
広告費の半分以上がインターネットになったわけです。
さらに2026年のインターネット広告媒体費は、3兆5,840億円まで伸びると予測されています。
市場はあります。
むしろ大きくなっています。
だから問題は、「広告の仕事がなくなるか」ではありません。
昔と同じ広告代理店の仕事が、そのまま残るか。
こちらを考えた方がいいでしょう。
広告代理店の価値は「広告を仕入れること」から離れていく
以前の広告代理店は、広告主が簡単には持てないものを持っていました。
媒体情報。
料金。
広告枠。
制作会社とのネットワーク。
調査データ。
専門的な広告運用の知識。
だから広告主は代理店へ相談する必要がありました。
現在は違います。
媒体資料の多くはインターネットで調べられます。
Web広告は広告主自身でも出稿できます。
SNSも自社で運用できます。
そしてAIを使えば、企画のたたき台、コピー、画像、調査、分析など、以前なら専門スタッフへ依頼していた作業の一部まで自社でできます。
この流れは止まらないでしょう。
つまり、
「媒体を知っている」「広告を手配できる」「制作できる」だけでは、代理店としての価値が出にくくなっています。
ここは、中小代理店にも大手代理店にも共通する問題です。
一方で、広告は以前より複雑になっている
ここが面白いところです。
広告主自身でできることは増えました。
ところが、広告そのものは簡単になっていません。
むしろ選択肢は増えています。
検索広告、SNS、動画、インフルエンサー、テレビ、OOH、DOOH、イベント、EC、PR、コンテンツ、CRM。
しかも、それぞれをバラバラに実施するのではなく、つなげて考える必要があります。
例えば街頭ビジョンへ広告を出して終わりではなく、そこで撮影した映像をSNSへ展開する。
SNSで話題を作り、リアルイベントへ誘導する。
動画広告から検索へつなぎ、ECで購入してもらう。
広告主にとって選択肢が増えた結果、
「広告を出すこと」より、「何を組み合わせるか」を決めることの方が難しくなっています。
ここには広告代理店の仕事が残ります。
AIによって厳しくなる仕事と、逆に価値が上がる仕事
AIは広告代理店にとって大きな変化です。
ただ、「AIで広告代理店がなくなる」というほど単純でもありません。
AIによって価値が下がりやすいのは、答えが比較的決まっている作業です。
- 企画書のたたき台を作る
- 広告コピー案を大量に出す
- 画像案を作る
- 情報を整理する
- レポートをまとめる
こうした作業は、これからさらに速く、安くなるでしょう。
一方で、AIに任せにくい仕事もあります。
- 広告主が本当に困っていることを見つける
- 複数の選択肢から何をやらないか決める
- 媒体社や制作会社と条件を調整する
- 予算と現実の間で企画を成立させる
- トラブルが起きたときに判断する
広告の現場では、資料通りに進まないことも珍しくありません。
媒体の空きがない。
審査に通らない。
予算が足りない。
納期に間に合わない。
広告主の希望と媒体条件が合わない。
こういうときに代案を考え、関係者を動かして着地させる。
この「実務を成立させる力」は、AIが普及するほど逆に目立つ価値になると思います。
中小広告代理店や個人にもチャンスがある理由
ここまでを見ると、大手代理店しか生き残れないようにも見えます。
私は、必ずしもそうは思いません。
大規模なキャンペーン、全国規模のメディアバイイング、大量のデータ処理など、大手広告代理店だからこそできる仕事は当然あります。
中小代理店が同じ土俵で戦っても勝ちにくいでしょう。
しかし、すべての広告主が巨大キャンペーンを必要としているわけではありません。
むしろ中小企業や特定業界では、
「自分たちの商売を理解してほしい」
「予算の中で現実的な方法を考えてほしい」
「困ったときにすぐ相談したい」
という需要があります。
この仕事なら、会社の大きさだけでは決まりません。
広告主との距離の近さ、判断の速さ、専門性。
こうしたものが武器になります。
「何でもできます」より「この分野なら分かる」の方が強い
中小代理店にとって、これから特に重要になるのが専門性だと思います。
広告媒体は誰でも検索できます。
広告商品そのものでは差がつきにくくなっています。
それなら、媒体ではなくクライアント側を深く知る方が強い。
不動産に強い。
採用広告に強い。
インバウンドに強い。
BtoB企業に強い。
OOHに強い。
海外企業の日本進出に強い。
業界や課題を絞るほど、単なる媒体手配会社ではなくなります。
広告主から、
「この案件なら、まずあの会社に聞いてみよう」
と思い出してもらえるからです。
何でもできます、という代理店は便利です。
しかし、何でもできる代理店は世の中にたくさんあります。
これからは「何ができるか」だけではなく、「何なら他社より深く分かるのか」が重要になるでしょう。
小さい会社ほど、AIは積極的に使った方がいい
AIについては、中小代理店や個人ほど積極的に使うべきだと思います。
理由は単純です。
人が少ないからです。
営業をしながら、企画書を作る。
媒体を調べる。
見積もりを作る。
メールを書く。
広告案を考える。
少人数の会社では、一人がいくつもの仕事を抱えます。
AIによってその作業時間を圧縮できれば、大手と同じ人数を抱える必要はありません。
ただし、AIが作ったものをそのまま納品するだけでは、いずれ価格競争になります。
AIは価値そのものではなく、仕事を速くする道具です。
浮いた時間を、クライアントを理解することや、企画を考えること、現場を動かすことに使えるか。
こちらの方が重要です。
逆に、これから厳しくなる広告代理店
市場が拡大しているからといって、すべての広告代理店の未来が明るいわけではありません。
特に厳しくなるのは、
- 媒体を右から左へ流すだけ
- クライアントより情報を持っていない
- 企画や分析を外注へ丸投げする
- 昔からの取引だけで仕事が続くと思っている
- AIや新しい広告手法を使わない
といった会社でしょう。
以前なら「広告代理店だから知っている」というだけで価値がありました。
今は広告主も検索できます。
AIにも聞けます。
だから代理店側が、広告主より少し詳しい程度では足りません。
調べれば分かる情報ではなく、経験しなければ分からない判断を持っているか。
ここで差がつくようになります。
これからの広告代理店に必要な5つの力
2026年以降を考えると、広告代理店に必要なものはかなりシンプルです。
- クライアントの商売を理解する力
- 得意な業界・広告領域を持つこと
- AIを使って仕事を速くすること
- オンラインとリアルを横断して考えること
- 最後まで案件を成立させる実務力
全部を自社で抱える必要もありません。
デザイナー、映像会社、媒体社、運用会社、インフルエンサー、イベント会社。
必要な人と組めばいい。
小さな広告代理店にとって重要なのは、大手代理店を小さくコピーすることではありません。
小さいからこそできる仕事の形を作ることです。
まとめ|広告代理店の未来は「明るい」ではなく「まだ大きなチャンスがある」
広告市場はなくなっていません。
2025年の日本の広告費は8兆623億円で、過去最高です。
これだけ大きな市場がある以上、広告に関わる仕事そのものが消えるとは考えにくいでしょう。
ただし、広告代理店というだけで仕事が来る時代は終わりつつあります。
媒体を知っている。
広告を手配できる。
企画書を作れる。
それだけなら、広告主自身やAIでもできる範囲が広がっています。
その一方で、広告の選択肢は増え、広告主の判断は難しくなっています。
だからこそ、
何をやるべきかを考え、必要な人を集め、実際に成立させる。
この役割は残ります。
大手には大手の強みがあります。
中小には中小の強みがあります。
個人にも、専門性と実務経験があれば戦える場所があります。
広告代理店の未来が自動的に明るいわけではありません。
しかし、変化に合わせて仕事の価値を変えられる会社にとっては、まだ十分に大きなチャンスが残っている業界だと思います。

