※本記事は、2015年に公開された内容をもとに、2025年時点の最新情報と現場の変化を踏まえて大幅に再構成・加筆した最新版です。屋外広告の効果測定に関する現在の技術や課題、今後の方向性について、最新の視点から再整理しています。
「本当に見られているのか?」という“疑念”から始まる屋外広告
屋外広告における最大の課題は、「実際にどれだけ見られているのか?」という疑念です。
インターネット広告のようにクリック数やCV数といった明確な指標がなく、広告主にとっては“見えにくいメディア”でした。
しかし、2025年現在、スマートフォンの位置情報、AI解析、カメラ画像認識などの技術進歩により、従来よりも正確な「視認可能数」や「インプレッション数」の把握が可能になってきています。まだ課題は多く残っていますが、屋外広告の効果測定は着実に進化を遂げつつあるのが現状です。
本記事では、過去の方法と最新の取り組み状況、そして今後の展望について詳しく解説します。
1. 従来の効果測定方法と課題
サーキュレーション×注目率
屋外広告の基本的な測定式は、
サーキュレーション(通行量) × 注目率 = 到達人数(推定)
という形で表されます。ここでのサーキュレーションは、近隣駅の乗降客数や通行量の参考データを用いることが多く、実際の「視認範囲」に基づいたデータとは限りません。特に地方では数年も前の統計データが使われているケースも多く、広告主の信頼を得るには不十分でした。
※補足:近隣駅の乗降客数や通行量が、そのまま該当する屋外広告の前を通行するわけではなく、あくまでも「参考値」に過ぎないというのが従来の慣習でした。この点が、屋外広告の効果測定における根本的な曖昧さの一因でもあります。
屋外広告調査フォーラムの評価指数
日本では1999年に「屋外広告調査フォーラム」が発足し、
- 媒体サイズ
- 視認角度
- 高さ
- 照明の有無
などを数値化し、評価指数(Visibility Index)として効果を定量化する仕組みが登場しました。
このフォーラムは、大手広告会社や調査会社、媒体社などで構成され、屋外広告の効果を「見える化」するための基準づくりを目的として活動しています。媒体の特性を数値評価することで、広告主が定性的な印象ではなく、定量的な指標に基づいて出稿判断を行える環境を目指してきました。
しかし、これも広く導入されるには至らず、広告出稿判断の材料としては限定的な活用に留まっていました。
2. 2025年現在の測定手法:位置情報×AIの時代へ
位置情報データを活用したサーキュレーション測定
現在の主流は、スマートフォンのGPSデータを用いた位置情報分析です。特に以下のような企業が中心となって活用が進んでいます:
- NTTドコモ:モバイル空間統計(位置情報データ提供)
- LIVEBOARD:広告配信は2カ月前の累計インプレッション提供(広告メディア運営と視認数推定を兼ねる)
- クロスロケーションズ:人流アナリティクス®(位置情報分析プラットフォーム)
- ジオテクノロジーズ:リアル人流モニタリング®(視認範囲に特化した人流可視化ツール)
これらは、媒体の視認範囲に「滞在」した人数を把握でき、従来の乗降客数ベースよりもはるかに正確な推定が可能になっています。
AIによる視認解析・カメラ連携
さらに、ビジョン近辺に設置されたカメラの映像解析を活用し、「実際に何人が視線を向けたか」「立ち止まったか」まで推定できる技術も登場しています。これにより、到達人数からエンゲージメント率への展開も視野に入るようになりました。
この技術は、AIを活用して映像から人物の顔の向きや動きを解析し、広告への視線の有無や、立ち止まって視認している時間などを可視化するものです。顔認識ではなく、顔の方向や群衆の動きをベースにした推定であるため、個人を特定することなく行動分析が可能とされています。
※ただしこの手法にはいくつかの課題があります。第一に、広告側に専用のカメラを設置する必要があるため、初期投資や設置場所の確保が必要です。第二に、解析データを収集・運用するためのサーバー環境や月々のランニングコストが発生し、媒体側・広告主双方にとって一定のコスト負担が伴います。さらに、天候や混雑状況によって精度にバラつきが生じる可能性もあるため、万能な手法ではないという現実も存在します。
3. 屋外広告の未来:リアルとデジタルの融合
インプレッション保証型へのシフト
LIVEBOARDなどでは、広告出稿時にインプレッション保証の概念が導入され始めています。これにより、放映回数ではなく、「どれだけの人に届いたか」が評価基準となるため、広告主にとっては投資対効果の透明性が向上します。
プログラマティックDOOH(pDOOH)の拡大
リアルタイムの人流データに基づき、混雑度・属性(年齢層・性別)に応じて広告内容を差し替えるプログラマティック配信も進行中です。
※プログラマティック配信とは、あらかじめ設定した条件(人の多さ、属性、天気、時間帯など)に応じて、屋外ビジョンに表示する広告をリアルタイムで切り替える仕組みを指します。インターネット広告の自動入札やターゲティング技術を屋外広告に応用したもので、特にDOOH(Digital Out Of Home)領域で導入が進んでいます。
これにより、天候・時間・人流に応じた出稿が可能になり、屋外広告は静的メディアから動的・状況対応型メディアへと進化していくことが予想されます。
4. データ重視とインパクト重視のバランスをどう取るか?
テクノロジーの進化により、データに基づく広告配信が可能になった一方で、屋外広告の本質的な魅力である「大画面によるインパクト」が軽視されるケースも出てきています。
特に、ブランドイメージの強化や印象の刷り込みといった目的においては、巨大ビジョンや目抜き通りの看板による“圧倒的な存在感”が重要な役割を果たします。
このような場合、データによる最適化配信では測れない“印象価値”が重視されるため、従来型の「ロケーション主義」や「景観インパクト重視」のメディア選定も、引き続き有効な考え方となります。

広告主の目的が「即時反応」なのか「ブランド浸透」なのかによって、選択すべき指標やメディアは大きく異なります。すべてを数値で測るのではなく、目的に応じた出稿戦略の柔軟さが重要です。
結論:広告主は何を重視すべきか?
2025年以降の屋外広告では、
- 媒体選定の根拠(人流・視認性・実績)
- インプレッションや視認データの透明性
- リアルタイムでの最適化運用の可否
といったデータドリブンな視点が欠かせません。
一方で、ブランド認知や印象形成といった目的においては、従来型のロケーション主義や、インパクトを重視した掲出戦略が依然として有効です。巨大ビジョンでの象徴的な掲出は、無意識下でのブランド浸透において非常に強力な武器となります。
すべてを数値で判断するのではなく、「反応を狙うデータ設計」と「印象を残すクリエイティブ設計」の両軸を持つことが、これからの屋外広告に求められる戦略です。
これからの屋外広告のプランニングにおいて、広告主・代理店としては、単に目立つ場所に掲出するのではなく、目的に応じて「届け方」と「残し方」を戦略的に選び取る設計力が問われくることになるでしょう。
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