2019年、電通とNTTドコモが出資し設立された「LIVE BOARD」
それは、屋外広告(OOH)の“デジタル化”と“可視化”を同時に推進する新たな挑戦でした。資本金50億円という本気度、そして日本初となるインプレッションベースのDOOH(デジタルアウトオブホーム)販売モデルは、多くの注目を集めました。
この記事では、「LIVE BOARD」が目指した構想と現実、そして2025年現在の課題と展望を整理していきます。
「LIVE BOARD」が目指したもの
LIVE BOARDの目的は明快でした。
- 携帯キャリアデータ(ドコモのモバイル空間統計)を活用し、広告視認の「インプレッション」を定量化
- その数値に基づいて広告枠を販売する「インプレッション型DOOH」モデルの確立
- 従来のアナログなOOH業務(手作業、人的営業、効果不明)をデジタルで自動化・効率化
- 広告枠の購入から入稿・運用までをオンライン完結可能にするプラットフォームの構築
このように、OOHの「取引」「配信」「効果測定」を根本から変える試みでした。
取り組みの具体像と技術的基盤
LIVE BOARDの事業構想には、以下の要素が含まれています。
- 複数のDOOH媒体を横断的に購入可能なオンラインプラットフォーム
- ドコモのモバイル空間統計®を活用した通行量・属性データの可視化
- 5G対応による高画質・低遅延配信の実現
- DOOHとスマートフォンの連動による新たな体験型広告の模索
これらは確かに魅力的な構想ですが、同時に実現には多くの技術的・インフラ的ハードルも伴っていました。
広告主にとってのメリットと違和感
LIVE BOARDが提唱する「視認数=広告価値」という考え方は、ネット広告と同様に“データで測れる安心感”を広告主にもたらします。
- 従来ブラックボックスだったOOHの広告効果を、数値で把握可能に
- インプレッション単価で広告枠を購入可能に
- 配信・運用をオンラインで完結可能に
一方で、「場所を選べない」「画面サイズや目線距離などの物理的価値が軽視される」という、OOH本来の強みに反する設計に懸念があるのも事実です。
広告主にとってOOHは、単なる接触数ではなく「どの街で」「どの場所に」「どう目立つか」が重要な要素です。

LIVE BOARDの仕組みはこの「空間価値」を軽視しかねない面もあり、ブランド広告主にとっては相性の良し悪しが分かれる構造になっています。
DOOH事業者にとっての功罪
LIVE BOARDに参画するDOOH運営会社側のメリット・デメリットもはっきりしています。
つまり、自社面と提携メディア面が混在しており、それぞれのインプレッション数の算出や内訳が明示されていないという“ブラックボックス”な側面が存在します。
そのうえで、事業者側のメリットとしては以下が挙げられます:
- 営業力に課題のある事業者には大きな販売支援となる
- 視認数の可視化により、価格交渉の武器にもなり得る
一方で、
- すでに自社営業で枠が売れている運営会社にとっては販売権を一部手放す構造
- LIVE BOARD経由では広告料率が下がる懸念もあり、収益性にはばらつきが出る可能性がある
- インプレッション数の算出方法や自社面・他社面の比率が不明瞭な点に不安を感じる事業者も存在しており、信頼性の確保が今後のカギとなる
このように、LIVE BOARDの仕組みはDOOH事業者にとっても“諸刃の剣”です。営業リソースの補完や可視化データの提供といった利点がある一方で、プラットフォーム主導による透明性と主導権のバランスをどう取るかが、今後の信頼構築と継続的な連携において鍵となるでしょう。
2025年現在の評価と展望
2025年時点で、LIVE BOARDのモデルは徐々に業界に浸透しつつありますが、以下のような課題も依然残ります。
- インプレッション数が「推定」であり、リアルタイムではないこと
- ブランドイメージ訴求に適した媒体とマッチしづらいケースがあること
- 優良な視認環境でのサイネージ設置が追いついていないこと
一方で、媒体社・広告主双方が“可視化された屋外広告”への理解を深めてきており、オンライン広告と組み合わせた「統合メディア設計」としての活用が進んでいる面もあります。
結論:LIVE BOARDは変革の第一歩である
LIVE BOARDは、OOHに「データ」と「効率性」をもたらした先駆けです。
しかしその真価は、デジタル化そのものではなく、「OOHの価値を再定義」するきっかけを生んだことにあります。
屋外広告は“どこで見せるか”という文脈や空間性が命です。LIVE BOARDはその本質とデジタル技術をどう折り合い、進化させていけるのか。
まだ道半ばですが、屋外広告の未来にとって極めて重要なプレイヤーであることは間違いありません。
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