リテールメディアの未来予測:その成長の秘密とは?

広告業界トレンド・未来予測

リテールメディアとは?

リテールメディアとは、『小売業者が自社の店舗内やオンラインプラットフォームを活用して広告を展開するメディア』のことです。近年では、店頭のサイネージやECサイト、アプリなどを媒体として、購買データに基づいた広告展開を行うことが特徴です。

2022年頃から国内外で注目され、広告代理店も力を入れ始めており、特に電通や博報堂といった大手代理店は、専任部門の立ち上げや小売企業との連携による新規事業開発など、積極的な姿勢を見せています。2025年現在も成長が続く分野です。

 

なぜ今、リテールメディアが注目されているのか?

Cookie規制、テレビ離れ、オフラインとオンラインの融合といった変化の中、小売が保有するファーストパーティデータの活用が価値を増しています。

また、広告効果の可視化やターゲティング精度の高さから、広告主にとっても費用対効果の良い投資対象となりつつあると言えます。

 

リテールメディアの利点とは?

  • 顧客の購買履歴や行動データに基づいたターゲティング広告が可能
  • EC・アプリ・店頭などマルチチャネルでの一貫した訴求
  • クーポン配信や商品推薦を通じた購買意欲の喚起
  • 小売業にとって新たな収益源となる

つまり、リテールメディアは「顧客データを活用し、適切なタイミングで適切な情報を届ける」ことで、広告としての成果を高めながら小売企業の収益拡大にも寄与する仕組みです。

 

 

こうした理論を実際に成果へとつなげている事例として、次にイオンの取り組みを紹介します。

 

成果事例:イオンのアプリ施策

イオンリテールは、「イオンお買物アプリ」を通じて、会員に向けたパーソナライズドクーポンや広告を展開。アプリ経由のクーポン利用率は週110万件以上に達し、キャンペーン対象商品の売上は平均162%増と、大きな効果を上げています。

 

日本のリテールメディア市場規模(最新)

  • 2021年:90億円
  • 2022年:135億円(前年比50%増)
  • 2024年:350億円(推定)
  • 2026年予測:約805億円

2021年から2026年の5年間で、約9倍の成長が予測されています。

拡大の背景には、2020年以降のコロナ禍によってEC利用が一気に普及したことが大きな要因として考えられます。消費者の購買行動がオンラインシフトしたことで、小売業者はオンライン広告やアプリなどを通じて新たな接点を持つ必要に迫られました。

これに対応する形で、流通業界全体のデジタル化が進み、ファーストパーティデータを活用したリテールメディアへの関心が急速に高まったのです。加えて、広告主側でもCookie規制などの背景から、精度の高いターゲティングが可能な環境を求める声が強まり、結果としてこの市場は急成長を遂げています。

グローバル市場の動向

  • 2023年世界市場規模:約20兆円
  • アメリカ:2023年で6兆円(前年比+57.3%)→ 2025年には7兆円超え予測

アメリカでは、AmazonやWalmart Connect、Target Roundelなどのプレイヤーが牽引しています。

これほどまでにグローバル市場、特にアメリカの規模が大きい理由にはいくつかの要因があります。まず、アメリカのリテール企業は早い段階からeコマースとデジタル広告の融合に注力しており、ファーストパーティデータの活用環境が既に整っていたことが挙げられます。

また、アメリカではWalmartやTargetなどの大手小売業者が、自社プラットフォームをメディア化する取り組みを積極的に進めており、広告主が膨大な購買データに基づいた高精度のターゲティングを行える環境が整っています。

一方で日本は、個人情報保護意識の高さや、流通業界のデジタル化の立ち上がりがやや遅かったこともあり、欧米と比べて導入スピードに差が出ています。ただし、近年ではイオンやセブン&アイ、楽天などの企業が本格的に参入を始め、追随する形で成長を遂げつつあります。

成長を支える5つの要因(国内外に共通する背景)

  1. ECサイトの普及:購買データの蓄積と活用が可能に。
    • グローバルではAmazonやWalmartなどが膨大な購買データを蓄積し、それを広告に活用している点が特徴。日本でも楽天やイオンが同様の取り組みを進めているが、スケールの面ではまだ発展途上。
  2. データドリブンマーケティングの普及:顧客の購買履歴や行動データなどの具体的な情報に基づいて広告施策を設計・運用する考え方のこと。これにより広告効果の可視化や、施策の精度向上が実現できる。
  3. オムニチャネル戦略の浸透:店頭とデジタルの一貫訴求
  4. パーソナライズ広告への需要増:顧客の広告ストレスを軽減
  5. 小売の新たな収益源:広告枠販売によるマネタイズ。
    • 特にアメリカでは、小売業者がメディアとして広告収入を本格的に事業化しており、WalmartやCVSなどが広告ネットワークを構築。日本ではドラッグストアやGMSの一部がこれに続いており、今後の収益構造変革のカギとなる。

国内外の代表的プレイヤーと活用例

Amazon(米)

検索・購買履歴からの精緻なターゲティング広告。広告売上はMetaやGoogleに次ぐ規模。

楽天(日本)

楽天ポイントと連携した広告モデル。検索・購買データをベースに高いLTV設計。

イオン(日本)

アプリ+店頭POP+電子レシートによる施策で、広告効果と売上を同時向上。

セブン&アイ(日本)

アプリ+店頭のサイネージ連動でタイムリーなプロモーションが可能。

CVSヘルス(米)

店舗のサイネージや会員プログラムを通じた健康関連広告に注力。

マツモトキヨシ(日本)

アプリ・会員カードを通じたパーソナライズクーポン施策が活発。

上記のように、国内外の有力企業が自社の強みを活かしてリテールメディアを展開しています。それぞれの取り組みからは、データの活用方法やチャネル選定、パーソナライズ戦略など、さまざまなヒントを得ることができます。

リテールメディアのメリット・デメリット

リテールメディアが急成長しているとはいえ、すべての関係者にとって無条件でメリットがあるわけではありません。ここでは、それぞれの立場から見た利点と課題を整理しておきましょう。

小売企業にとって

  • ✅ 顧客接点の強化/新たな収益源
  • ❌ 専門人材や運用ノウハウの不足、プライバシー管理の難しさ

広告主にとって

  • ✅ 購買に直結した広告効果/精度の高いターゲティング
  • ❌ 店舗数や展開エリアに依存し、拡張性に課題も

広告代理店にとって

  • ✅ 顧客の販促支援における新たな提案領域
  • ❌ 媒体社直販が増えると、代理店の役割が減少する可能性も

広告代理店が取るべき戦略とは?

広告代理店にとっても、リテールメディアの台頭はチャンスとリスクが混在する状況です。直接取引の増加などによる影響もありますが、逆に広告主や小売業者が抱える課題に対し、専門的な知見や戦略的提案で貢献できる領域も広がっています。

  • プラスαの戦略提案:来店誘導・コンテンツ設計・クリエイティブなどの付加価値を提供
  • 業界特化とパートナーシップ戦略:ドラッグストア/アパレルなど特定業種への深堀り
  • データ解析やAIの活用支援:広告主やリテール側に不足しているリソースの提供

リテールメディア:まとめ

リテールメディアは、広告市場の新しい中心地として確実に成長を続けています。広告主にとっては売上直結のチャネル、小売業者にとっては新たな収益源、代理店にとっては付加価値提案の場となります。

2025年以降、さらに多くの企業がこの分野に参入することが予想され、今後の広告戦略において欠かせない存在となるでしょう。

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